第4話  いちばん大切なもの


「ここで、クイズです」


ユウイチロウは、サルみたいにあくびをしているキヨヒコの口を閉じるべく、

言いました。


「ぼうしの国で、いちばんたいせつなものって、なーんだ?」


「そりゃ、ぼうしでしょ。だって、ぼうしの国だもん」


開口一番にキヨヒコが言いました。


「それから、ぼうしをかぶる人間の存在も大切よね。

かぶってもらわないと、ぼうしの意味がないし……」


マユコは、まだ言いたそうに、赤いメガネのフチをもちあげます。


「あとは、ぼうしを大事にしてくれるっていう、心づかいがいちばん大切よ。

乱暴にされたら、ミモフタもないわ」


マユコは今、何か心ときめくことを頭の中で想像しているようで、

口元がゆがんでいました。


「心づかいですかあ。マユコは大人だねえ。

うーん、ソバがうめえ。ズルズルゥ~」


キヨヒコは、ときどき、言葉じりに、落語のまねを、くっつけます。


ユウイチロウの顔色が変わりました。

このトリオで、まともなのは自分だけではないだろうか?

ユウイチロウは、このトリオの行く末を案じずにはいられませんでしたが、

何とか持ちこたえました。


自分もぼうしの国のことを話している現実に、気がついたからです。


ユウイチロウは、二個ある頭のつむじの一つをかきかき、


「そう、マユコの言うとおり、人間の存在がだいじなんだ。

そして、その人間とぼうしをめぐりあわせる役目をしているのが、

【きっかけ・ハット】で、彼が、ぼうしの国ではいちばん大切な存在なんだ」


ユウイチロウは、そこまで話し終えると、そこから先は、一気に話しはじめました。

ジャングルジムの上で鉄棒を握っている手が、しびれてきたからです。



〈続く〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る