第39話 康夢ちゃんとの思い出・高校での再会 (恋乃サイド)

 この間にも、わたしに告白をしてきた男の人がいた。


 しかし、すべて断った。


 康夢ちゃん以外の人に興味を持たないよう気をつけていた。


 そうして康夢ちゃんへの想いが強くなっていった、中学校三年生の夏休み。


 いつになったら再会できるんだろう、と思っていたところに。


 お父さんの転勤が決まった。


 康夢ちゃんの住んでいるまちに。


 また戻ることができるんだ! これで再会できる! 康夢ちゃんに想いを伝えられる!


 わたしはそれを聞いた時、とても喜んだ。


 九月からということで、康夢ちゃんと同じ中学校に通うことができる、と思った。


 しかし、今度住むことになった家は、康夢ちゃんとは違う学区だった。


 康夢ちゃんの家とは五百メートルくらいしか離れていないのに。


 小学校の時まで住んでいた家は、同じ学区だったのに、残念。


 五百メートルの距離とは言っても、わたしにとっては遠い。


 学校が一緒なら、まだ声をかけることもできる。


 しかし、違っている為、声をかけるには康夢ちゃんの家にいかなくてはならない。それは、康夢ちゃんと疎遠になっているわたしには、敷居が高すぎる。


 つらくてしょうがない。


 高校は、康夢ちゃんと一緒のところへ行きたいと思った。


 一生懸命勉強し、康夢ちゃんと同じ高校に入学した。


 その入学式で、康夢ちゃんに想いを伝えようと思った。




 桜が咲いていて、気持ちのいい風が吹いてくる季節。


 入学式の日のグラウンド。


 康夢ちゃんはそこにいた。


 やっと会うことが出来る。思わず涙が出そうになってきた。


 しかし、まだこれは、スタートラインにも立っていない状態。


 話がしたい! 想いを伝えたい!


 そう思うのだけれど……。


 小学生の時に比べて、かっこよくなっていて、大人への一歩を歩み出していた。


 でも話かけづらい雰囲気が漂っていた。


 いきなり声をかけたら、誰、と言われそうな気がした。


 そもそも声をかけたら怒られてしまいそうな気もする。


 しかし、せっかく康夢ちゃんに会ったのだ。


 このままでは、今までの想いが無駄になってしまう。


 わたしは、何とか、


「康夢ちゃん、わたし恋乃。小学校以来ね」


 と勇気を出して声をかけた。


 しかし……。


「こ、こんにちは」


 康夢ちゃんはそう言うと、その場をすぐ去ってしまった。


 せっかく会えたのに。


 わたしのこと、忘れているのだろうか。


 全くの他人に声をかけられたと思っているのだろうか。


 せめて少し話ができるだろうと思ったのに。


 今のはただやり取りをしただけだ。


 こんな調子じゃ、仲は進んでいかないなあ……。


 わたしは一瞬落ち込んだ。


 しかし、高校生活は始まったばかり。


 わたしは、康夢ちゃんと仲良くなる!


 そう強く思うのだった。




 しかし、康夢ちゃんと仲良くなるどころか、話す機会もない。

 

 その間にも告白する男の人は何人かいた。


 男の人と話すことが苦手なところは高校生になっても治らない。

 

 そんな女の子のどこがいいんだろう。他の女の子の方が、魅力があると思うのに……。

 

 また、小学生の時の中学生の時もそうだったのだけど、わたしが男の人と話すのが珍しいせいか、男の人と話をしただけでも、付き合っているのでは、という噂が流れてしまう。

 

 同じクラスだけでなく、康夢ちゃんがいるクラスにまで流れてしまうので、困惑している、

 

 康夢ちゃんも気分は良くないだろう。

 

 康夢ちゃんに対して、何もできない内に、高校一年生の月日は過ぎていった。

 

 夏休み、一緒に海に行きたいなあ、と思ったけど、できるはずもなかった。

 

 クリスマスイブや正月を一緒に過ごしたいなあ、と思っても、話すことすらできない状態では夢のまた夢。

 

 しかし、康夢ちゃんに対する想いはどんどん大きくなってくる。

 

 高校二年生になると、毎日のように康夢ちゃんのことを強く思うようになった。

 

 まだ幼馴染としての意識は強いけど、それを越えた「好き」という気持ちが大きくなってきた。

 

 わたしは康夢ちゃんに恋をしたのだ。

 

 それでもわたしは、康夢ちゃんに何もできない。

 

 恋をしたと思った時から、余計に康夢ちゃんのことを意識するようになった。

 

 康夢ちゃんのことを想うだけで、胸のドキドキが大きくなって、話をすることすら夢のまた夢。

 

 康夢ちゃんの方から話をしてきてくれれば、話ができると思うんだけど。

 

 康夢ちゃんの方はどう思っているのだろう。

 

 わたしに恋はもちろんしていないと思う。

 

 していたらいいなあ、と思うけど、今まで疎遠だったのにそれを望むのは難しいことだろう。

 

 ここまで疎遠になってくると、幼馴染ではあっても、ただの知り合いだとしか思っていないだろうか。

 

 少なくとも小学校三年生までは仲が良かったのだ。今の状態でも、ただの知り合い以上とは思ってくれていると思う。

 

 でもただの知り合い以上と思ってもらっていたとしても、わたしに話しかけづらいのは理解している。

 

 康夢ちゃんを避けたのはわたしなのだから。

 

 幼い頃は、わたしに好意を持っていたと思う、でも今は、好意を持っていないかもしれない。

 

 今はわたしの片想いだろうけど、相思相愛になっていきたい。

 

 それには、わたしの方から話しかけないといけない。

 

 でもその勇気が出てこない。

 

 想いは強くなる一方なのに、何もできない。

 

 月日はどんどん経っていく。

 

 今年の夏も一緒に海に行けず、涙を流すわたし。

 

 夏のいい思い出を康夢ちゃんと作りたかったのに……。

 

 秋の間に、なんとか康夢ちゃんと恋人どうしになりたい、と強く思った。

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