第42話 康夢ちゃんとの思い出・デートへと進むわたしたち (恋乃サイド) 

 その翌日の朝。


 康夢ちゃんがあいさつに来た。


 約束を守ってくれたんだ。


 わたしは、うれしさに包まれながら康夢ちゃんのいる、わたしの教室の前に行く。


「おはよう」


「おはよう」


 やり取りとしては、これしかない。


 しかし、今まではこういうことさえもできなかった。


 大きな一歩を歩み出したと言える。


 ただ、あいさつをするだけでも胸のドキドキは大きくなる。


 康夢ちゃんも恥ずかしそうにしている。


 昨日は、康夢ちゃんを癒そうと一生懸命思っていたので、恥ずかしさを一時忘れていた。


 しかし、康夢ちゃんをおくる為に、一緒に歩いているうちに、猛烈に恥ずかしくなってきてしまった。


 康夢ちゃんの方もそうだったと思う。


 康夢ちゃんの家の前で別れる時も、


「じゃあ、また明日」


 と言うのがやっと。


 それからは、家に帰っても、恥ずかしさでベッドの中で悶々としていた。


 今日になってもおさまらない。


 あいさつの次は話だ。


 でもあいさつをするだけで、わたしの心は沸き立ってしまう。


 この調子ではいつになったら、話ができるようになるのだろう……。




 十一月下旬。


 わたしと康夢ちゃんは、あいさつをし合う関係のまま。


 そろそろ進み始めてもいいんだけど、


 それにはわたしの方がもっと積極的にならなければと思う。


 康夢ちゃんへの想いはますます強くなっている。


 ここでもう一歩、進んでいきたい。


 そう思っていた時。


 康夢ちゃんが、わたしのルインとメールアドレスを教えてほしいと言ってきた。


 連絡先の交換については、前々からしたい思っていた。


 小学校の卒業式の時点でできていれば、中学生の間もやり取りができていただろう。


 そうすれば、今頃は恋人どうしになれていたのに、と思う。


 しかし、今からやり取りして、恋人どうしになっていけばいいと思う。


 わたしは康夢ちゃんが好きなのだ。


 今までは連絡も満足にできなかった。


 ようやく、これで康夢ちゃんとの連絡がし合える、と思うとうれしくてたまらない。


 連絡初日の夜。


 わたしは、康夢ちゃんの送信してきた、


「こんにちは」


 という言葉に、うれしくなった。


 しかし、わたしは、康夢ちゃんからの連絡に対し、すぐの対応ができなかった。

 うれしさと恥ずかしさで、返信するまでに、かなりの時間を使ってしまった。


 こんなわたしを嫌いにならなければいいんだけど。


 ごめんなさい。康夢ちゃん。


 好きです。




 その翌々日、わたしは康夢ちゃんにグラウンドの端に来てほしいと連絡された。


 大切な話があるという。


 わたしは、緊張しながらそこへ行く。


 康夢ちゃんも緊張しているようだ。恥ずかしがって、なかなか言葉が出てこない。


 わたしに相談をしようとしているのだろうか。相談ごとなら、力になってあげたい。


 それ以外のことだろうか。


 他に好きな人ができたので、ルインのやり取りはもうこれっきりにしたいと言いたいのだろうか。


 それはないとは思いたい。せっかくやり取りを始めたところなのだから。


 もしそんなことになったら、ここで泣き出してしまうだろう。


 康夢ちゃんはそういうことをする人ではないと思っている。


 いろいろ悩み出していた。


 とにかく康夢ちゃんの言葉を待つしかない。


 そして……。


「俺、恋乃ちゃんのことが好きだ。俺の恋人になってほしい」


 康夢ちゃんは、頭を下げながら言った。


 なんという素敵な言葉だろう。


 好き、恋人。


 わたしは康夢ちゃんに告白された。


 好きで、恋をしている人から告白されるなんて、夢のようだ。


 康夢ちゃんへの想いが伝わり、康夢ちゃんも、わたしに恋をしてくれたのだと思う。


 恥ずかしい。でもとてもうれしい。


 もちろんわたしはOKする。


 ようやく相思相愛になれた。恋人どうしになれた。


 幼い頃に、康夢ちゃんに対して淡い想いを抱いてから、もう十年以上が経っていた。


 よくここまで来ることができたと思う。


 康夢ちゃんは手をつなぎたいと言ってきた。


 恥ずかしい。


 でもわたしも手をつなぎたい。


 せっかく恋人どうしになったのだ。恋人らしいことをしたい!


 康夢ちゃんの手がわたしの手に向かってくる。わたしもその手に向かって、手を動かしていく。


 康夢ちゃんと手をつないだ時、わたしの心は沸騰した。


 好き。康夢ちゃんのことが好き!


 康夢ちゃんへの想いはますます強くなる。


 その想いには、上限というものがないようだ。


 でもわたしたちの恋人どうしでの人生はこれからだ。


 これからもどんどん康夢ちゃんのことが好きになっていきそうな気がする。


 デートにも誘われた。


 わたしは、デートを成功させたいと思った。


 できればキスをしたかったし、その先にも進んで行きたかった。


 それだけ康夢ちゃんのことが好きになっていた。


 デートの前日、お母さんに、


「明日は、康夢ちゃんとのデートで遅くなる」


 と言った。


 デートをするからには、できるだけ長い時間、康夢ちゃんと一緒にいたい。


 お母さんは、


「もちろんいいわよ。康夢ちゃんと仲良くなって、結婚できるといいわね」


 と言ってくれた。


 お母さんは、わたしのお父さんと高校時代に結婚の約束をしていたというだけあって、康夢ちゃんとの交際を快く思ってくれている。


 そして、応援してくれている。


 ありがたい。


 その期待にも応えたいと思う。

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