第49話 恋乃ちゃんとの話

 俺は、二人の話を聞いている内に、恋乃ちゃんとすぐにでもキスをしたい気持ちが大きくなっていた。


 そして、その後のことにも。


 今までだと、彼女は一旦家に帰っていたのだが、二人と別れる時には、もう我慢できなくなっていた。


 しかし、さすがにに今すぐにというわけにはいかない。


「恋乃ちゃん、今日は直接俺の家に来てもらっていい?」


 俺はちょっと恥ずかしい気持ちになりながら言った。


「うん? どうしたの?」


「いや、俺、恋乃ちゃんとすぐにでもキスしたくなって。恋乃ちゃんのこと好きだから……」


 恋乃ちゃんはどう言うだろう。さすがにこれは急ぎ過ぎかなあ。


 家に一回帰ってから、と言うだろうか。


「康夢ちゃん、わたしも好き。いいよ。わたしもキスをしたい」


 顔を赤らめながらそう言う恋乃ちゃん。


 付き合い始めてから、キスやそれ以上のことを重ねてきたけれど、今日はまた違った意味でうれしい。


「ありがとう」


「わたしも康夢ちゃんがすぐにキスしたいって言ってくれてうれしい」


 恥ずかしながら微笑む恋乃ちゃん。


 俺は彼女の手を取って踊り出したくなる。


 でもその気持ちはなんとか抑え、手をつなぎながら歩いて行った。




 俺達は、俺の家に入る。


「恋乃ちゃん、好きだ」


 扉を閉めると同時に、俺は恋乃ちゃんを抱きしめて、唇を重ね合わせた。


 好きだ、好きだ、大好きだ。


 柔らかい唇。柔らかいからだ。いい匂い。


 これを求めていた。


 恋乃ちゃんもうっとりとした表情。


 しばらくそのままでいた後、


「俺の部屋に行こう」


 と言った。


「うん」


 恥ずかしながらうなずく恋乃ちゃん。


 俺の部屋に入り、ベッドの上に座ると、すぐに唇を重ね合う。


 恋乃ちゃんと家に帰ってからすぐキスをすることができた。幸せ。


 キスだけでも満足。しかし、俺達は、もう少し先に行く必要がある。


「恋乃ちゃん、そろそろいい?」


「うん。康夢ちゃん、大好き。康夢ちゃん、愛している」


 それだけで心がとろけてしまうような甘い声。


 俺達は再び、唇を重ね合わせた。


 そして、そのまま二人だけの世界に入っていく。




 俺達は、手をつなぎながら二人でベッドに横たわっていた。


 二人だけの世界も幸せいっぱいだが、こうしてくつろいでいる時も幸せだ。


「ねえ、今日の二人だけど」


「うん?」


「あの人たち、康夢ちゃんのことあきらめていないようだったけど」


「そうだな」


「康夢ちゃん、あの人たちのことがまた好きになることはないの?」


「それはもうないよ。俺は、恋乃ちゃんと疎遠になったからということもあって、あの二人のことが好きになったというところはある。心が弱いところがあったんだ。恋乃ちゃんのことだけを想っていれば、あの二人に心を奪われることもなかったんだと思う」


「仕方のないことだと思う。あの二人、わたしからみても魅力的だから。康夢ちゃんが心を奪われるのもしょうがないと思う」


「恋乃ちゃん……」


「もともと康夢ちゃんと疎遠になったのは、わたしの方がいけなかったのだと思う。小学校五年生の時に、遊びに行くのを誘われたのに断ってしまったこと。それまでにクラスが違っていたこともあるけど、あれが疎遠になるきっかけとしては大きいものだったと思う。その時はわからなかったけど、その後、なんで断ってしまったんだと思って……」


「俺もその時は断られてショックだった。でもそれであきらめてはいけなかったんだと思う」


「いや、今でも申し訳なかったと思っているの。そして、小学校六年生の卒業式の時、別れのあいさつを恋乃ちゃんにすることができなかった。もし、別れのあいさつをして、その時に連絡先の交換をしていれば、連絡を取り合うことができて、中学生の内にラブラブカップルになっていたと思う」


 俺は恋乃ちゃんの唇に唇を重ねる。


 顔を赤らめる恋乃ちゃん。かわいい。


 俺は恋乃ちゃんの唇から唇を離し、


「卒業式の時は、恋乃ちゃんが帰る時に、グラウンドで別れのあいさつをするつもりだった。恋乃ちゃんの教室に行くのは、恥ずかしくて無理だったんだけど、グラウンドでなら大丈夫だと思ったんだ。それでグラウンドに行ったんだけど、恋乃ちゃんのまわりに別れを惜しむ人が一杯いて、近づけなかった。こんな人気があって、別れを惜しまれる人。俺には釣り合わないなあ、と思った。あいさつが出来なくて残念だと思ったけど、これでいいのだと思った」


 と言った。


「そうだったのね。でもわたし、康夢ちゃんとお別れのあいさつが出来なかったこと、ずっと残念に思っていた。中学生になってからも康夢ちゃんのことを忘れてしまうことはできなかった」


「恋乃ちゃんの方も残念に思ってくれたんだ」


「ただ康夢ちゃんに恋をするところまではいっていなかった。もちろん好きだったけど。これも今思うとなんでなんだろうと思うけど。幼馴染としての意識が強すぎたのかもしれない」


「俺もそういうところはあった。好きだったんだけど、そこまでは到達していなかったと思う。だからと言って、あの二人のことを好きになることはなかったと思っている。ごめん」


「それはいいのよ。わたしと疎遠になっていたんだから。魅力的な人がいれば、好きになっるのも仕方がないと思う」


「でも俺は、恋乃ちゃんを待つべきだったんだ。恋乃ちゃんの方は、他の男の子に興味を持たり付き合ったりしなかったんだから。これだけ魅力的な子だったら、普通は、付き合っている人がいると思う」

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