第17話 恋乃ちゃんに連絡先を教えてもらいたい

 翌日の朝。


 俺は学校に着くと、机にかばんを置く。


 これから恋乃ちゃんの教室に向かい、あいさつをする。


 しかし、すぐには行く気にはなれなかった。


 恋乃ちゃんともっと仲良くなりたい。あいさつだけじゃあ……。


 俺は席に座ると、昨日のことを思い出す。


 昨日俺は、やいなさんに、付き合ってほしい、と言われた。


 俺を振った女の子だ。


 振られたとはいえ、魅力がある女の子。


 しかし、俺はきちんと断った。


 俺には好きな子がいる。


 恋乃ちゃん。愛しい人。


 俺は恋乃ちゃんとの関係を進めたいと思っている。


 今はまだただの幼馴染。


 彼女には、毎日あいさつをしたいと言ったが、もちろんそれだけの関係のままにしておく気はない。


 今すぐにでも恋人どうしになりたいぐらいだ。


 とは言っても、恋人どうしになる為のハードルは高い。


 いきなり、


「好きだ。付き合ってほしい」


 というわけにはいかないだろう。


 この間、やっとまともに話をしたばかり。


 振られた俺に優しい言葉をかけてくれて、うれしかったし、ありがたかったけど、それは幼馴染だからこそのものだと思う。


 彼女の方はまだ俺のことを幼馴染としか思っていないに違いない。


 そうすると、まずは毎日の会話が必要だ。


 クラスが違うので、会話をする機会がまず限定されてしまう。


 昼休みがまずチャンスだと思うが、彼女も女の子の友達とおしゃべりをするのが優先になっているだろう。したがって、今はまだ難しい。


 では放課後はどうか。


 一緒に帰るというのが、仲を良くしていく一つの方法だろう。


 しかし、一緒に帰る為には、もう少し仲良くなる必要がある。


 今の状態では、彼女がOKしてくれるかどうかはわからない。


 もう一段段階を踏んでからの方がいいだろう。


 そうすると、まずはルインのやり取りからということになると思う。


 電話だと、ルインよりも勇気がいる。


 今の俺にはまだ無理だ。


 電話で毎日話をした方が、仲良くなるにはいいとは思っている。


 夜遅くなった頃、毎日、恋乃ちゃんの甘い声を味わうことができる。


 そして、毎日、愛を語り合う。なんて素敵なことだろう。


 でもそれはまだまだ遠い先の話。少しずつ仲良くなっていくしかない。


 さて、そうなるとルインやメールアドレスを彼女から聞かなくてはならない。


 幼馴染とはいえ、俺は彼女のルインややメールアドレスを知らないままきてしまった。


 今の彼女の電話番号も知らない。


 彼女と仲良くなる為には、こうした情報を恋乃ちゃんから得ていく必要がある。


 でも彼女を目の前にして、


「ルインやメールアドレス、そして電話番号を教えてくれるかなあ」


 と言うことが言えるのだろうか。


 そして、その言葉を言う為には、まず彼女を屋上もしくはグラウンドの端まで誘わなくてはいけない。


 教室で言うのは、避けた方がいいだろう。


 二人だけでいる時に話すべき内容だからだ。


 しかし、彼女が俺と話すのを恥ずかしがって、一緒に来てくれない可能性はあると思う。


 これもハードルは高い。


 でも誘わなければ。連絡先を聞くことはできない。


 なんとか誘いたいものだけど……。


 今の彼女は、昔に比べてとてもかわいくなっている。


 あいさつをするのがやっとで、恥ずかしくて言葉がでてこない。


 このままでは、一生ただの幼馴染のままだ。


 それは嫌だ。


 嫌だと言っても、俺が行動しない限り、状況は変わらない。


 とにかく、今は恋乃ちゃんのところへ行かなくてはいけない。


 俺は立ち上がり、恋乃ちゃんの教室に向かって行く。


 昨日までは、あいさつのみだった。今日からは、もう一歩進んでいきたい。


 彼女の連絡先を教えてもらう。それがもう一段進む為に必要なことだと思う。


 しかし、連絡先を教えてもらっても、連絡自体は遠慮してほしいと言われたらどうしょう。


 そういう心配はある。


 連絡し合うというのは、お互いある程度の好意が必要だ。


 幼馴染とはいえ、疎遠になっていた時間は長い。


 俺に対する好意が弱くなっている可能性もある。


 でもこの間の優しさからすると、連絡してもOKをもらえると思うんだけどなあ……。


 そう思っていると、恋乃ちゃんの教室に到達した。


 すると、


「康夢ちゃん、おはよう」


 と恋乃ちゃんが声をかけてくる。


 俺はその声を聞いただけで心が沸騰した。


「お、おはよう」


 なんとか声は出せた。しかし、その後は何も言えない。


「今日も一日、よろしくね」


 恋乃ちゃんはそう言って微笑んだ。


 素敵な笑顔。


 俺の心はますます沸騰していき、言葉が出てこない。


 ちょっと昼休み、食事の後、グラウンドの端まで来てほしい。


 そう言いたかったんだけど……。


 胸のドキドキは大きくなる一方。


 このままだと、今日、連絡席を教えてもらうのは無理だなあ……。


 そう思っていると、


「じゃあ、康夢ちゃん、席に戻るから。またね」


 と言って恋乃ちゃんは席に戻っていく。


 恋乃ちゃん、まだ話は終わっていないんだ。連絡先を教えてほしいんだ!


 俺は一生懸命その思いを言葉にしょうとする。


 しかし、無理だった。


 情けないと思う。恋乃ちゃんと仲良くなるチャンスだというのに、何をやっているのだろう……。


 一挙に気力が低下していく。


 もう教室に戻るしかない。このままここにいてもどうにもならない。


 俺はガックリしながら、自分の教室に戻っていく。


 明日こそは、連絡先を教えてもらえるようにしたい。


 俺はそう思いながら、自分の教室に入っていくのだった。

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