第7話 名探偵トリオの誕生


――みんな、アスレチックに夢中だったのに、

ユウイチロウだけが、ひとりで、走りはじめたんだよな。


キヨヒコが独り言のように、つぶやきました。


――あのときの気持ちを、ひとこと!


マユコが女子アナのかわいい口調をまねして、

マイクの変わりに、かた手を握って、ユウイチロウの口に近づけました。


――わかんないよ。理由なんてないけど、走りたくなったんだ。


――ふうん、ぼくもユウイチロウが走りだしたのを見て、

なんか、走りたくなっちゃった。


とキヨヒコが不思議そうにユウイチロウを見ました。


――わたしも、二人がさわやかに走ってる姿みて、

これはつづかなきゃって感じだったなあ。


三人は、お互いに目を見合わせました。

そして、ふきだしました。


そんな笑いの渦から、先に飛びだしたのは、マユコでした。


――それからだよね。クラスのみんなが、

どんどん走りだして、ついてきた。


――気がついたら、3組全員が、ロードレース状態だもんなあ。


――ほんとう。マラソン大会みたいだったね。

木村先生なんか、一番うしろで走っていて、涙うかべてたもんね。


――1位は、ユウイチロウ。2位は僕。3位はマユコで、

あとは、みんなでかたまってゴールしてたなあ。


――なんか、感動のフィナーレだったね。みんなで走り終わると、肩組んだよね。


――それで、輪になっておどろう、ノリノリで歌ったなあ。


ふいに、今まで聞いていたユウイチロウが、声を上げました。


――そうかぁ! きっかけを生み出すと、みんながつながるんだよ。

また、そんなきっかけを生み出せばいいんだ。


――へいへい、おっしゃるとおりです。

で、どんなきっかけを、生み出すおつもりですかい?


キヨヒコの落語のくまさん口調は、板についてきました。


ユウイチロウが、ここは、若旦那にでもなろうかどうか迷っていると、

マユコが人差し指で、赤いメガネをもちあげました。


――名探偵トリオの誕生というわけですね。


ありがとう、マユコ。そうユウイチロウは、心の中でつぶやきました。


ピントは、多少ズレているかもしれませんが、

ユウイチロウの言いたいことを、ほぼマユコが代弁してくれたようです。



〈続く〉

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