第3話、トラック沖海戦
ムンドゥス帝国こと、異世界帝国太平洋艦隊は、ハワイ方面から進撃し、マーシャル諸島を空襲すると、一路トラックへと進撃していた。
すでに、ニューギニア方面からの攻撃に備えて、先行していた第二艦隊と第一航空艦隊に、山本五十六長官率いる第一艦隊が合流した。
なお、トラック島は、先月末より、異世界帝国のものと思われる重爆撃機の空襲を継続的に受けていて、第四艦隊がすでに撤退。航空基地も被害が出て、まともな航空支援は望めない状況である。
敵大艦隊、迫る――ほぼ無力化したトラック島を占領しようという動きだろう。連合艦隊は断固阻止する構えである。
敵の正確な位置と戦力を掴むべく、果敢な偵察活動が行われたが、飛び込んできた報告は、連合艦隊司令部を大いに困惑させた。
「どういうことだ……?」
第一報によれば、敵戦艦1、重巡洋艦20、大型空母5ほか、小型艦40ほどとあった。
「戦艦がたった1隻?」
これは先遣隊か――連合艦隊内で、この奇妙な編成に意見が交わされる。
「空母が5隻いるのだから、空母機動部隊ではないか?」
「しかし重巡洋艦20とは、空母部隊にしては些か変ではないか?」
「これが異世界流の艦隊編成ではないか?」
などなど。
直後、第一航空艦隊から発艦した二式艦上偵察機から第二報が入る。
『敵は大型戦艦1、戦艦20、大型空母5、巡洋艦10、ほか駆逐艦およそ30』
「戦艦20……!」
これには当然、連合艦隊司令部は騒然となった。位置の報告は、第一報と一致している。つまり別の艦隊ではない。
だが、第一報との大きな違いは、重巡洋艦20隻ではなく、戦艦が20隻だと通報してきたところだ。
どちらかが誤認している。日本軍は、異世界帝国の情報に乏しい。その艦型についても、ほとんどわかっていないというのが実情だ。
何せ異世界帝国が現れるまで、他の列強国との関係が悪化しており、すでに異世界人と交戦しているイギリス、アメリカなどからもほとんど情報が入ってきていなかったのだ。
「注目すべきは、二式艦偵が、大型戦艦1と報告したことだ」
宇垣参謀長は、かすかに眉をひそめた。
「この『大和』を前にすれば、他の戦艦が巡洋艦にも見えると言われる。敵の大型戦艦が、我が大和型に匹敵する大戦艦であり、他の戦艦を巡洋艦と誤認したという可能性もあるのではないか?」
「だとすると、敵艦隊には戦艦は20隻、いや21隻もあるということですか……?」
参謀たちが息を飲む。三和義勇作戦参謀は口を開いた。
「どうだろうか? いきなり重巡洋艦が戦艦にひっくり返るなどあり得るのか。そもそも21隻もの戦艦というのが疑わしい」
「二式艦偵が誤認している?」
「我々が持つ敵の情報が少な過ぎます。正確な艦型も不明な以上、もしかしたら戦艦と重巡洋艦がよく似ていて、見分けをつけられていなかった可能性もあります」
「つまり、戦艦か重巡洋艦か、ではなく、両方がごっちゃになっていると?」
山本が言えば、三和作戦参謀は頷いた。
「ドイツのアドミラル・ヒッパー級重巡は、ビスマルク級戦艦やシャルンホルスト級戦艦に意図的に似せた外観にし、誤認を誘う設計と耳にしました。敵もこのパターンをやっているかもしれません。それに、艦隊の編成を考えた場合、戦艦と重巡が半々ならちょうどよいとは思いませんか?」
「なるほど」
参謀たちが同意するように頷いた。宇垣と黒島は、本当にそうかなと疑問に思ったが、否定する材料もなく口を閉ざした。
「どちらにしろ、戦艦か重巡かよりも、まずは敵空母群を黙らせるのが先決だと思います」
三和は、一同をぐるりと見回してから、山本を見た。その山本もしばし海図を眺め、そして頷いた。
「南雲君に連絡。第一航空艦隊は、敵艦隊へ攻撃隊を発艦させよ」
命令はただちに発令された。
第一艦隊から離れた海域を東進していた第一航空艦隊、旗艦である空母『赤城』では、南雲忠一司令長官が、連合艦隊司令部からの命令を受け、すでに準備の整っていた第一次攻撃隊を出撃させた。
ハワイ、真珠湾を叩くべく練成を重ね、しかし対米戦がなくなったために、今回が第一航空艦隊としての初実戦となる。六隻の空母から、大陸で鍛え上げられた熟練のパイロットたちが操る機体が次々に発艦する。
零式艦上戦闘機、九九式艦上爆撃機、九七式艦上攻撃機の大編隊が、一路敵艦隊へ向かって飛び立った。
・ ・ ・
ムンドゥス帝国第1艦隊――通称、帝国太平洋艦隊は、日本連合艦隊と対決すべく、西進中であった。
艦隊旗艦は、メギストス級大型戦艦「アナリフミトス」。全長290メートル、排水量は6万9000トンと、日本海軍が最強を自負する大和型よりも大きい。
主砲は、50口径43センチ四連装砲を艦首と艦尾に背負い式に2基ずつ、計4基装備する。サイズこそ大和型より1ランク下がるが、砲身長が長く、砲門数16門と強力だ。
別名旗艦級とも言われるメギストス級の司令塔に、帝国太平洋艦隊司令長官グラストン・エアル大将はいた。
身の丈2メートルに達する巨漢であり、こと元の世界にいた頃から武闘派として知られている。
『前哨より報告!』
「うむ」
司令長官席で頷くエアル。
『200機を超える航空機群、当艦隊に向け、接近中!』
「来たか、地球人」
好戦的な笑みを浮かべ、司令塔側面の戦況図を見やる。報告に従い、第1艦隊に接近する一群が書き込まれる。
傍らに立つ痩身の参謀長――ケイル中将が向き直った。
「如何いたしますか、長官」
「知れたこと。我々の目的は、連中の拠点であるトラック島を制圧することにある。降りかかる敵は、排除するのみ!」
「ハッ! ――空母群へ、戦闘機隊を発進させよ」
帝国太平洋艦隊主力に随伴する5隻のリトス級大型空母は、基準排水量5万トンを超え、全長320メートルと、旗艦級戦艦よりも大きい。その艦載機も、1隻あたり120機を搭載している。
リトス級大型空母の飛行甲板を蹴って、異形の戦闘機が飛び立つ。
レシプロ機ではない。トンボのような胴体。機首にコクピットがあり、垂直尾翼のようなものが機体の下面についている異様さである。
異世界帝国の戦闘機が発艦作業を進める中、旗艦『アナリフミトス』では、エアル大将が拳を振り上げた。
「艦隊決戦だ! 敵機が飛来した方向に敵艦隊がいるっ! 機関増速! 同時に前衛隊、敵艦隊発見を急げ!」
帝国太平洋艦隊は速度を上げた。その主力艦隊は、旗艦級戦艦1、戦艦10、重巡洋艦10、軽巡洋艦10、駆逐艦30、空母5となっている。
「我らの世界のため、資源が必要なのだ……」
エアルは司令長官席に深々ともたれた。
「そのために、邪魔者は断固破砕するのみ!」
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