第44話 恋乃ちゃんの家へ
次の日の朝。
俺は目を覚ますと、昨日のことを思い出していた。
好きな人、愛しい恋人との初デート。
密度のとても濃い一日だった。
映画館、レストラン、歩道……。
思い出すだけでも楽しい。
そして……。
このベッドで俺達は、恋人としても世界に入っていった。
俺はもう恋乃ちゃんしか想うことができない。
恋乃ちゃんも同じ気持ちだと思う。
昨日は、その後、恋乃ちゃんを家まで送っていった。
すぐに帰るつもりだったが、恋乃ちゃんのお母さんは、
「久しぶりに会うんだから、ちょっと上がっていって」
と言ったので、断るのも申し訳ないと思い、上がらせてもらうことにした。
恋乃ちゃんのお母さんと会うのは、小学校四年生以来。
その頃も美人だと思っていたが、今もあまり変わっていない。
優しい人だったけど、そこも変わっていないといいなあ……。
しかし、緊張する。
既に午後十時を過ぎていた。
お母さんには今日は遅くなると言ったので大丈夫と恋乃ちゃんは言っていたが、結構遅くなってしまったと思う。
怒られてしまうかもしれない。
そう思っていたのだけど、怒る様子は全くなく、
「恋乃ちゃんからあなたのことは聞いているわ。素敵な子に成長してくれてうれしい。これで、わたしたちにも息子ができるのね」
と喜んでいる様子。
「まあお母さんたら……」
恋乃ちゃんは顔を赤くする。
「恋乃ちゃん、よかったわね。こんな素敵な恋人ができて」
「うん。今度の正月に婚約して、結婚したいと思っている」
恋乃ちゃんは、いきなりそう言った。
お母さんは驚いているし、俺も驚いた。
今まで一度も母と娘の間でそういう話はしたことがないと思う。
いくらなんでも、今日の時点では反対するのでは。
そう思っていたのだけど。
「いいじゃない。わたし、賛成するわ」
「いいの?」
「恋乃ちゃんがそう言っているんだもの。いいわ。今度の正月に婚約しましょう」
恋乃ちゃんのことを心から信頼しているのだろう。いい母娘の関係だと思う。
「お父さんは反対するかな?」
「反対はしないと思うし、もし反対したとしても、わたしが説得する。わたしたちだって、高校生の時に、結婚しようと約束したんだから。この話は恋乃ちゃんにもしたことがあるでしょう?」
「聞いたことある。高校生でラブラブカップルになったって言っていたから、うらやましいなあ、と思っていた」
「でもわたしたち、幼馴染だったけど、その状態がずっと続いていたの。疎遠になった時も長かった。わたしもお父さんも中学生の頃から、お互いのことを少しずつ恋し始めたんだけと、想いを伝えあうことは、中学生の間はできなかったの。お互いの想いが通じ、恋人どうしになったのは、高校生になってから。恋人どうしになってからも、一日中一緒にいられるわけじゃなかったから、そういうところでつらい思いをしたりしてね。そういう経験があるから、あなたたちの気持ちはよくわかるし、お父さんもわかると思う。だから心配しないで」
「ありがとう、お母さん」
俺も、
「ありがとうございます」
と言って頭を下げる。
「康夢ちゃん、恋乃ちゃんのことをよろしくね。わたしが言うまでももないけど、他の女の子には心を動かされないでね」
「もちろんです。恋乃ちゃんのことが大好きですから。恋乃ちゃんのこと、大切にします。幸せにします」
「康夢ちゃん、ありがとう」
恥ずかしそうに言う恋乃ちゃん。うれしそうだ。
「うん。それなら大丈夫ね。恋乃ちゃんのこと、幸せにするって言ってくれた。ありがとう。これからは、わたしのことお母さんと呼んでいいわよ。あなたの義母になるんだし」
「それはちょっとまだ、婚約をしていないですし……」
「もう婚約することも決まったし、結婚も決まったといっていいんだから、そう呼んでいいわよ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、呼んで」
「お、お母さん」
「うーん。なんという気持ちのいい言葉」
うっとりする恋乃ちゃんのお母さん。
「わたしもそう呼んでもらってうれしい。わたしともう結婚して、家族の一員になってくれたようで」
恋乃ちゃんも微笑んでいる。
この人が俺の義母になる。俺のことを気に入ってくれたようでうれしい。
俺は出してもらったお茶を飲んだ。
「じゃあ、そろそろ帰ろうと思うんですけど。夜遅くなってきましたし」
「そうね。残念だけど。これからは、いつでもいらっしゃい。ご馳走してあげるから」
「ありがとうございます。それでは帰ります」
俺は頭を下げた。
「お母さん、玄関の先までおくってくる」
「うん。そうしなさい」
恋乃ちゃんのお母さんは、そう言いながら、俺に向かって頭を下げた。
俺達は玄関に行く。
恋乃ちゃんとはこれで今日はお別れ。
「じゃあ、また明日俺の家で」
「うん。康夢ちゃんの家に行くよ。楽しみにしていてね」
恋乃ちゃんはそう言うと、恥ずかしそうに唇を近づけてくる。
俺は恋乃ちゃんを抱きしめると、そのかわいい唇に俺の唇を重ねた。
こうして、恋乃ちゃんのお母さんに、婚約のことを認めてもらった。
俺の義母になる人だ。大切にしていこう。
俺は朝ご飯の準備をする為、台所へと向かった。
朝ご飯を作ったら、それを食べ、身だしなみを整える。
その後、恋乃ちゃんと一緒に学校に向かう。
楽しみだ。
恋乃ちゃんと登校できるなんて、夢のようだ。
でも夢のようだと思うだけではいけないだろう。
俺は恋乃ちゃんともっと仲良くなっていきたいと思いながら、朝ご飯の準備を進めるのだった。
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