第49話、煙突内収納兵器


 大型巡洋艦『妙義』は、魔法式機関を搭載している。


 魔力によって動くこの機関は、排煙の必要がないため、これを搭載している艦艇には煙突は不要なものとなっている。


 マ式潜水艦がその最たるものだが、潜水巡洋艦や潜水駆逐艦、そして『妙義』にも煙突に相当する部位が装備されている。


 これは何なのか?


 水上艦艇を再生した名残か? 否、誘導弾の垂直発射管と、排煙擬装からの煙幕展開装置が、この煙突部位に仕込まれている。


 被弾の際の危険カ所を増やしているようにも見えるが、各種魔法防御装備や装甲により、重要区画並みの耐久性があるので、心配は無用である。


 もちろん、これらの防御を抜けてくる攻撃もあるのだが、そのレベルが直撃すれば、そこがどんな場所だろうが関係なく致命傷になるので、気にするだけ無駄である。


 なお、異世界帝国の艦艇も、魔法式機関なので、彼らの軍艦にも煙突がなかったりする。


 閑話休題。


 煙突内部に装備された一式対艦誘導弾の防護板が開き、発射状態となる。発射ブザーが、『妙義』に響く。


「対艦誘導弾、一番から四番、発射!」

撃ててぇっ!』


 神明大佐の号令を受け、煙突部下部の開口部より煙が吹き出し、対艦誘導弾が順次発射された。


 艦橋にある誘導弾制御所より、誘導管制が行われて、四発の誘導弾が上昇から、敵艦隊のいる北東方面へと飛んでいった。


「続いて、『鈴鹿』より、対艦誘導弾三発、発射!」


 軽巡洋艦の『鈴鹿』からも、煙突部分から対艦誘導弾が放たれる。


『こちら、妙義一番』


 艦橋に、無線機を通して正木妙子の声が入る。


『対艦誘導弾、第一波四発。続いて第二波、三発を確認。これより誘導を引き継ぐ』

「こちら『妙義』誘導指揮所、了解」

『「鈴鹿」誘導指揮所、了解』


 対艦誘導弾の引き継ぎ作業が行われる中、神明の横に、神大佐は聞いた。


「この引き継ぎというのは?」

「攻撃目標が、巡洋艦の指揮所から見えないからな」


 地球は丸い。高い場所ならば遠くまで見えるが、巡洋艦の高さでは、視認できる範囲にいない敵空母は、当然わからない。『妙義』や『鈴鹿』から魔力を用いた誘導で対艦誘導弾を導くにしても、相手が見えなければ当てられない。


「戦艦の砲撃と同じだ。艦が見えないのなら、観測機を出せばいい」

「なるほど、弾着観測と同じですね」


 砲術畑の人間である神は、その例に納得した。


 一式水戦によって、対艦誘導弾が導かれている。流れる煙によって方向を変えたのがわかるが、もう誘導弾は、『妙義』などから見えなかった。



  ・  ・  ・



 異世界帝国東洋艦隊の別動隊こと、北方部隊は、セレターより戦艦群を奪った日本艦隊を捕捉していた。


 2隻の戦艦『ボルボロス』、『アントラクス』の後ろに、戦艦とよく似た外観の重巡洋艦が2隻、駆逐艦2隻が単縦陣で続く。


 その右舷側には軽巡洋艦4隻と駆逐艦2隻、こちらも単縦陣で航行し、さらに右舷側に駆逐艦が6隻が、海面に航跡を刻んでいる。


 旗艦『ボルボロス』の司令艦橋にて、テタルティ少将は各隊に指示を出す。


「戦艦隊は、敵大型巡洋艦を叩く。軽巡洋艦と駆逐戦隊は、残る敵軽巡と駆逐艦を撃滅せよ!」


 鹵獲艦艇を除けば、敵はわずかに5隻のみ。空母から放った第一波攻撃隊が全滅したのが気になるが、報告より隻数が少ないので、数隻を血祭りに上げたのだろう。


「司令、空母部隊は如何致しますか?」


 先任参謀が問うた。


「敵には空母はいません。こちらも少数ですが、攻撃させますか?」

「無用だ。今の戦力でも過剰なくらいだ」


 テタルティは、きっぱりと告げた。


「だが、一応、攻撃隊は用意させておけ。何かの間違いで敵を取り逃がしたら、面倒だからな」


 万が一にも砲撃圏外に逃がしてしまうようなことが起きた時に、追撃できるように待機させておく。


「それより、面倒なのは、鹵獲艦をどう取り戻すか、だがな」

「修理途中でしたから、砲弾は積まれていないはず。砲撃はできないはずですから、進路を塞いで、降伏を――」


 参謀とテタルティが話している時、異変が起きた。


「敵艦隊より、飛翔体!」


 見張り員の報告。その糸のような煙を引く飛翔体は、航空機よりも速く飛んでいく。そしてその先には――


「飛翔体は、空母群に向かっています!」

「退避だ! 後退させろ!」


 テタルティは叫んだが、もはや手遅れだった。


 回避のために旋回を始めた中型空母『トロコス』、軽空母『ケリドーン』に、飛翔体こと、一式対艦誘導弾が迫った。


 護衛の駆逐艦が対空光弾を発砲。空母も対空光弾砲を発射し、一発を撃破に成功。しかし三発が、中型空母の艦体に吸い込まれ、巨大な爆発を発した。


「『トロコス』が……!」


 遠くからでも、轟沈と形容するしかないほどの爆発で、中型空母の姿が消えた。


 一式対艦誘導弾の威力は、長門級戦艦の41センチ砲のそれに匹敵し、空母の比較的薄い装甲では耐えられなかったのだ。


 貫通し、艦内で爆発したそれは、搭載した航空機や爆弾、魚雷の誘爆を招き、あっという間に海の藻屑となった。


 呆気にとられている間に、続く対艦誘導弾三発が、軽空母『ケリドーン』に命中する。中型空母よりさらに装甲の薄い軽空母は、右舷艦体を貫き、内部を引き裂き、左舷側を貫きかけたところで爆発した。


 軽空母は三つに分断され、それぞれ海に飲み込まれた。


「くっ……」


 テタルティは唇を噛んだ。この地球世界に、このような飛翔兵器があったとは……!


「全艦、敵艦隊へ突撃せよ! 最大戦速っ! 空母群の仇討ちだ!」

「司令、しかし、敵はまたあの飛翔兵器を使って――」

「そうだ。我々はあの武器の射程にすでに入っている! ここで背を向ければ、狙い撃たれるかもしれん!」


 テタルティは、彼我の位置関係から、後方にいた空母群がやられたことでそれを理解した。


「無様にやられるよりも、前進だ!」


 異世界帝国北方部隊は、速度を上げて突撃を開始した。

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