第27話、戦力集結


 九頭島に勤務する海軍の兵は、海軍に志願したものの試験に落ちたり、身体条件が足りずに落とされたりしたのを、拾い上げて採用された者たちが大半だった。


 それを教えてくれた神明大佐は――


『魔技研に関わる部分は、海軍にも秘密も多かったからな。頻繁に人を入れ替えられても困るから、こちらで非正規ルートで囲い込んだんだ』


 志願者に関しては、掃いて捨てるほどいた。徴兵の年齢の前に、一足先に軍に志願しようとする者は後を絶たなかったのだ。


 家を継ぐ長男はともかく、手に職をつけないと生きていけなくなる次男、三男が、泥臭い陸軍を嫌って、海軍に志願するというのはよくある話であった。


 そしてその中でも上位者が海兵団に入ることができるわけだが、志願者の数が多い故にかなりの人数が不合格とされる。


 魔技研は、そんな不合格とされた者たちの、さらに上位に近い者や魔力適性がある者を拾い上げていたのだった。


 一度落とされているだけに、ちゃんと給料が出て、海軍に務められるなら、何やらおかしなオカルト部署が近くにあろうとも、志願者たちは特に気にしなかった。中には、むしろよく採用してくれたと感謝していた者もいた。


 閑話休題。


 九頭島海軍魔法学校は、スカウト担当が全国を巡って、魔力の高い者を見つけてきて、教育していた。

 その教育は通常の海軍のそれの他に、適性に合わせて魔法装備の運用方法を学ぶ。


 一口に能力者と言っても、得意不得意は存在する。能力として使える魔法の技も、これはできるけど、それはできない、というのが人によって異なった。


 むしろ、それが一般的だ。全ての魔法を使える者などいない。魔法エリートである初子でもそうである。


 この九頭島に着任して、須賀は勉強の一環で、魔法学校を見学していた。


 艦艇勤務組、航空機搭乗組、魔法機械整備・開発組など、専門に分かれていて、大半が女子、一部男子がいる、という構成だった。……須賀のように、男でも魔力適性が高い者もいたのである。


 初子と妙子――正木姉妹は、この学校の卒業生である。初子は艦艇組だが、妙子は、艦艇組と航空組の二つを修得している。


 能力の高さは初子だが、妙子は突き抜けていないが、高レベルにバランスよくまとまっている感じなのだ。


 なお、空母『ザイドリッツ』で会った宮内中尉は、この学校の航空組の卒業生なのだそうだ。彼女が率いる桜隊も、ほぼ同じく魔法学校の航空組で構成されている。


 須賀は、この魔法学校で、生徒たちの訓練を目の当たりにした。


 念波、あるいは思念で、兵器を誘導する者。


 遠隔操作で、複数の機械を同時に動かす者。


 触らずに重量物を浮かせる者。


 目を閉じたまま周囲にあるものを感知する者。


 見えない壁を発生させて盾にする者。


 ……何だか、ビックリ人間大集合みたいなものも少なくなかったが、これぞ魔法というものもいくつかあった。


「練習すれば、いくつかはできるようになりますよ」


 魔法教官に、そのように言われた須賀は、曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。


 飛行機を魔法で浮かせられるとか、見えないシールドで銃弾を弾くとか、できたら凄いとは思うが、自分にできるとは思えなかったのだ。


 とはいえ、この見学は、魔技研の装備を実際に使ってみた時の予行演習になって助かった。


 やはり、学校の勉強はちゃんと役に立つのだ――と、3時間程度しか、見学していない男は言うのである。


 そうやって、須賀は魔技研と九頭島の生活に慣れていった。


 一式水上戦闘攻撃機(仮)にも乗せてもらえたが、多かったのはム四号駆逐艦を使っての操艦訓練。どうも近いうちに発動される作戦で必要になるとか云々。


 ――俺を駆逐艦長にでもするつもりなのか……?


 訝しみながらも、時は流れて4月も後半。須賀は神明大佐から呼び出された。


「新しい作戦が発動される。実戦だ」


 いつものように淡々と、神明は告げた。


「貴様にも重要な役回りがある。働いてもらうぞ」


 ところで――と大佐は聞いてきた。


「銃は使えるな?」



  ・  ・  ・



 その日、九頭島軍港には、軍令部――実質、魔技研が主導する作戦に参加する部隊が集結した。


 神明は、軍港を見渡せる司令部の窓から、それらを一望する。


 超甲巡とも言われる大型巡洋艦『妙義』と『生駒』。


 特設試験空母『翔竜』。


 軽巡洋艦『鈴鹿』『九頭竜』『水無瀨』。海霧型駆逐艦『海霧』『山霧』『大霧』に、青雲型駆逐艦『青雲』『天雲』『冬雲』『雪雲』、氷雨型駆逐艦『氷雨』。


 さらに魔技研独自の潜水艦技術が用いられているマ号潜水艦部隊。


 そして、その中にあって一際目立つのが、大型空母と見まがう大船。


 全長270メートルに近いその長さは、帝国海軍の軍艦の中でも最長であろう。正規空母にも似たシルエットながら、その艦橋は簡素さが見てとれる。


 人によっては、横からのシルエットが、潜水艦のようにも見えるというかもしれない。


 その艦の名は『鰤谷ぶりたに丸』。海軍の類別では、特務艦となっている。もちろん、魔技研が関わっている以上、まともなところから出た船ではない。

 何せ『前世』は、たった一発の機雷で沈没した、元豪華客船だったのだ。


 本格的な空母にしたら、さぞ海軍は喜んだだろう巨体を持つ鰤谷丸は、ある意味空母であるが、神明が立案したセレター軍港強襲に必要不可欠な機能を持った船だった。


 逆に言えば、鰤谷丸があったからこそ、この作戦を実行に移せる、であった。


「――揃いましたね」


 神明の背後から正木初子の声がした。大方、頼んでいた書類を持ってきたのだろうが、神明は振り返らなかった。


「ああ、本土から陸軍の連中を運んできた」

「魔研、ですか」


 初子が神妙な調子で言った。


 魔研――陸軍魔法研究所。陸魔研とも呼ばれるその組織は、読んで字の如く、日本陸軍における魔法技術研究機関だった。


 陸軍と海軍は仲が悪いのは、日本に限らず世界の陸海軍の多くがそうだが、こと海軍の魔技研、陸軍の魔研は比較的友好関係にあり、互いの研究交換や装備の融通などを図ってきた。


 魔技研が主に軍艦と航空機、海戦が主であるのに対して、魔研が戦車や砲や銃といった兵器、陸戦主体で装備や研究を進めていた。


 そして互いに重なる部分については、研究と結果をすり合わせて、より効果の高いものを作っていく関係にあった。そこには対立ではなく、よい意味でのライバル関係が存在していた。


『陸ではいまいちだけど、海軍さんは使う?』

『海じゃ安定しないけど、安定した陸地なら……陸さん、どう?』


 などなど――余所の部署が聞いたら憤慨しそうなほど、積極的に交流がもたれていた。


 今回、セレター軍港強襲にあたって、九頭島の陸戦隊の他、陸軍の魔研が保有する実戦部隊も参加することになっていた。


 必要な駒は、揃った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

〇魔技研艦艇=改装前の旧艦名


・大型巡洋艦

「妙義」=(独戦艦カイザー)

「生駒」=(英戦艦モナーク)


・実験空母

「翔竜」=(独戦艦カイゼリン)


・軽巡洋艦 

「鈴鹿」=(海防艦見島=アドミラル・セニャーヴィン+露海防戦艦アドミラル・ウシャコフ)

「九頭竜」=(阿蘇=装甲巡洋艦バヤーン)

「水無瀨」=(津軽=防護巡洋艦パルラーダ)


・駆逐艦

「青雲」=(防護巡洋艦「吉野」)

「天雲」=(防護巡洋艦「高砂」)

「冬雲」=(防護巡洋艦「千歳」)

「雪雲」=(防護巡洋艦「利根」)

「海霧」=(露防護巡洋艦スヴェトラーナ)

「山霧」=(露防護巡洋艦ボヤーリン)

「大霧」=(露装甲巡洋艦ヴラジミール・モノマフ(素材A)

「氷雨」=(防護巡洋艦の余剰の装甲・資材などを素材にした実験艦)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る