第16話 あきらめたくない (やいなサイド)

 夜。


 寒さが厳しくなってきている。


 わたしはベッドに座り、紅茶を飲んでいた。


 気分は良くない。


 今日わたしは康夢先輩に、


「付き合ってください」


 と言った。


 恥ずかしさを我慢して。


 康夢先輩は、わたしに告白してきたんだし、今でもわたしのことを好きなんだから、すぐに喜んでOKしてくれるものだと思っていた。


 自信満々だったんだけど……。


 あっけなく断られた。


 まさか断られるものとは思わなかった。


 悲しい。つらい。


 わたしは、イケメン先輩だけでなく、中学生の頃からいろいろな人に告白されている。それは、わたしに魅力があるからだと思う。


 友達も両親も、みなわたしのこと、魅力があると言ってくれる。


 康夢先輩も、わたしの魅力にメロメロになったはずなのに。


 告白した時はそうだったと思うし、今でもそれはそんなに変わっていないはず。


 わたしのことをあきらめていないはず。


 せっかくわたしの方から、話をしたのに、どうして断ったのだろう。


 わからない。


 好きな人がいるって言っていたけど、わたし以上に好きになる人がいるのだろうか。


 そんなはずはない。


 好きな人がいるっていっても、まだ付き合ってはいないようだ。


 付き合っていないなら、なおさらわたしと付き合えばいいと思う。


 康夢先輩がその人のことを好きだとしても、その人が康夢先輩のことを好きだとは限らない。


 いや、その人が康夢先輩以外の人を好きになっている可能性だってある。


 ということになると、康夢先輩は振られて、つらい思いをすることになる。


 康夢先輩はそれでいいんだろうか。


 わたしと付き合えば、そうしたつらさは味あわずにすむのに。


 しかし、このままではわたしは康夢先輩と恋人どうしになることはできない。


 なんとかしなければ。


 これからもチャンスはある。こんなことであきらめるようなわたしではない。


 わたしは紅茶を飲んだ後、テーブルにあったお菓子を食べた。


 それにしても、わたしはなぜイケメン先輩と付き合ってしまったのだろう。


 イケメンというところが、すごく魅力的に思えたんだと思う。


 わたしはあの時、イケメン先輩のことしか想うことができなかった。


 告白された時はうれしかった。


 今までいろいろな人に告白されてきたが、全員断ってきた。


 みんな、わたしの思っている理想とは違う人しかいなかった。


 そんな中、イケメン先輩は、わたしの理想に一番近い人だった。


 付き合って最初の頃は楽しかった。


 このまま付き合っていけば、婚約、そして結婚もできそうだと思っていた。


 しかし、それは壊れてしまった。


 あっけなく。


 しょせんわたしはイケメン先輩とは合わなかったのだろう。


 その後、わたしは、イケメン先輩の恋人になった三人の女の子たちから、


「イケメン先輩と付き合おうなんて、よく思ったわね」


「あなたなんかがイケメン先輩と付き合えるはずないのよ」


「わたしたちに比べたら全然魅力がないのに」


 と冷たく言われた。


 わたしは、


 ただ単にイケメン先輩とはあわなかっただけよ。魅力はあなたたちに比べたら全然あるんだから!


 と反論したかったが、この人達と話をしても何一つ建設的なことはないので、我慢した。


 でも口惜しい。


 今でも思い出しては腹が立ってくる。


 この三人よりわたしはよっぽど魅力的な女の子だ。


 その女の子たちになぜそこまで言われなくてはならないんだろう。


 イケメン先輩も、こんな女の子たちの方がいいなんて。


 わたしは、この人達よりもイケメン先輩のことが好きだった。


 それなのに。


 わたしを、わたしをなんで選んでくれないの……。


 わたしの心は傷ついていた。誰かに癒してほしかった。


 康夢先輩。


 わたしはこの人の魅力に気がついていなかった。


 イケメン先輩に振られていなければ、存在自体次第に忘れていったに違いない。


 温かい微笑み。優しい人。


 理想の人とまでは言えないけど、それに近いということは言えると思う。


 わたしはとにかく康夢先輩に癒してほしいと思っている。


 それだけではなく、康夢先輩のことを好きだという気持ちも大きくなってくる。


 そうして、どんどん想いが高まってきた。


 康夢先輩は、わたしのことを好きで、忘れることなどできないのだから、わたしがその想いを伝えれば、恋人どうしになれる。


 恋人どうしになったら、心を癒してもらうとともに、いろいろなことをしてもらおうと思っていたんだけど……。


 わたしは悲しい気持ちになってきた。


 さっきは、これからもチャンスはあると思ったけど、わたしにチャンスは残されているんだろうか。


 康夢先輩の心の中には、わたしがいないという気がする。


 好きな人が心を大きく占めているような気がする。


 わたしがもう一度、康夢先輩の心を大きく占めていけるようになりたい。


 康夢先輩と付き合って、イケメン先輩と付き合わなければ、こんなことにはならなかったのに……。


 涙が出てくる。


 これからのことはわからない。別に好きな人ができるかもしれない。


 でも今、好きなのは康夢先輩。


 康夢先輩と恋人どうしになりたい。


 康夢先輩とクリスマスイブを一緒に過ごしたい。


 しかし、間に合わない可能性が強くなっている。つらい状態だ。


 それでもわたしはあきらめたくない。


 間に合ってほしい。間に合って、恋人どうしになりたい。


 わたしはそう思うのだった。

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