第28話 もっと進んでいきたい

 俺は恋乃ちゃんと恋人どうしになり、手をつないでベンチに座っている。


 幸せな時間をしばし過ごしていた。


 しかし、これは恋人どうしとしては、まだ始まったばかりのところ。


 どんどん仲良くなっていきたい。


 仲良くなって、キスをしたいし、それ以上にも進んで行きたい。


 もうただの幼馴染ではないのだ。


 仲良くなっていくには、デートが一番。


 とはいうものの、今すぐデートに誘って、OKしてくれるものだろうか。


 もう少しルインでやり取りをしてから、と言われてしまうのだろうか。


 急ぎ過ぎる人は嫌い、と言われてしまうのだろうか。


 俺はここで言うべきかどうか悩んだ。


 しかし、俺は恋乃ちゃんのことがますます好きになっている。デートに誘いたい!


「恋乃ちゃん、もう一つ話があるんだけど」

 

 俺はちゃんと手をつないだまま言った。


「うん? 話って?」


「俺、恋乃ちゃんとデ、デ……」


 デというところで言葉が止まってしまう。


 恥ずかしい。


 恋乃ちゃんはかわいくてたまらないし、今俺はその好きな人と手をつないでいる。


 普通の言葉さえうまく言えないほど、心が沸騰してしまっている。


 そのような状態で、デートという言葉を言うのは、とても難しいことだと思う。


 でも俺は言わなければならない。


 どんなに恥ずかしくなっても。


「俺、今度の休日、恋乃ちゃんとデートがしたい」


 心が恥ずかしさで壊れてしまいそうになる。


 それでも何とかその想いを紗乃里ちゃんに伝える。


「デート……」


 恋乃ちゃんは言葉がでない。そのまま黙ってしまった。


 やっぱり急ぎ過ぎたのだろうか。後一週間ぐらいは待つべきだったのだろうか……。


 でも言ってしまったことは仕方がない。返事を待つしかない。


 そう思っていた時、


「うん。わたしで良ければ」


 と小さい声で恋乃ちゃんは言った。


「OKしてくれるってこと?」


「うん」


 恥ずかしそうに言う恋乃ちゃん。


 うれしい! 恋乃ちゃんとデートができる!


 俺はそのまま踊り出したい気持ちになった。


 なんとかそこは我慢する。


「ありがとう。俺、恋乃ちゃんがデートをOKしてくれて、とてもうれしい」


「わたしも誘ってくれて、うれしい」


「喜んでくれるの?」


「なんか夢みたいな気がする。今まで疎遠になっていて、このままただの幼馴染のままで行くかと思ったのに、恋人どうしになれて、手をつなぐことができて、デートにも誘ってもらえるなんて……」


「夢じゃないよ。こうして手をつないでいるじゃない」


「でもまだ夢みたいな気がする」


「俺もその気持ちは理解できるよ。夢じゃないよ、って言ったけど、俺も、今まで疎遠になていたことを思うと、夢のような気がするんだ」


「康夢ちゃん、わたし達、恋人どうしなんだよね」


「恋人どうしになったんだ」


「幼馴染だけど恋人どうしだよね」


「そうだよ」


「わたし、まだまだ康夢ちゃんのことを恋人としてより幼馴染という意識が強い。でもこれからは、康夢ちゃんの理想の恋人になれるように、一生懸命努力する」


「俺にとっては、もう既に理想の恋人だよ」


 かわいくて、頼りがいがあって、優しい。


 今のままでも十分すぎるほどだ。


「康夢ちゃんたら、褒めるのがうまいんだから。わたしなんてまだまだよ」


 そう言いながら、顔を赤くする恋乃ちゃん。


「俺は恋乃ちゃんが好きだ」


「わたしも康夢ちゃんが好き」


「俺の方こそ、恋乃ちゃんの理想の人になれるように、一生懸命努力したい」


 俺がそう言うと。


「今のままでもわたしの理想の人なの」


 と小さい声で恋乃ちゃんは言った。


「恋乃ちゃん、俺のことをそう思ってくれるの?」


 これは意外だった。


 俺の想いは受け入れてくれたけど、恋乃ちゃんの理想にはまだまだ遠いと思っていた。


「うん」


「俺達、お互いを理想の人だと思っていたということだね」


「うん。でも康夢ちゃんは、わたしが目の前にいるからそう言ってくれるんだと思っている。わたし、もっと努力しなければいけないと思っている」


「俺の方こそ、こんな素敵な子を恋人にできたんだ。もっと努力しないと」


「お互い、努力していきましょう」


 俺達は微笑みあった。


「とにかく恋人どうしになることができてうれしい。デートについての詳細は、今日の夜以降ということで」


「うん。誘ってくれてありがとう。デート、楽しみにするね」


「こちらこそありがとう。いいデートにできるようにしたいと思っている」


「康夢ちゃん、うれしい」


「俺もうれしい」


 そのまましばらくの間手をつなぎ続ける。


 恋乃ちゃんの温かさがどんどん伝わってくる。


 今日は。ずっとこうしていたい。いや、ずっとこうしていたい。


 恋乃ちゃんはうっとりとした表情。


 素敵だ。こんな素敵な人と恋人になれたうれしさ。


 このままキスをしたくなる。唇と唇を重ね合わせたくなる。


 でも我慢しなければならない。


 恋人になったとはいっても、今日なったばかりのところだし、デートをまだしていない。


 デートして、お互いの気持ちが沸騰してきたところでキスをしたいと思っている。


 今週の休日のデート。思い出に残るデートにしたい。


 俺はそう思うのだった。

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