出会い
ロックには親がいない。親代わりとなったのが、バーナード騎士団団長のマックス・バーナードである。バーナード騎士団は傭兵集団に近い存在だ。マックスとロックが出会った日も、依頼により戦っている時だった。
人々が魔族によって連れ去られ、解放と魔族の撃退をしてほしいと依頼があり城へと向かった。
「こいつはまた派手なもんを作ったなぁ~。魔族に家を建ててもらったら数時間でできるんじゃないか?」
少し癖のある銀髪の男が団長のマックス・バーナード。おどろおどろしい雰囲気を持つ城の前で結構のんきしていた。メインの武器は剣であり、接近し魔法で強烈な剣の一撃を叩き込んで瞬時に終わらせるのを得意とする。
剣術家としてのレベルもトップと言っていいほどで、対等に戦える者は片手で数えられるくらいしかいない。
「団長、どうする。人質の解放をするなら潜入するか?」
少し黒髪が目にかかった男が言った。名はブロード。黒スーツ姿に皮手袋を付けた騎士というには風貌があまりにも似つかわしくない。
だが、元よりバーナード騎士団は騎士らしい人間を集めているわけではない。ほかにも硬質化の魔法を得意とする太った男に、身の丈のほどある斧を二本背中に担いだ明らかにパワーでごり押しするような男までいる。
固執しすぎないことで数多の出来事に対応するための、マックスのやり方だ。
「ブロード、先に潜入してくれ。三分後に正面から突入する」
「また損な役回りか」
「お前にしかできないことさ。それともブラッチョにやらせるか?」
「あいつの体じゃどこに隠れられないだろ。わかった、行ってくる」
「潜入できそうになければすぐに戻ってこい」
三分後、潜入成功の合図を確認しマックスは全員で正面から突入した。
突入し物の数分で制圧して捕まった人たちの解放をしていると、少し離れた部屋の扉前で女性が倒れている。正面から心臓を一突きされていた。だが、なぜほかの人質と違いこんな場所にいるのか。気になったマックスは近くの部屋を探すと、クローゼットの中から微かに声が聞こえる。
クローゼットの扉の中に罠がないか確認し、ゆっくりと開けると、そこにはまだ生まれて一か月も経っていない赤子が寝ていた。
「ブロード、見てみろ」
「赤子か」
「さっきのが母親だろう。抜け出した隙に隠したのは、殺されることをわかっていたのからかもしれないな」
「こいつ、どうするんだ」
赤子が起きるとマックス達の姿を見て泣き始めた。
さっきまで戦闘をしていたために表情に緊張感があったのだろう。
「ほら、泣いたぞ。団長が見つけたんだから」
「俺があやすのか!? え、えっと。大丈夫だよ~。俺たち悪い人じゃないからね~。よしよし~」
赤子を抱きかかえ、最大限柔らかい声を出してあやしていると、赤子は笑い始めた。
「さっき、どうするんだと言ったな」
「ああ。解放したやつに持たせるわけにもいかんだろうし」
「なら、俺らで育てればいい」
「……はぁ?」
「見てみろ、この表情。俺はこの子の魂にか熱いものを感じる。生きいたいという熱い魂をだ」
そうして、バーナード騎士団は赤子にロックと名をつけて共に旅をした。
「マックス、見てみて!」
成長していくとロックは炎魔法を使えるようになっていた。これにはマックスも驚いた。魔法の才能さえあるのではないかと。しかし、上手くコントロールできないことを知ってからはあまり魔法を使わせないようにした。
時にはロックの炎が助けるになることもあった。団員達もロックをいじってみたり驚かせてみたり、面白いものを見せたり、団全体が家族のようだった。
だが、大きな戦いの最中。ロックは少女を助けようとして代わりに人質になってしまった。その結果、戦いは悪化することになる。激しい戦いの中、近くに飛んできた魔法に体を吹き飛ばされ、薄れ行く意識の中少女が連れ去られるのを最後にロックの記憶は途絶えている。
目覚めた時にはマックスに抱えられ崩壊する町が瞳に焼け付いた。
「町は……どうなったの……?」
「お前が助けようとした少女は無事だ。何も心配するな」
それから、バーナード騎士団は少しの間、疲れを癒し物資を手に入れるため、小さな町を拠点とし過ごした。ロックはそこで自分が足手まといだったからマックス達がてこずったのだと痛感する。
それと同時にマックスからは孤児院にあずけることを伝えられた。新たな依頼は時間がかかるもので、ロックを守れるかわからないというのが理由だった。
果てしなく広がる草原が見える丘でそのことを聞き、ロックはマックスへと問いかけた。
「もう一度会える?」
マックスは堂々と答える。
「会えるさ。時間はかかるかもしれないが、絶対に会える」
「そっか」
すると、マックスは手を空にかざし言う。
「俺、魔法使いになるよ。もっとこの炎を使えるようになって、マックスよりも有名になって、あっと驚かせてやる。だから……」
我慢していたのに声が震える。
涙が溢れ、次の言葉が出ない。
ロックはマックスに背を向けたまま言った。
「俺、絶対強くなるから。マックスも絶対死ぬな!」
ロックにとって団員は家族同然だった。マックスのことも本当の父親のように慕っていた。尊敬する存在でもある。マックスみたいに強くカッコいい存在になりたいといつも思っていた。
離れるのは寂しい。マックスに抱き着いて置いていかないでと言いたい。
だが、ロックは振り向かない。
「さっさと行けよ……。じゃないと……もっと苦しくなるだろ!」
マックスはロックに背を向けた。
風が吹き、マントが揺れる。
「ロック、俺はお前を本当の子どものように育ててきた。俺にとってお前はかけがえのない存在だ。今からは道が分かれる。だがな、いずれ道は交わるだろう。その時、俺に成長した姿を見せてくれ」
「わかってる。余裕ぶっこいてるとあっという間にぬかしちゃうからな」
「楽しみだ。――またな」
マックスがいなくなる。
ロックは我慢できずに振り向いた。
「マックス!!」
だが、そこにはもうマックスの姿はなかった。
「……またな」
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