第40話 康夢ちゃんとの思い出・親友への相談 (恋乃サイド)

 二学期になった。


 十月のある日のこと。


 喫茶店でくらなちゃんとおしゃべりをしていた。


 くらなちゃんとは、高校で再会してから以前よりも仲良くなっていき、今では親友どうしになっている。


 祐七郎ちゃんのことで、相談を受けたり愚痴を聞いたり、おのろけを聞いたり……。


 もちろん他のこともいろいろ話す。


 くらなちゃんと話すのは、楽しい時間だ。


 康夢ちゃんのことは、幼馴染としての話はしていたが、恋に進みつつあるという話はしたことがなかった。


 でもわたしは、恋の先輩と言えるくらなちゃんに相談したくなっていた。


 それだけ康夢ちゃんへの想いが大きくなっていた。


「わたし、康夢ちゃんのことがどんどん好きになっているんだ。でも疎遠になったまま。これからどうしていけばいいのかなあ」


 恥ずかしさを我慢し、くらなちゃんに言う。


「恋乃ちゃんも夏島くんのことを恋の対象として想い出しているのね」


「うん」


「わたしからすると、ようやくそういうところまで来た気がする。少し遅い気がするけどね、恋乃ちゃん、幼い頃から康夢くんのこと好きだったんでしょう?」


「好きだった。でもそれは幼馴染として。その意識が強くて、なかなか恋というところまではいかなかったんだと思う」


「まあ恋って難しいところが多い気はする」


「くらなちゃんの場合はどうだったの? 一目惚れって言っていたけど」


 くらなちゃんと祐七郎ちゃんのなれそめの話は、今までそこまでは詳しく聞いていなかった。


「そう。一目惚れだった。でも祐七郎ちゃん、結構いつもグタッとしているでしょう。ああいう姿を見ていると、好きというより、怒る方が先になっちゃって。それに、祐七郎ちゃん、当時からサッカーが上手くて、女の子の人気が高かった。わたしでいいのかなあ、という気持ちもあった。いろいろ複雑な気持ちだったのよ」


「そういう時に告白されたのね」


「そう。祐七郎ちゃんの方は、わたしが毎日怒っているから、嫌いじゃなくても、そこまで好意を持ってくれているとは思わなかった。すごく驚いたのを覚えている。それと同時に、わたしでいいのかな、という気持ちが強くなって……。それで断ったの」


「でも祐七郎ちゃん、あきらめないでくらなちゃんに何回も告白してきたんでしょう?」


「こんな怒ってばかりのわたしのことが、なんで好きなんだろう、と思ったの。そうしたら、祐七郎ちゃん、俺はくらなちゃんのそういうところを含めてすべてが好きなんだ。と言うの。それを何度も言われているうちに、だんだん祐七郎ちゃんに恋するようになって……」


「それで、告白をOKしたんだ」


「うん。その時、祐七郎ちゃん、涙を流して喜んでいた。わたしも、そこまで想ってくれたんだ、と思ってうれしくなって涙を流したの」


「ラブラブカップルの誕生ね」


「うん。まあ、付き合いだしてもケンカが多いわね。わたしたちだって、もう少し甘々になっていいと思うんだけど。わたしも短気な方だから、なかなか難しいわね」


 そう言って苦笑いするくらなちゃん。


「でも祐七郎ちゃんのことが好きなんでしょう?」


「うん。わたし、祐七郎ちゃんのことが好き。ケンカが多くても、祐七郎ちゃんのことが好きなの。祐七郎ちゃんが一番いい」


 ごちそうさま。


「まあ、わたしの話はしたけど、康夢ちゃんの今後のことね」


「うん」


「まずとにかく話をしないことにはね」


「康夢ちゃんの近くに行っただけで、胸のドキドキが大きくなってしまって……。話すこと以前の状態になっちゃっているの」


「でもそこを乗り越えないと先に進めないわね」


「そこのところは理解しているんだけど」


「康夢くんの方から話しかけてくれることはないんだよね」


「うん。これは、昔、わたしが康夢ちゃんを避けちゃったから仕方がない」


「そうなると、恋乃ちゃんの方から行くしかないなあ……」


「そうだよね……」


「恋乃ちゃん、康夢くんのこと好きなんだよね」


「うん」


「その想いをもっと強くしていく必要があると思う。わたしの場合も、祐七郎ちゃんの強い想いに、わたしの心も祐七郎ちゃんに傾いていったところがあるから。恋乃ちゃんの場合も。康夢くんのことを強く思っていけば、恥ずかしい気持ちも乗り越えられて、話もできるようになると思う」


「まだまだ想いが足りないってことね」


「そうだと思う。そうして、話ができるようになるほど想いが強くなっていけば、きっと康夢くんの心も恋乃ちゃんに傾くと思う」


「わたしにできるのかなあ……」


「恋乃ちゃんだったら、康夢くんと恋人どうしになれる!」


 微笑みながら力強く言うくらなちゃん。


 わたしの中に、少しずつではあるが、自信が芽生えてきた。


「ありがとう。もっと康夢ちゃんのことを想うようにする。そして、恋という意味で、『好き』って言えるようになる。


「うん。そうしていけば、きっとうまくいく」


 くらなちゃんは、コーヒーを飲んだ後、


「わたしも祐七郎ちゃんも二人のことを応援している」


 と優しく言った。


「期待に応えられるよう、一生懸命努力するね」


「うん。お互いの結婚式に行けるようにしたいよね」


 微笑むくらなちゃん。


 そうなれるといいなあ、とわたしは思った。

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