こうして居られるのも

@obd

短編

「お恵みを……何か食べられるものを下され……」


「おいジジイ!なにかおもしろいはなしでもきかせろよー!」


「きかせろよー!」




皇国歴50年……その名の通り皇国が世界を統一して半世紀という節目に盛大なパレードが行われていた。

50年前に大戦を決した皇国は善政を敷き今の繁栄をもたらす事となる。


15年という月日をかけて行われた帝国と皇国の大戦は各小国家を巻き込み、或いは滅ぼし、或いは併合しながらその激しさを増していった。


「おい!バッツ!お前は索敵車に同乗しろ!マイクのサポートだ!」


「はい!」


俺バッツは傭兵団【錆】の雑務員……まぁ体のいい使いっ走りだ。指示を出してるのが団長バルドフ、荒事集団の頭だけあってイカついオッサンだが曲がったことはしない男気ある人だ。マイクってのは通信士と索敵をこなす寡黙な人なんだが……寡黙過ぎて誰かサポートしなきゃ喋りもしないんだから通信士にしてる意味がわかんねぇ。


「俺とブレンダ、ニックは機甲兵で出るぞ!」


「「イエッサー!」」


ブレンダさんは紅一点の姐御だ。めちゃくちゃ男勝りでガサツだけど綺麗な人だ。ニックは軽薄そうな男で毎晩色町に出ていく。ほとんど酔ってるとこしか見たことない。


機甲兵ってのは全長7~8メートル程の各種兵器を積んだ戦闘用ロボットだ。戦争の主要兵器で元は作業用として開発された物が転用されて戦争兵器になった。各国様々な形をしてるが、コックピット周りを装甲で保護、全周囲モニターで敵を見つけて、後は操縦桿で攻撃って所は同じ。あとの小難しい事はわかんねぇ。

うちの傭兵団はスクラップや戦場で手に入れた鹵獲品で修理改造しながら使ってるから見た目は統一感も何も無い。


「今回はでかい戦みたいねぇ……相当数の機甲兵が出るみたいよ?」


「皇国さんも必死なんじゃねーの?先の大戦で大敗。国土も3割減らしちまって前線の砦も陥落。もうすぐチェックメイトって所」


「俺達帝国側の傭兵にとっちゃいい事じゃねーか!今回は中央の帝国兵団と共闘!兵団の正面突破を援護する形になる!弾薬費も修理代も向こう持ちだ!派手にやるぞ!」



皇国の砦を抑えた帝国は皇都侵攻作戦を決行。一気になだれ込む作戦に出た。これに対して皇国側は防御陣を敷いた。長距離固定砲やミサイル等で帝国に被害を与えながら爆撃機で潰していく。

領土を奪ったが却って部隊が広がりすぎた帝国陣営は決定打を出せず最前線は膠着。焦れた帝国は両翼を結集し中央一点突破を目論む。

帝国の補給路を断つべく皇国側が薄くなった左右を抜けて行くも、帝国側もこれを各個撃破、多数の傭兵団を遊撃に回した。これに気を良くした帝国側上層部は中央攻撃を継続しながらも補給路を囮に、抜けてくる皇国部隊を減らしていく作戦に出る

皇国中央に翳りが見えた。


「お前ら!突撃作戦の要請が来た!各傭兵団は中央を無理やり突破して前世を荒らせとよ!」


「チッ……使い捨てかい!」


「俺らなんぞそんなもんよ……正規兵を温存させるにしたってあんなひよっこ共じゃなー」


「グダグダ言ってねぇで行くぞ!」


俺たち【錆】は中央突破を試みた。

敵方は撤退戦の様相で、代わる代わる食い止めに来るが深追いせず絶妙な距離感で逃げていく。


「おいおいおい!こりゃヤバいんじゃないかい!?引きずり込まれてるよ!」


「他の傭兵団が深追いしてやがる!だが着いていかなきゃ両側から挟まれるぞ!バッツ!」


「通信傍受はないようです!ですが極薄くですがジャミングされてる様な気配があるみたいです!」


「ジャミングったってこの距離じゃ無駄だろうに……本隊との通信はできねぇの?」


「本隊とは通信できてます!」


「敵方の傍受対策か……逃げる方向やらなんやら聴かれたらまずいっちゃまずいがね」


「ちがう……ちがう……ちがう!」


「えっ!マイクさん!?」


「ダメだ団長!これは完全に罠だ!撤退するべきだ!」


「おいマイク!どういうこった!説明しやがれ!」


「ジャミングじゃない!これは大型のエネルギーだ!超大型のエネルギー砲が出力上げてる!このサイズだと……このサイズだと後ろの本隊まで一直線!削り取った3割の領土の端まで焦土になる!」


「なっ!馬鹿野郎!仲間諸共か!そんなんじゃ逃げようがねぇだろう!今から全力で逃げ切った所で皇国兵共はせいぜい半分にも到達できねぇだろうが!」


「本隊!聴こえるか!応答しろ!」


『こちら……隊…………ど……た』


「おい!聴こえてるか!?こっちは途切れて聴きづれぇ!聴こえてるなら要件だけ言うぞ!」


『こ……らは……き……てる…………』


「よし大丈夫そうだと判断する!よく聴け!中央は罠だ!超大型のエネルギー砲が発射準備に入ってるらしい!らしいってのはうちの技術屋が判断したからだ!こいつはジャミングじゃねぇ!射程は新領土から旧領土まで!」


『ほ……な!……よう……のがこ……く……にあ……………………』


「ダメだ!おそらく信じてねぇだろう。俺たちだけだが逃げるぞ!どのくらい幅があるか知らねぇが横に一直線で逃げる!行くぞ!」


全速力で突撃隊から離れ、真横に突き進んでいく、敵も追い縋ってくるが基本的に無視、影響範囲がどれ位だが分からないがただひたすらに逃げる



「まだか!?」


「もう少し!もう少し行けば影響範囲ギリギリで

逃げられるはず!」


「ちっくしょう!背中見せて逃げるなんて恥さらしだぜ!」


「黙って走りなぁ!命あっての物種だよ!」


もう少し……もう少しで逃げ切れる……そう思ってた矢先に皇国側に巨大な光が見える


「ちっ!ダメだ間に合わねぇ!後ろにまだ敵もいやがる!


「うおっ!駆動系に被弾した!ダメだ!動かねぇ!」


「マイク!バッツ連れて逃げろ!急げ!」


団長達を置いて索敵車がスピードを上げる。

敵と組み合い俺たちを逃がすために弾を受ける。

その最中強烈な光がすぐ背後を通り抜けていく。車両が転がり、中でもんどり打って気絶した。



目が覚めて身体中の痛みに耐えながら、壊れた車内を見渡す。マイクは首にガラス片が刺さり既に事切れていた。

壊れたドアを蹴破り外に出ると、森も土も兵も雲さえも全て消えて大きな青空が広がっていた。


その日、帝国軍は壊滅した。





「じじい!うそついてんじゃねーよ!オレたち知ってるんだからな!たいりょうはかいへいきとか言うの使ったのは帝国だって学校で習うんだからな!」


「そーだそーだ!うそつきじじい!」


空に空砲が鳴る。鳥たちが空を飛んでいくのが見える。


「パレードがはじまった!いこうぜ!」


「いこういこう!こうていさまとこうごうさまがいっちゃう!」


子供たちがパレードを見に路地裏から出ていく。

大通りにはたくさんの人だかりができて、今か今かと皇帝と皇后を待っている。


あの日、巨大な光が放たれた後、皇国はすぐさま帝国へ進行。半月も経たずに帝国は落ちた。

大量破壊兵器を使ったのは帝国であると公表し、帝国関係者は全てその責任の元処刑された。

各地に散らばった元帝国軍はレジスタンス活動を行うも、徹底的に殲滅。残党も最早行動を起こす力は無かった。


「……今日は綺麗な青空じゃな……さて……行くとするか」


どこまでも突き抜ける綺麗な青空の下で、ボロ切れをまとった小汚い老人は、その手に手榴弾を握りしめて大通りに向かった……





皇国歴50年

世界は3つに別れた。

長男、次男、長女がそれぞれ国を興す。それぞれが正統な後継者であると宣言し互いに宣戦布告した。



また戦乱が始まる。

空はどこまでも青かった。

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