第38話 康夢ちゃんとの思い出・小学生から中学生まで (恋乃サイド)

 こうして康夢ちゃんと疎遠になっていた小学校六先生の三学期。


 お父さんの転勤が決まり、家族で行くことになった。


 ということは、康夢ちゃんとは別の中学校に行くことになってしまう。


 仲の良い女の子の友達とは別れてしまうことになるし、それはもちろんつらい。でも一番つらいのは、康夢ちゃんと離れ離れになってしまうことだ。疎遠になっていても、康夢ちゃんは幼馴染。離れ離れになるのはつらい。


 わたしは康夢ちゃんともう一度仲良くなりたいと思った。


 卒業までに、幼馴染として楽しく過ごした時間を取り戻したいと思った。


 しかし、一旦疎遠になった関係を戻すのは難しい。


 話すきっかけがないし、こういう風に思っても、康夢ちゃんの近くに行くと、恥ずかしい気持ちの方が大きくなってしまう。


 康夢ちゃんの方から話しかけてくれれば、と思うこともあったけど、勇気を出して誘ってくれたのに、それをわたしは断ってしまった。


 康夢ちゃんにそれを望むのは酷な話だろう。


 そうして康夢ちゃんに何も言えないまま卒業式を迎えた。


 わたしはなんとかして康夢ちゃんと話す時間が作りたかった。


 しかし、式の間中は無理だし、それ以外の時間は、わたしと別れを惜しむ人達が順番にやってきて、席を立つことができない。


 康夢ちゃんが来てくれたら、話す時間も作れるのに、と思ったがそれも難しい。


 こういう時、同じクラスだったら、と思う。


 同じクラスだったら。まだ話せるチャンスもあったと思う。


 ただ、まだチャンスはある。


 グラウンドで両親との記念撮影や先生、友達との記念撮影がある。


 この時なら話ができるかもしれない。記念撮影もできるかもしれない。


 わたしはこのチャンスに大きな希望を持った。


 期待に胸を膨らませてグラウンドに向かった。


 向かったのだけど……。


 わたしの周囲には、別れを惜しむ人達で一杯。


 今年同じクラスだった人達だけでなく、今までの六年間のどこかで一緒のクラスだった人達まで。


 もちろん全員女の子。


 わたしにとって、大切な友達なので、別れるのは寂しい。


 お互い、


「元気でね」


「離れてもずっと友達だよ」


「連絡し合おうね」


 と言って別れを惜しんでいた。


 でもわたしの心の中では、


 康夢ちゃん、ここに、わたしのところへ来てほしい!

 

 という気持ちが大きくなっていた。


 しかし……。


 康夢ちゃんは、結局来なかった。


 グラウンドを去る時、みんなには笑顔で接した。


 しかし、別れのあいさつができなかったことに対して、次第に悲しみの気持ちが強くなってきた。


 家に帰るまでは涙をこらえていたけど、自分の部屋に戻ってからは、泣き続けた。


 わたしが康夢ちゃんを避けなければ、こんなつらい思いをすることはなかったのに……。


 このまちにいつか戻りたい。


 戻った時は、康夢ちゃんと仲良くしたい。


 そう強く思うのだった。




 中学生活が始まった。


 雰囲気のいいところで、これなら康夢ちゃんと離れ離れになった心の傷も癒せるかな、と思ったんだけど……。


 月日が経つにつれて、康夢ちゃんに会いたいという気持ちは強くなっていった。


 もちろん幼馴染だからというところも大きい。


 しかし、それ以上に、恋の対象としての存在になってきたのも大きい。


 康夢ちゃんの情報は、くらなちゃん経由で入っていた。


 小学校五年生の時に同じクラスになって以来の友達だ。


 こうして違う中学校になってからも、ルインのやり取りは時々している。


 くらなちゃんは、祐七郎ちゃんから康夢ちゃんの話を聞いてくれている。


 くらなちゃんは、わたしの康夢ちゃんに対する気持ちをどう思っているのだろう。


 わたしは、小学校卒業の前に、


「康夢ちゃんのことを、これからも幼馴染として大切にしていきたい」


 とくらなちゃんに言っている。


 くらなちゃんは、


「そうだよね。夏島くんは、恋乃ちゃんの幼馴染だもんね。大切にしていかなきゃいけないよね」


 と言っていたので、幼馴染以上の気持ちになっているとは思っていないかもしれない。


 いや、くらなちゃんは恋をしているので、そういう気持ちには結構敏感かもしれない。


 でも今のところ、そういう話はくらなちゃんにはしていない。


「好き」という気持ち。


 今はだんだん恋という意味での「好き」に変わってきている。


 会いたい。今度会ったら、この想いを伝えたい……。


 でも今のままでは、遠く離れていて、いつ再会できるかもわからない。


 小学校の時は、康夢ちゃんの魅力に気がつかない人が大多数だったから、康夢ちゃんのことを好きになる女の子はいなかった。


 しかし、その内、魅力に気がつく女の子は出てくるに違いないと思う。


 そういう人が出て来れば、もうわたしの出る幕はない。


 わたしと再会するまでに、わたしのことを待っていてくれるだろうか。


 待っていてほしい。


 ああ、康夢ちゃんに会いたい。せめて、ルインやメールでやり取りできればいいんだけど。


 でもわたしは康夢ちゃんのルインやメールアドレスを知らない。


 くらなちゃんから、祐七郎ちゃんを経由して教えてもらう、という手はあるけど、それも恥ずかしくて無理。


 康夢ちゃんの家の電話番号は知っているけど、康夢ちゃんの個人番号は知らない。電話をかけるのは、抵抗が強い。そもそもどういう用事でかけたらいいのだろう、ということになる。


 疎遠になっていなければ、まだ抵抗は少なかったのだろうけど。

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