第6話  きっかけの思い出


ナイトがいなくなったその日に、オレがやってきたんだって。


オレは、何も行きたくて行ったわけじゃないけど、

ぼうしの国への入口がかってに開いて、オレを掃除機みたいに吸い込んだんだ。


ぼうしの国のみんなは、ナイトがユウイチロウという、きっかけを生み出したとうわさしている。オレは、ただのユウイチロウだ。ナイトじゃないよ。


でも……やるしかないんだ。

まず考えなくちゃいけないのは何をやるか?


ナイトみたいにはいかないかもしれないけど、

なにかきっかけみたいなものが、生みだせないだろうか?


とりあえず考えよう。自分が今までやったきっかけ作りは、なんだったっけ。


ええと……そうそう、思いついたぞ。あれは、去年の春の遠足のことだ。


――キヨヒコ、マユコ、おぼえてるだろう?


二人はコクンとうなずきました。


「楽しかったなあ」


マユコとキヨヒコは、楽しそうに空を見上げました。


小さな飛行機が、青空に白い線をひいて行くのが見えます。

風が、しきりに三人の前髪を、かきあげました。


まわりで遊んでいる子供たちの声が、

ときどき、びっくりするほど耳元で大きく響きました。



今度は、マユコとキヨヒコが話す番です。


――二年三組の担任は、木村和夫先生だったね。


――そうそう、めちゃめちゃ足の早い先生でさあ、

陸上クラブのこもんやってたよ。


――春の遠足は、こどものくに・アスレチックランドだったんだよね。

なんか、なつかしいなあ。


――すっごい、遊んだよなあ。

あっというまに、夕方になっちゃうんだもんなあ。


――みんな、あつかったよねえ。木村先生がいちばんあつくてさあ。

汗をかきかき、みんなにマラソンしよう! なんて呼びかけまわってた。


******


こどものくに・アスレチックランドには、

ぐるりとアスレチックを外周する 本格的なマラソンコースがありました。


木村先生は、子供たちに


「めったにないチャンスだからクラス全員で走ってみないか?」


と提案したのでした。


ミナミ小学校では、年に一回、

学年ごとのマラソン大会がありました。


外周約1500メートル、長い距離を走ることの苦しさを知っている子供たちから、

好き好んで走ろうとするコは、もちろん、いませんでした。



〈続く〉

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