第53話 俺と恋乃ちゃん

 恋乃ちゃんは今、白い色のワンピースを着ている。


 俺の部屋のベッドの前。


「康夢ちゃん、恥ずかしいよ」


「恋乃ちゃんの夏のワンピース姿、とても素敵だ」


 かわいくて、美しい。清楚な少女がここにいる。


「何を言っているのよ、もう」


 顔を赤くする恋乃ちゃん。




 今日は、三学期の始業式の前日。


 冬休みになってからも、大晦日と婚約した元旦以外は、毎日俺の家に来てくれる恋乃ちゃん。


 夜九時には自分の家に帰っているので、同棲はしていないが、こうして朝から好きな人と一緒にいられるのはうれしい。


 ただ俺は、残念に思っていることがある。


 それは、恋乃ちゃんと夏の間に恋人どうしになれなかったこと。


 夏のワンピース姿の恋乃ちゃんとデートをして、恋乃ちゃんを抱きしめたい。


 そういう思いは、抑えてはいたものの、持ってはいた。


 しかし、それは恋人どうしではなく、ただの幼馴染でしかない俺には無理な話だった。


 あきらめるしかなかった。


 それならば、せめて夏のワンピース姿の恋乃ちゃんと一緒に歩くことができたら、という思いもあった。


 しかし、当時は、あいさつすらできない状態。


 一緒に歩くことすら夢の話でしかなかった。


 今は違う。


 俺と恋乃ちゃんは恋人どうし。


 夏のワンピース姿の恋乃ちゃんを抱きしめてもいいだろう。


 しかし、今は冬。


 夏のワンピースを着るまでには、まだ半年もある。


 待つには長すぎる時間だ。


 俺は我慢しようとした。


 しかし、恋乃ちゃんのかわいい夏のワンピース姿を想像すると、心が沸騰してきてしまう。


 俺は我慢できなくなって、恋乃ちゃんに昨日話をした。


「恋乃ちゃん、お願いがあるんだけど」


 恋乃ちゃんを目の前にして、こういうお願いをするのは恥ずかしい。


 でもお願いをしなければならない。


「お願いって?」


「その、夏に着るワンピースってあるじゃない」


「うん。あるよね」


「そのワンピースなんだけど、明日ここで着てくれないかなあ」


「夏のワンピースを、ここで着るの? どうして?」


「俺、恋乃ちゃんの夏のワンピ-ス姿を見たくなったんだ」


「夏のワンピースだったら、その季節になったら着るんだし、見ることができるよ。そこまで待てないの?」


「俺も我慢しようとしたんだ。でも我慢できない」


「もう……。どうして待てないの?」


 恋乃ちゃんはあきれ顔。


「俺、夏のかわいいワンピース姿の恋乃ちゃんと一緒に過ごしたいんだ。すごくあこがれているんだ。当時、俺は、恋乃ちゃんと疎遠だったから、その姿の恋乃ちゃんと一緒に過ごすことができなかったんだ。それが残念でしょうがなくて」


「康夢ちゃん……」


「もちろん今の恋乃ちゃんもかわいい。かわいくてたまらない。でも夏のワンピース姿のかわいらしさも味わいたい。そして、せっかく婚約者どうしになったんだだから、記念の意味もあって」


「恥ずかしい。その季節でもないのに夏のワンピース姿になるなんて……」


 少し顔を赤くする恋乃ちゃん。


「恋乃ちゃん、お願いします」


 俺は頭を下げる。


「康夢ちゃん、そこまでわたしの夏のワンピース姿にあこがれているんだ……」


 恋乃ちゃんはしばらくうつむいていたが、


「そこまで言うのならいいわよ」


 と恥ずかしそうに言った。


 俺はその場で踊り出したくなるほどうれしくなった。


「ありがとう。じゃあ、明日お願いします」


「うん」


 恋乃ちゃんは小さい声でうなずいた。




 こうして、夏のワンピース姿になってくれた恋乃ちゃん。


 なんというかわいらしさだろう。


 俺はしばらくの間、その素敵な姿にうっとりする。


「恋乃ちゃん、かわいい」


「恥ずかしい」


「恋乃ちゃん、好きだ」


 俺は恋乃ちゃんを抱きしめた。


「わたしも好き」


「好きだ。恋乃ちゃん」


 唇と唇が重なり合っていく。


 幸せだ。


 そして、二人だけの世界に入っていった。




 二人だけの世界から帰ってきて、俺達はベッドの上にいる。


 つないだ手の温かさ。


「恋乃ちゃん、ありがとう」


「もう、恥ずかしくてたまらないんだから」


 でも恋乃ちゃんもうれしそう。


「またお願いします」


「また着るの?」


「着てほしいです」


「もう、夏になったら、いくらでも見ることができるのに……」


「まだ半年もあるんだ。我慢できないよ」


「そこまでわたしの夏のワンピース姿が好きなの?」


「うん。夏のワンピースは、恋乃ちゃんのかわいらしさを高めていく効果があるんだ」


「康夢ちゃん、それは褒めすぎだと思う」


「そんなことはないよ。とにかくまたお願いします」


「うーん」


 しばらくの間、恋乃ちゃんは黙っていたが、


「じゃあ、一週間に一回ね。それくらいだったらいいでしょう」


 と言った。


 一か月に一回と言われたら、少し残念な気持ちになっていたかもしれない。


 一週間に一回であれば、ちょうどいいぐらいだと思う。


「それでお願いします」


「それじゃ、次は一週間後で」


「ありがとう。一週間後が楽しみ」


「もう。わたしの方は一週間後、また恥ずかしい思いをしなければならないんだから。少しは、わたしの恥ずかしさも思いやってくれるとありがたいんだけど」


 そういいつつも笑顔の恋乃ちゃん。


「でも嫌じゃないでしょう?」


「恋乃ちゃんが喜んでくれるのなら、わたしもうれしくなる」


「ありがとう。恋乃ちゃん、好きだ」


「わたしも康夢ちゃんが好き」


 恋乃ちゃんは、俺に唇を近づけてくる。


 唇と唇が重なり合う。


 唇を離した後、俺は、


「明日は、婚約者になって初めての登校だなあ。また恋乃ちゃんと一緒にいられる時間が少なくなる。一秒でも離れたくないのに」


 と言った。


「わたしも同じ気持ち」


「学校じゃ、ほとんどイチャイチャできないから、家に帰ってからにするしかないなあ」


「その分、家でイチャイチャしましょう」


 恋乃ちゃんは、そう言って微笑んだ。


「康夢ちゃんとわたしって、前世、前々世、それより前から夫婦として一緒に生きてきたと思う。相性がこれだけいいんだもの」


「俺そう思っている。俺達の相性はとてもいい」


 これからは離れることはない。


「来世でも、それより先の世界でも康夢ちゃんと一緒に生きて行きたい」


「俺もずっとずっと恋乃ちゃんと一緒に生きて行きたい」


「うれしい。康夢ちゃん、好き」


 恋乃ちゃんの熱い気持ちが伝わってくる。


「俺も恋乃ちゃんが好きだ」


 かわいい。そして美しい。


 婚約をして、両親公認の仲になった俺と恋乃ちゃん。


 俺の恋乃ちゃんへの想いはさらに強くなっている。


 俺はこの笑顔と一緒にこれからの人生を歩んで行く。


「恋乃ちゃん、これからもよろしく」


「康夢ちゃん、こちらこそよろしく」


 笑顔の二人。


「恋乃ちゃん、好きだ」


「康夢ちゃん、好き」


 俺達は、唇と唇を重ね合わせた。

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同級生と後輩に振られた俺。でも、その後、疎遠になっていた幼馴染とラブラブになっていく。俺を振った同級生と後輩が付き合いたいと言ってきても、間に合わない。恋、甘々、デレデレでラブラブな青春。 のんびりとゆっくり @yukkuritononbiri

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