第27話 恋乃ちゃんへの告白

 少しすつ風が冷たくなってきた時。


「康夢ちゃん、来たよ」


 かわいい声が聞こえてきた。


 声を聞くだけでも俺の心は沸き立ってくる。


 俺の好きな人、恋乃ちゃん。


「来てくれてありがとう」


 俺は頭を下げる。


「そんな、頭を下げなくてもいいよ」


「いや、今日は大切な話をしなくてはならないんだ。来てもらえてありがたいと思っている」


「それで、大切な話って……」


 恋乃ちゃんも緊張しているようだ。


 恋乃ちゃんの方は、俺が告白しようとすることを予想してきているのだろうか。


 相談事だと思ってきた可能性がある。


 もし、そうだとすると、心の準備が出来ていない可能性がある。


 その状態で告白しても、受け入れてくれるのだろうか。


 もう少しルインでやり取りをして、仲を進めてからの方がよかったのでは。


 そういう思いが心の中に浮かんでくる。


 それにしても、恋乃ちゃんはかわいい。


 こうして間近に彼女がいると、いい匂いもしてきて、心が沸騰してしまう。


 言葉が出てこない。


「康夢ちゃん、どうしたの?」


 恋乃ちゃんは心配そうな表情。


「ごめん」


 俺はまた頭を下げた。


「いや、頭は下げなくていいよ。もし悩みごとがあるなら相談して」


 俺は、


「相談ごとではないんだ」


 とは言ったものの、その後の言葉が続かない。


 このままでは、ただの幼馴染のままになってしまう。


 でも恥ずかしい。


 このかわいい人の前で、


「好きです」


 というのはとても勇気がいる。


 しかし、俺は恋乃ちゃんに、好きだという気持ちを伝えなければならない。


「大切な話というのは……」


 俺は一旦言葉を切った。


 この後の言葉に、これからの人生がかかっている。


 恋乃ちゃんの方もますます緊張しているようだ。


 俺は決断し、


「俺、恋乃ちゃんのことが好きだ。俺の恋人になってほしい」


 と言って頭を下げた。


 俺の今持っている力の全部を出すつもりで。


「わたしのこと、好きって言ってくれているの? 恋人になってほしいって言ってくれているの?」


 恋乃ちゃんの顔が赤くなっていく。


「俺、恋乃ちゃんのことが好きなんだ。もう恋乃ちゃんのことで心の中は一杯なんだ」


「康夢ちゃん……」


「小学生の時に。こういうことが言えればよかったんだけど……。ごめん、遅すぎたのかもしれない。その間に俺は、二人の人を好きになって告白をした。疎遠になったからといって、他の子を好きになって申し訳なかったと思っている。改めて申し訳ない」


 俺がそう言った後、しばらくの間、恋乃ちゃんは黙っていた。


 これは断られる可能性は強そうだ。


 また振られてしまうのだろうか。


 疎遠になっていなければ、恋乃ちゃんも悩むことなく恋人になってくれたと思うんだけど……。


 そう思っていると、


「康夢ちゃん、わたしこそ、疎遠になってしまってごめんなさい。もともと小学校五年生の時から、わたしが康夢ちゃんのことを意識しだして、話さなくなっていったのがいけなかったと思う。そして、中学生の時、離れ離れになったからといって、疎遠にならないようにする方法はあったと思う。小学生の時も中学生の時も最近も、わたしに告白してきた人はいたけど、全員断ったの」


「全員断ったんだ……」


「わたし、誰とも今まで付き合ったことはないの。康夢ちゃん以外の人に心を動かされることはなかった。それなのに、康夢ちゃんと親しくなることができなかった。話さえもほとんどすることができなかった。何をやっていたのだと思う。わたしが康夢ちゃんとずっと親しくしていれば、失恋で苦しむこともなかったし、あの時、ここで涙を流すこともなかったのに……」


 と恋乃ちゃんは涙声になりながら言った。


「恋乃ちゃん、そこまで俺のことを思ってくれたんだ……」


 小学校五年生の頃から、恋乃ちゃんの態度がよそよそしくなっていた。


 それは、恋乃ちゃんが俺のことを意識しだしていたからだという。


 当時の俺は、幼馴染で今まで仲良くしていたのに、なんでそういう態度を取るんだろう、と思っていた。


 その頃から、恋乃ちゃんは男の子の間で人気が出始めていたので、誰か好きな人ができたのか、もう付き合っている人がいるのではないか、と思うようになっていた。そういう人がいるので、よそよそしい態度をとるのかなあ、と思っていた。


 恋乃ちゃんは、今まで、俺以外の人に心を動かされたことはないと言った。


 もし恋乃ちゃんの気持ちを俺が理解していたら、疎遠になることはなかったかもしれない。


「わたし、康夢ちゃんのこと、もともと好きだったの。ただそれは幼馴染としてだった。高校に入ってからは、だんだん恋という意味で好きになってきたの。でもまだ幼馴染としての意識が強いし、康夢ちゃんもそうだと思っていたの。」


「恋という意味での好き……」


「そうなんだけど……。康夢ちゃんがわたしのことを恋という意味で好きになっているとは思わなかったから、康夢ちゃんに話しかけることすらできなかった。あきらめようと思ったこともあったの」


「恋乃ちゃん……」


「わたし、まだまだ康夢ちゃんのこと、幼馴染という意識が強い、でもそれを乗り越えたいと思っている」


「俺もそう思っているんだ」


「わたしも康夢ちゃんが好き。わたしで良ければ恋人にしてください」


 恋乃ちゃんは、顔を赤くして、恥ずかしそうに頭を下げた。


 俺の心は沸騰した。


「ありがとう。うれしい。これからよろしく」


「うん。こちらこそ」


 これで、俺達は恋人どうしになれた。


 恋人どうしになったということは、キスができるということだ。


 俺は急激に恋乃ちゃんとキスしたくなった。


 しかし、まだ恋人どうしになった段階。今それを求めたら嫌われてしまうかもしれない。


 俺はなんとかその気持ちを静めていく。


 手をつなぐぐらいならいいかなあ。これも無理だろうか。


 でも手をつなぎたい。恋乃ちゃんの温かさを感じたい。


 俺は、胸のドキドキの大きさに苦しみながら、


「手、つないでもいいよね」


 と言った。


 OKしてくれるかなあ。断られることはないだろうなあ……。


 胸が苦しくてたまらなくなってきた時。


「うん、いいわよ」


 恋乃ちゃんはOKしてくれた。


「ありがとう」


 俺はそう言うと、恋乃ちゃんの手の方へ手を伸ばしていく。


 緊張する。


 すると、恋乃ちゃんの方も、手を俺の手へ伸ばしてくれた。


 つながれた俺と恋乃ちゃんの手。柔らかくて、温かい。


「うれしい。俺、幸せだよ。恋乃ちゃん、好きだ」


 もうその言葉がすぐに言えるようになった。


「わたしも幸せ。康夢ちゃん、好き」


 恋乃ちゃんは、恥ずかしそうにそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る