第51話、南シナ海海戦


 異世界帝国戦艦の戦艦2隻が、側面からの集中雷撃を受けて沈没した。


 正面から右方向に集中していただろう帝国北方部隊にとっては、突然の戦艦の轟沈は、まったくの想定外だった。


 日本海軍第九艦隊旗艦『妙義』でも、神大佐は、強敵となる戦艦との交戦を覚悟し、緊張を隠せずにいた。だから、この突然の事態に驚きを隠せなかった。


「神明大佐! 今のは一体……?」

「重雷装巡洋艦からの雷撃だ」


 潜水機能を有する潜水型巡洋艦『九頭竜』からの、誘導魚雷攻撃であると神明は答えた。


「我々の脱出を阻む敵に備えて、用意していた切り札だ」


 本当は、敵東洋艦隊本隊に使う予定ではあったが。


「これで、この戦場において最大口径の砲を持つ艦は、大型巡洋艦である本艦に移った」


『妙義』は30.5センチ砲を持つ一方、敵の残りは重巡洋艦と軽巡洋艦、そして駆逐艦である。隻数の差はあるが、こと単艦の火力で比較した場合、大型巡洋艦である『妙義』が最大となる。


「正木、主砲は先の対空戦で装填された障壁弾か?」

『はい、大佐』


 正木初子は答えた。


『二斉射分が、対空障壁弾となります』

「では、試射がてら、敵軽巡洋艦の艦列、その先頭に障壁弾を叩き込め!」

『了解しました』

「通信長、『鈴鹿』と『水無瀨』に、敵最右翼の駆逐艦隊を砲撃するように指示」


 矢継ぎ早に、神明が命令を出す。


『妙義』は面舵を切り、敵軽巡洋艦列――軽巡4、駆逐艦2の針路に対して、その頭を取る。


 一方、『妙義』に後続していた軽巡洋艦『鈴鹿』と駆逐艦『氷雨』は取り舵を取って、加速しはじめた敵駆逐艦6隻に備える。


 こちらは2対6に見えるが、海面下を潜水型巡洋艦『水無瀨』と駆逐艦『海霧』『山霧』が直進しているので、実質5対6となる計算だ。


 なお、ネルソン他鹵獲艦群は、防空駆逐艦『青雲』『天雲』が護衛についていて、砲撃戦から迂回するように運動している。


 単艦となった『妙義』は、左舷側に主砲を旋回。間もなく、敵先頭との距離が2万メートルに縮まろうとしていた。


「主砲、撃ち方始め!」


 全門斉射である。砲撃誘導を行う初子の能力もあるが、直撃しなくても効果を発揮する障壁弾なので、ある程度集束すればそれでよい。


 果たして放たれた30.5センチ砲弾は、敵先頭の軽巡洋艦に向かって降り注ぎ、至近を水柱が取り囲んだ。


 うち一発が敵メテオーラ級軽巡の艦首側2番砲塔を貫通して、機関部で爆発した。さらに周囲に落ちた障壁弾が障壁を展開。海を割って水を飛散させながら光の膜を展開した。


 あまりに派手だったため、後続を行く軽巡の二番艦――『キオーン』の艦長以下乗組員は、一瞬状況がわからなかった。


 まさか初弾から命中したのか? ラッキーパンチを食らって轟沈したのか、訝しみ、飛沫と水柱が収まって、前の艦が見えるようになるまで注視してしまった。


 結果、艦体を引き裂かれて、洋上停止してしまった前の軽巡が、『キオーン』に迫っていることに気づくのが遅れた。


「面舵一杯っ!!」


 キオーン艦長が叫ぶが、最大戦速を出していた軽巡洋艦は、回避しきれず衝突してしまった。


 右へ回頭していたため、先頭艦の後部が、『キオーン』の左舷に当たり、速度が出ていた分、ゴリゴリと艦体を削る。対空砲が潰れ、抉れ、食い込んだ僚艦は機関を圧迫し、爆発。黒煙と共に、『キオーン』の後部が粉微塵に吹き飛んだ。


 慌てたのは後続する僚艦である。


 三番艦『セラス』が面舵を切り、四番艦『ブロンテー』もそれに続いた。一、二番艦を回避した直後、『妙義』からの砲撃が、煙を突き抜けて、三番艦の艦首に集中、水柱を突き上げさせた。


 展開される光の膜に、『セラス』は艦首から衝突。前進する力により、それ以上進めないにも関わらず進み続けた結果、艦首は潰れ、またズタズタになった。行き足が完全に止まる頃には、艦首砲塔の弾薬庫が圧縮され、信管が入ってしまった砲弾が爆発した。


 まるで風船のように弾け飛ぶ軽巡『セラス』。四番艦は、さらに面舵を続けて僚艦の巻き添えを回避した。


 だがその結果、『ブロンテー』は大回りすることになり、戦列から離れてしまうのだった。



  ・  ・  ・



 その頃、軽巡洋艦『鈴鹿』は、接近する敵駆逐艦6隻に対して、取り舵を取り、14センチ連装自動速射砲、全砲門である三基六門を向けた。


 この砲は1分間に15発の発射が可能であり、5500トン級の14センチ砲、人力装填、1分間10発の1.5倍の発射速度を誇る。


 つまり4秒に1発発砲し、それが6門である。1分間に90発が、標的となった駆逐艦に撃ち込まれるのだ。


 相手が巡洋艦ならば、少々頼りない14センチ砲弾も、装甲などあってないような駆逐艦では、この矢継ぎ早の砲撃に耐えられるものでもなく、瞬く間に蜂の巣にされて沈んでしく。


 単縦陣で動いていた駆逐艦隊は、先頭艦に続き、二番艦、三番艦と順番に的にされていき、さすがに四番艦以降は、陣形を崩し、それぞれ突撃に移った。


 だが、そこへ海中から、潜水巡洋艦『水無瀨』、駆逐艦『海霧』『山霧』が浮上し、『鈴鹿』とは逆サイドから、異世界帝国駆逐艦に主砲――『鈴鹿』と同じ14センチ連装自動速射砲を発砲。『海霧』『山霧』も55口径12.7センチ単装速射砲を猛烈な勢いで連射した。


 斜め前方からの十時砲火に、たちまち残る駆逐艦3隻も血祭りにあげられる。


 この時点で、残っている異世界帝国北方部隊は、重巡洋艦2、軽巡洋艦1、駆逐艦6隻。


 そして『鈴鹿』『水無瀨』隊が、駆逐艦隊を撃滅した頃、軽巡洋艦『ブロンテー』の後ろに続いていた駆逐艦2隻が、撃破された軽巡戦隊の煙を盾に飛び出して『妙義』に突撃を敢行した。


 だが、『妙義』は15センチ速射副砲と、12.7センチ連装高角砲で迎撃。15センチ砲弾が障壁弾だったこともあり、1隻は光の膜に激突し沈没。もう1隻も艦体を障壁で傷つけられたところを、高角砲に矢継ぎ早に撃たれて航行不能となった。


 副砲と高角砲が、駆逐艦を相手にしている間、『妙義』の主砲は敵重巡洋艦へと向く。

 異世界帝国のプラクス級重巡洋艦は、基準排水量1万5000トン、全長210メートルと重巡洋艦としては大型である。50口径20センチ連装砲五基と、15センチ単装砲四門で武装している。


 世界水準でも砲撃力は高いのだが、相手はさらに格上の30.5センチ砲搭載の大型巡洋艦『妙義』である。


 攻撃力、防御力で段違いの上、遠距離砲撃において驚異的な命中率を誇る砲弾制御まで交えられては、勝ち目はなかった。素人が、ヘビーパンチャーの一撃でノックダウンしてしまうように、大人げないほどの差があったのだ。


 重巡洋艦を超える超重巡洋艦に名に相応しく、大型巡洋艦『妙義』はその存在意義を遺憾なく発揮し、重巡洋艦を駆除したのであった。

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