第5話  ナイト(きっかけ・ハット)


ぼうしの国に泊まってから5日目のこと、

オレは、ティコに相談を受けたんだ。


ぼうしの国が、少しずつ、小さくなっているって。


空を見上げてみると、たしかに空全体が、近くなっている気がする。

ティコは、このままでは、ぼうしの国はあと3ヶ月もすれば、ぼうしほんらいの大きさになり、ぼうしの国の入口が閉じてしまうんです、と言っていた。


オレが、ティコにできることは何だろう? 久しぶりにまじめに考えてみた。

ティコを助ける。助けるために、この国がちぢんでいくのをとめる。


……そんな魔法使いみたいなことができるだろうか?


それなら、ティコといっしょにこのぼうしの国を脱出して、

オレの世界で、いっしょに暮らすっていうのはどう?


ティコに聞いてみたけど、ティコは、ぼうしの国の外には、出られないんだそうだ。

なんといっても、オレのぼうしの妖精みたいな存在で、オレのぼうしに宿る命なんだって。


ティコは、ぼうしの国の女王だけれど、

ティコには、ずっと昔から守ってくれるナイト(騎士)がいたんだって。


ナイト(騎士)は、ティコが生まれた時から、ずっと近くにいて、見守っていてくれたんだ。ティコが大人になって女王になった日も、それをねたんだ、シルク・ハット侯爵(こうしゃく)やおしゃれ・ハット婦人から、守ってくれたんだって。


ここからはお決まりなんだけど、ティコは、やがて、ナイト(騎士)に恋をしたんだ。

だんだんと気持ちはふくらんで、ついにティコは、ナイト(騎士)にうちあけたんだ。


「わたしと結婚して、王様になって下さい」って。

すると、ナイト(騎士)は、こう言ったんだ。


「それはできません。なぜなら、私のなまえは、きっかけ・ハット。

この国にきっかけを、生み出すものだからです。

ティコ女王、あなたともお別れしなければなりません。

時が、来たのです。いまも、この国は、少しずつですが、小さくなっているのです。

3ヶ月と、もたないでしょう。私は最後に、あなたにふさわしいきっかけを生み出します。愛しいティコ、さよなら」


そう言うと、ナイト(きっかけ・ハット)は、ぼうしの国から消えてしまったんだ。



〈続く〉

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