第2話、異世界からの侵略者
第一次世界大戦から時が流れ、1939年、我々の住むこの世界に、異世界からきたというムンドゥス帝国が、世界各国に宣戦を布告、侵攻を開始した。
この突然現れた異世界帝国に対して、世界は半信半疑ではあった。しかし彼らは強力な軍隊を引っさげて、南半球に魔の手を伸ばした。
南米。オーストラリア、南アフリカに相次いで侵攻。これら植民地を持つ国々は、対応に追われる一方、その隙をつくようにヒトラーのナチス・ドイツがポーランドに攻め込み、欧州も戦争へと突入していった。
それが皮肉なことに、ムンドゥス帝国――異世界帝国に利する形となり、1941年頃までに南半球の大陸はほぼ彼らの勢力圏となった。
異世界帝国は、アフリカから地中海、そしてヨーロッパへ攻め込み、オーストラリアから東南アジア一帯へと北上を続けた。
1941年末には、アメリカの太平洋拠点ハワイで、一大海戦が展開され、米太平洋艦隊が壊滅した。
そして1942年3月、異世界帝国は中部太平洋――日本海軍の根拠地のあるトラック諸島へ、大艦隊を進撃させた……。
・ ・ ・
太平洋の波濤を越えて、日本海軍の艨艟が、整然と艦列を組んで進む。
連合艦隊の旗艦は、昨年末に就役したばかりの超弩級戦艦『大和』。世界初の46センチ主砲を三基九門を搭載した、当時世界最大、そして最強の戦艦である。
日本領に侵攻してきた異世界帝国を迎え撃つため、連合艦隊の主力を率いて、トラックへ急行中である。
連合艦隊司令長官、山本
「いよいよ、来てしまったな」
緊張を漲らせた山本は、視線を転じた。
「宇垣君、この大和はどうかね?」
……何故、それを俺に聞くのだろう――連合艦隊参謀長である宇垣
「乗員の練成に若干不安はありますが、士気も高く、必ず成果を出さんと意気込んでおります。また本艦の主砲は、異世界帝国なる軍のフネに後れを取ることはないでしょう」
「……そうか」
山本はそれだけ言うと、再び視線を戻した。
連合艦隊司令部において、山本長官と宇垣参謀長は、もっぱらそりが合わないと言われている。
それは宇垣が大砲屋であり、山本が航空主兵主義者だから……などと言われるが、こと対米戦を検討していた頃は、特にそれが顕著だった。だが今は――正直、それほど変化はなかったりする。
「長官、こちらには世界一の空母機動部隊があります。異世界からの侵略者に、その力を大いに発揮してくれるでしょう」
変人参謀、仙人参謀などと呼ばれることもある黒島亀人先任参謀が、山本に声をかけた。
異世界帝国が現れなければ、いずれぶつかったであろうアメリカ合衆国。その戦いに備え、日本海軍は六隻の空母を集めた第一航空艦隊を編成した。
結局、研いだ爪が合衆国に振るわれることはなかったが、異世界人という敵に、それが向けられることになった。
今回のトラック防衛のために展開する連合艦隊の兵力は以下の通り。
○第一艦隊
第一戦隊:「大和」「長門」「陸奥」
第二戦隊:「伊勢」「日向」「扶桑」「山城」
第六戦隊:「青葉」「衣笠」「古鷹」「加古」
第九戦隊:「北上」「大井」
第一水雷戦隊:「阿武隈」
第二十一駆逐隊:「初春」「子日」「初霜」「若葉」
第二十四駆逐隊:「海風」「山風」「江風」「涼風」
第二十七駆逐隊:「有明」「夕暮」「白露」「時雨」
第三水雷戦隊:「川内」
第十一駆逐隊:「吹雪」「白雪」「初雪」
第十九駆逐隊:「磯波」「浦波」「敷波」「綾波」
第二十駆逐隊:「天霧」「朝霧」「夕霧」「狭霧」
第三航空戦隊:「鳳翔」「瑞鳳」
「三日月」「夕風」
附属:「千代田」「日進」
○第二艦隊
第三戦隊:「金剛」「榛名」
第四戦隊:「愛宕」「摩耶」「高雄」「鳥海」
第五戦隊:「那智」「妙高」「羽黒」
第七戦隊:「熊野」「鈴谷」「最上」「三隈」
第二水雷戦隊:「神通」
第八駆逐隊:「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」
第十五駆逐隊:「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」
第十六駆逐隊:「雪風」「時津風」「天津風」「初風」
第十八駆逐隊:「霞」「霰」「陽炎」「不知火」
第四水雷戦隊:「那珂」
第二駆逐隊:「村雨」「夕立」「春雨」「五月雨」
第四駆逐隊:「嵐」「野分」「舞風」「萩風」
第九駆逐隊:「夏雲」「朝雲」「山雲」「峯雲」
第四航空戦隊:「龍驤」「祥鳳」
第十一航空戦隊:「千歳」「神川丸」
○第一航空艦隊
第一航空戦隊:「赤城」「加賀」
第二航空戦隊:「蒼龍」「飛龍」
第五航空戦隊:「翔鶴」「瑞鶴」
第三戦隊:「比叡」「霧島」
第八戦隊:「利根」「筑摩」
第十戦隊:「長良」
第七駆逐隊:「曙」「潮」「漣」「朧」
第十駆逐隊:「秋雲」「夕雲」「巻雲」「風雲」
第十七駆逐隊:「浦風」「磯風」「谷風」「浜風」
空母機動部隊が編成された結果、従来の米国を仮想敵国としていた頃と編成は異なるが、連合艦隊のほぼ全力を投じた戦力となる。
それだけ、トラック諸島に向かってくる異世界帝国は大艦隊を繰り出してきたのだ。
「今回の戦は、日本海海戦をも上回る大海戦となろう」
山本は、自然と手袋をした自身の左手を見た。日露戦争のおり、少尉候補生として装甲巡洋艦『日進』に乗り込み、日本海海戦に参加。その際に重傷を負っていた。
「果たして、敵はどれほどの力を持っているのか、不明の点も多々ある」
大西洋とシンガポールでイギリスを破り、地中海を暴れ回り、ハワイではアメリカ艦隊をも葬った。その実力を侮ってはならない。
日本にとって、初のムンドゥス帝国艦隊との戦いであり、同時に艦隊決戦である。
皇国の興廃、この一戦にあり、となるか否か。
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