第2話 俺は同級生にも振られていた
やいなさんに振られた。
今まで生きてきて、最大のダメージの一つ。
俺はグラウンドの端のベンチで、雨にその身をゆだねていた。
冷たい雨。
もう生きる気力がない。
このまま倒れてしまおうか、とも思った。
やっと立ち上がり、家路につこうとしたが、意識は朦朧としていた。
またベンチに座る。
俺の人生で、女の子に振られたのは二度目だ。
それにしても、どうして俺はこういうつらい思いをしなければならないのだろう。
俺は前回振られた時のことを思い出していた。
糸池りなのさん。
彼女とは小学校六年生の時、一緒のクラスになった。
ちょっと髪が長めの美少女。
俺は彼女に好意をもった。
中学校になってからも、同じクラスだったので、彼女と話す機会はそこそこあった。
話をしていて、彼女は結構楽しそうだった。
そうしたことが続くうちに、少しずつ俺に好意を持ってくれてきたように思った。
りなのさんとは高校も一緒になった。
高校一年生でも同じクラスになり、これでますます親しくなれると思っていた。
席も、一学期・二学期とも割合近く、話しかけやすかった。
もともと女の子と話すということは、小学校高学年以降は少なかった俺だが。彼女はそんな俺とも話をしてくれたので、俺に好意を持ってくれたのだと思っていた。
幼馴染と疎遠になってしまい、寂しい気持ちになっていたこともあって、俺は、りなのさんの好意に応えなければと思うようになった。
そして、少しずつ、りなのさんのことが好きになっていった。
もっと仲良くなりたいなあ、と思い出してはいたが、まだ恋というところまでは行っていなかった。
二学期になると、クラスの中でもカップルがどんどん誕生していた。
うらやましいなあ、と言う気持ちはどうしても湧いてくる。
そんな九月下旬。
りなのさんは、俺と話をしていた時、
「わたし、夏島くんのことが好き。付き合ってもいいくらい」
と言ってくれた。
りなのさんの声は甘い。その甘い声で誘惑をしてくる。
話をしていた中で言ってくれた言葉で、俺に告白をするという状況ではなかった。それは残念だったが、それでもうれしかった。
少なくとも俺に好意は持ってくれている。
幼馴染と疎遠になり、恋人にできる可能性がなくなってきている俺。
恋人にできる可能性があるのは、俺に好意を持っていると思っていた、りなのさんだけだった。
俺はそれ以降、りなのさんのことがより一層好きになっていった。
しかし、仲は進んでいかない。
りなのさんは、俺と話す時は楽しそうにしてくれている。
でもそれ以上の関係になろうとは思っていないようだ。
俺のこと、『好き』『付き合ってもいいくらい』って言ってくれたのに……。
俺は次第に焦りの心が生まれ出していた。
このままでは、りなのさんは誰かに取られてしまう。
そうならないうちに告白をしたいんだけど……。
しかし、そうは思っても、恥ずかしさが先に立ってしまう。
それに、もし告白して断られたら、小学校六年生の頃から積み上げてきた関係がすべて壊れてしまうことになる、
それが怖い。
それならば、今のままでいいのでは。
彼女とは、特別仲がいいというわけではないが、友達ではあると思う。
友達で充分な気がする。
そう自分を納得させようとするが、クラスのカップルたちの楽しそうな話を聞くと、心は揺れ動く。
俺もりなのさんと恋人どうしになって、楽しい想いをしたい!
そうは思うものの、何もできないまま月日は経っていく。
高校一年生の一月中旬。
りなのさんは、なんと、三組のクラスのイケメンと楽しそうにデートとしていたという噂が流れてきたのであった。
俺の学年に二人いるイケメンの内の一人。
当時から、「一組のイケメン」、「三組のイケメン」、と言われていて、今でも言われ続けているのだが、その内の一人。
一年生ながら、テニス部の主力になりつつある男。
そんな、りなのさんは、俺に好意を持っているはずじゃなかったのか……。
俺はその日の昼休み、彼女を廊下に呼び出してにそのことを聞いた。
彼女を呼び出すこと自体、したことがなかったので、その時の俺は相当思いつめていたのだと思う。
その後の、やいなさんの時もそうだったが、幼馴染と疎遠になり、恋人にできる可能性がほとんどなくなっていた俺にとって、恋人を作る為の選択肢は、彼女に告白することだけだった。
「デ、デートしていたの?」
俺は単刀直入に聞いた。
「デートというわけじゃないけど、ちょっと一緒に買い物していたの」
彼女は微笑みながら言う。
いつもは魅力的な笑顔だが、その日に限っては、ちょっと腹が立つ態度だ。
「一緒に行動することをデートと言うと思うんだけど」
「別に彼とは付き合っているわけじゃないから、デートとは言わないと思うわ。でもどうしてそういうことを言うの? 一緒に買い物をするくらいよくあることだと思うけど。それにあなたには関係のないことだと思うんだけど」
関係ないわけじゃない、俺は、りなのさんと付き合いたいんだ。
「その人のことは、す、好きなの?」
俺は少しどもりながら言う。
「うーん。どうだろう。でもイケメンだし、付き合ってもいいとは思うわ」
うっとりした表情のりなのさん。
「そ、そんなあ……」
「どっちにしても、夏島くんには関係ないことだと思うけど」
「俺とそのイケメンと、どっちがいいの?」
「今の状態だったら、イケメンの彼の方がいいわね。わたし、イケメンが好きだから」
「そんなあ……。俺、糸池さんのこと、小学校六年生の頃から、好意を持っていたのに……」
当時は恋ではなかったが、その頃から彼女に好意は持っていた。
しかし、りなのさんは俺の言ったことなど、全く気にしない。
「わたし、彼のことが好きなの。恋人どうしになりたいと思っているの」
彼女はそう言っている。
このままでは、りなのさんは俺の手の届かないところに行ってしまう。
俺の想いを、りなのさんに伝えるんだ!
「俺と付き合ってほしい。お願いします」
俺は頭を下げた。
しかし……。
「わたしは彼と恋人どうしになり、結婚するの。もう話しかけないで」
それまでの人生で最大級のダメージを受けた。
「俺のこと『好き』って言ってくれたんじゃなかったの……。『付き合ってもいいくらい』って言ってくれたんじゃなかったの……」
「嫌いじゃないからそう言っただけ。そんなことも理解できない人だったのね。どうしてわたしがあなたに恋をしなきゃならないの。イケメンの彼にわたしは恋をしているの。じゃあ、わたし行くね」
りなのさんは去っていった。
「どうして俺はこんなつらい目に合わなければならないんだ……」
涙がこぼれてくる。
俺は、しばらくの間、その場で呆然としているしかなかった。
その日、俺は、雪の降る中、傘もささずに家に帰った。
全身雪まみれ。
傘をさす気力さえもなかったのだ。
その後の休日は、一日寝込むことになってしまった。
その間、俺は涙を流しつづけた。
なぜ俺ではなく、イケメンの方がいいと言うんだ。
俺のことを好きになってほしかったのに……。
つらくてつらくてたまらなかった。
俺は、それから、りなのさんと全く口をきかなくなった。
というより、口をきく気力がなくなったというべきだろう。
小学校六年生からの関係は、こうして壊れてしまった。
また振られてしまった。
幼馴染は手の届かないところに行ってしまい、りなのさんには振られ、今度こそ、と思ったやいなさんにも振られた。
俺はいったい何をやっているんだろう。
むなしさ、つらさ、苦しさが一挙に襲ってくる。
なかなか動く気にもならない。
俺は、雨にその身をまかせるのみだった。
ああ、もう動く気力がない。俺はこのまま倒れてしまうのだろうか……。
そう思っていた時。
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