同級生と後輩に振られた俺。でも、その後、疎遠になっていた幼馴染とラブラブになっていく。俺を振った同級生と後輩が付き合いたいと言ってきても、間に合わない。恋、甘々、デレデレでラブラブな青春。

のんびりとゆっくり

第1話 後輩にその想いを伝える

 俺は夏島康夢(なつしまやすゆめ)。高校二年生。


「康夢ちゃん、好き」


 俺の部屋のベッドの上で、俺の手をしっかりと握ってくる女の子。


 甘い声で、俺の心をとろけさせていく人。


 幼馴染で恋人の浜海恋乃(はまうみこいの)ちゃん。


 俺はこの人を幸せにしたい。


 三学期の前日の夜。


「俺も恋乃ちゃんが好きだ。今すぐにでも結婚したい。」


「わたしも。康夢ちゃんとずっと一緒にいたい。結婚したい」


 俺は恋乃ちゃんを抱きしめる。


 そして、唇と唇を重ね合わせた。


 幸せな時間。


 ずっとこうしていたい気がする。


 かわいくて、優しい、俺の理想の人。


 やがて、唇を離した。


「もう二度と康夢ちゃんと離れたくない」


 恋乃ちゃんの強い気持ち。その気持ちを俺は大切にしたい。


「俺ももう恋乃ちゃんと一日たりとも離れたくないと思っている」


 俺と恋乃ちゃんは疎遠になった時が長かった。その間、どれだけつらい思いをしてきたことだろう。


 一日どころではない。一秒でも離れたくない。


「わたしは康夢ちゃんのもの」


「俺は恋乃ちゃんのものだ」


「康夢ちゃん、好き。一生愛します。大好き」


「俺も恋乃ちゃんを一生愛するよ。大好き」


「うれしくて、うれしくてたまらない」


 涙声になる恋乃ちゃん。


「俺もとてもうれしい」


 俺達は、唇と唇をまた重ね合わせた。


 そして、俺達は、二人だけの世界に入っていった。




 秋、十一月になって間もない日。


 この時のことは今でも忘れることはできない。


 恋乃ちゃんと疎遠になっていて、手の届かない状態になっていた俺。


 そんな俺に好意を持ってくれていたのが、今、目の前にいる女の子、冬里(ふゆさと)やいなさん。


 背は高い方。ポニーテールで、長い髪。あどけなさを残した顔。なかなかに好みの容姿だ。


「わたし、先輩のことが好きですよ。付き合ってもいいくらいです」


 そう言ってもらったのが、七月初旬のこと。


 甘い声で誘惑をしてくるやいなさん。


 俺の心がやいなさんの方に動くきっかけになった言葉。


 その時は、冗談で言った可能性もあるかもしれないと思った。しかし、その後も親しく接してもらっていたので、俺も次第にやいなさんのことが好きになり、付き合いたいという気持ちも強くなっていった。


 そして、放課後、俺はグラウンドの端に、やいなさんを呼び出した。


 空は雲っていて、もうすぐ雨が降りそうだ。


「俺、冬里さんと付き合いたいと思っている。七月初旬の時、『先輩のことが好きですよ。付き合ってもいいくらいです』と言われたし。気持ちが変わっていなければ、お願いしたい」


 俺は頭を深々と下げる。


 俺の想いよ、通じてくれ!


 しかし……。


「先輩の想いは受けられません」


 やいなさんは冷たく言い放つ。


 俺はその言葉を聞いた瞬間。思考回路が停止した。


「ど、どうして……」


 そう言うのがやっとの状態。


「わたし、先輩は恋の対象じゃありません。わたし、イケメンな男の人が好きなんです」


 一刀両断だ。


 おかしい。こんなはずじゃないのに。


 とにかく、このまますごすご帰るわけにはいかない。今までの彼女への想いが無駄になってしまう。


「俺に好意を持っていたんじゃなかったの? あの時、『先輩のこと好きですよ。付き合ってもいいくらいです』と言ってくれたじゃない」


「そう言ったかもしれません。でもそれとこれとは話が別です、特に先輩に好意は持っていません」


「心が変わったということなの? いつも俺と楽しそうに話をしているじゃない?」


 彼女は、一年年下。中学三年生になると同時にこの町に引っ越してきた。


 出会ったのは、高校二年生の始業式。やいなさんにとっては入学式。


 学校へ向かう途中で、話しかけられたのだ。


 俺と途中までは通学路が一緒だったので、その後、朝は自然と一緒に登校するようになった。


 最初は、恥ずかしさがあって、会話がうまくできなかったが、だんだんとできるようになってきた。


 だから俺に好意を持っていて、それで『先輩のこと好きですよ。付き合ってもいいくらいです』と言ってくれたと思っていたんだが……。


「普通、怒りながら話をする人なんていないでしょう」


「だって、冬里さん、俺のこと、夏島先輩と呼んで慕ってくれていたんじゃないの?」


「わたし、夏島さんは先輩だから先輩と呼んでいただけです」


 俺のことをいつも夏島先輩と呼んでいた彼女が、夏島さんという、苗字で呼ぶ言い方に変わっている。


 しかも冷たい言い方。


「いつも一緒に登校していたじゃない」


「それは、通学路が途中まで一緒だったからです。それ以上の意味はないです」


「今まで、俺に好意を持ってくれていたと思ったのに……」


「普通の対応をしただけなのに、それがなんで好意になるんでしょうか」


 不思議な生き物を見るような目だ。


「俺のことを好きだと言ってくれたのは……」


「嫌いな方ではないから好きと言っただけです。恋と言う意味の好きではありません。好きと言ったからと言って、わたしが先輩に恋していると思われるのは迷惑です」


「『付き合ってもいいくらいです』って言ってくれたのは……」


「それも嫌いな方ではないから、そう言っただけのことです」


 俺のことを『好き』だと言い、『付き合ってもいいくらいです』と言った時は、少し恥ずかしそうに言っていたので、その時は、俺に好意を持っていたのは間違いない。


 多分、それから今までの間に気持ちが変わったのではないかと思う。


 いずれにしても、こう言われるのはつらい。


 どうしてそこまでいわれなければならないんだろう。


「夏島さん、ただの先輩だったら、こんなことは言いません。でも彼女にしたいって言うならはっきり言わなきゃいけないと思います」


 な、何を言うんだろう。怖い目をしている。


「わたし、もう付き合っている人がいます」


「そ、それって本当なの?」


 俺は腰を抜かさんばかりに驚いた。


「この十月から、陸上部のイケメンの先輩と付き合いだしました」


「同じ部の先輩のイケメン……」


「夏島さんも噂は聞いていますよね。二年生の中でも一二を争うほど人気が高い人ですよ。一組のイケメンと言えば先輩も知っていると思いますけど」


 やいなさんはうっとりとした表情。


 俺と同じ二年生には、二人のイケメンがいる。


 一組にいるイケメンと三組にいるイケメン。


 それぞれ、「一組のイケメン」、「三組のイケメン」、と言えば、それで通ってしまうほどの有名人。


 学校内の人気というものにはほとんど興味がなく、また、その二人とは違うクラスの俺でも、その人たちのことは知っている。


 それだけ、そのかっこよさは、学校内に鳴り響いている。


 そのイケメンの一人と、やいなさんが付き合うことになっていたとは……。


「先輩の方から告白してくれて、うれしかったです」


 恋する乙女の目と言うものだろう。


「夏島さんと違って、かっこいいし、スポーツも出来る。魅力的な人です。そして、もう既にデートもしています」


「デート……」


 彼女から発せられた衝撃の言葉。


「そうです。だからもう話しかけないでください。さっきも言いましたけど、わたしを彼女にしたいと言った以上は、冷たくします。その方が夏島さんもいいと思います」


 いいわけあるか!


 と叫びたくなるが、懸命にこらえる。


「じゃあ、もう話は終わりですね」


「ま、待ってくれ。こんなにも恋してきたんだ。少しだけでもいい。俺と付き合うことを考えてほしい」


「夏島さんが何も言っても考える余地はないです。イケメン先輩とは雲泥の差で、比べ物にならないです。じゃあ行きますね」

 そう言い捨てると、彼女は校舎に向かって行った。




 残された俺はただ呆然とするしかない。


 雲泥の差なんて……。なんでそんなことまで言われなきゃならないんだ。


 こんなことって……。夢であってほしい……。


 しかし、夢ではない。


 俺は彼女に振られたのだ。それも門前払いという形で。


 それにしても、今日の彼女は、一貫して冷たい態度をとっていた。


 俺のイメージする彼女は、優しい微笑みをいつも向けてくれる人だった。


 女の子と話すのが苦手で、話すだけでもドキドキしてしまう俺に優しく対応してくれて、うれしかった。


 それがなぜ……。


 それだけイケメンのことで、心が一杯になっているのだろうか。


 彼は、彼女も言っていたが、かっこいいし、スポーツマンだ。


 陸上部に所属していて、高校一年生ではあるが、既に有望な選手の一人となっている。


 それはもちろんすごい人だけど。


 彼女は彼女で、頭も容姿が良く、優しい人柄ということで、人気は高い。中学校の頃から、告白する男子生徒が多かったが、全員振ったと聞いていた。


 俺も振られてしまう可能性はあると思った。


 もし振られたら、つらく苦しい思いをしてしまうことになる。


 しかし、このまま告白しなかったら、いずれ誰かの恋人になってしまう。


 俺には、幼馴染がいるが、小学校五年生の頃から疎遠になり、今では話をしていない仲。


 人気があり、付き合っている男子生徒がいるという噂もある。


 もう俺の手の届かない存在になっていた。


 その寂しさもあって、この半年、俺は彼女のことが好きになっていった。


 幼馴染と疎遠になり、恋人にできる可能性がほとんどなかった俺。


 恋人を作る為には、彼女に告白するしか選択肢はなかった。


 でも、その告白は無駄に終わった。


 俺は知らず知らずの内に涙が出てきた。


「ああ、もう生きていたって無駄なんだ。すべてがむなしい……」


 すると、雨が降ってきた。結構な量だ。


「せめてきれいな夕焼けを見たいところだけど。まあ今の俺には、このシチュエーションが一番合っていそうだな」


 涙はとめどなく流れ、雨は俺の体を冷たくしていく。


「こういう時、俺を好きだった人が現れて、優しくタオルを差し出したりしてくれるもんだと思うけどなあ。俺の好きなギャルゲーだったら、ありうるシチュエーションだけど」


 しかし、そういうことは、現実にはやはり難しいことだ。


 俺はガックリする。


「幼馴染は手の届かない状態。これからも手は届きそうにない。幼馴染と恋人どうしになるのをあきらめて、好意を持っているはずだと思った子に告白した結果がこれって、つらすぎる……」


 雨は止んでくるどころか、ますます激しくなってきた。


 俺はただ雨にうたれながら、涙を流すことしかできなかった……。

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