炎魔法しかできません 4

 フィールドの中央には審判役の教師ドムが立っていた。大柄な肉体に丸太のような腕、背中には大剣を背負っている。


「ロック、やれるのか」

「やらなきゃ前に進めないなら、やってのけるしかないでしょうに」


 不安の色を見せないロックの姿にドムはどこか安心したような気持ちになる。すると、ブライトの入場が始まった。


「一年においてトップレベルの雷魔法を使いつつ、その他の魔法も劣らず優秀な使い手、この男に隙はあるのか! 一年C組四級魔法使い、ブライト・ハーメルン!!」


 ロックの時よりも盛り上がりを見せる会場。想像はしていたアウェイな状況に気圧されることなく、ロックはブライトをじっと見た。

 堂々と入場しロックの目の前に立つ。うねった金髪の毛先をくるくると指でまわす姿には余裕が溢れていた。


「君さ、どれだけ減点されたら僕と決闘しなきゃならない状態になるわけ? 何があったかよく知らないけど、よっぽど素行が悪いってことだろうね」

「何があったかなんてどうでもいいさ。要は勝てばいい」

「あのさあ、魔法使いってのは自信や気合いだけでどうにかなるもんじゃないの」

「才能だけってこともないだろう」

「じゃあ、僕が現実を教えてあげる」


 戦いが始まった。

 ロックはいきなり小さな炎を大量にばらまいた。接続型ではなく単独型で。無論、接続型による練習をしていたロックにばら蒔いた炎の火力の調整はうまくできない。

 だが、それでよかったのだ。あくまてこれらは目眩まし。魔力が攻撃の軌道を見せてしまうため単純に放つだけでは当たらない。

 先に放った炎で隠す作戦に出た。


 先に放った炎が完全に消滅する前に、炎を突き抜けてきたのは矢のように鋭く真っ直ぐ進む炎魔法。


「炎の形状変化はできるわけだ。でも、こんなんじゃ駄目だよ。マジックバリア」


 基礎魔法の一つマジックバリア。魔力をバリアとして展開し、物理や魔法を問わず防御することが出来る。

 ロックの火の矢はバリアに触れ跡形もなく消えた。


「で、次の魔法は――」


 ブライトがそういいかけた時、目の前には拳ほどの大きさをした無数の火球が迫っていた。


「すでに次の攻撃は始まってるんだぜ!」

「小細工が得意なようだね。だけどさ、まだバリアはあることを忘れてないかい?」


 先の一撃ではバリアを壊すほどの威力には至らなかった。このままでは火球さえも完全に防御されてしまう。


「んなもん分かってるさ。だから、これだけ打ったのさ」


 火球の多くはバリアの中心一点を狙い当たり続ける。


「数打てば当たるなんて思ってないだろうね」

「防がれた炎は次なる炎へ道を繋げる!」


 四つの火球の大きく半円を描くように飛んできた。その時、ブライトは気づく。自身のバリアが収縮していることに。

 

「マジックバリアは魔力消耗で範囲が狭まるくらいさすがに知ってるさ!」


 火球がブライトへと当たり白煙が上がる。

 これで倒せるなんて思ってはいない。多少でもダメージが入れば勢いをつけられる。

 そう思ったのも束の間。白煙が晴れると、ブライトは全身に青いオーラを纏い平然とした表情で立っていた。


「アクアオーラ。水魔法の防御だよ」

「さすがに簡単にはやらせてくれないよな」

「で、君の魔法は今ので終わりかい? だったら、次は僕からやらせてもらおうか」


 ブライトは人差し指を立て軽く振って見せた。

 しかし、何か強力な魔法が出るわけでもなく、何の異変すらも感じない。


「もしかして不発か? ハーメルン家のエリートなのにそんなこともあるんだな」

「バカは能天気でうらやましいよ。すでに自分の身に起こっている異変に気づけないだなんてね」

「俺の体はこの通りピンピンしてるぜ。んじゃあ、もう一度熱い一撃を……」


 次はもう少し強力な魔法を出すため、足を後ろに引こうとした時に、ようやく異変に気付いた。足がまったく動かずその場にしりもちをついてしまった。体が痺れているわけではない。意識もはっきりとしている。足元を見てみると、そこには芝生が伸びて足に絡んでいた。


「非力な人間の足を止めるくらいならそれで充分だろう」

「エリートなのに案外狡い真似をするんだな」

「別にやる必要はないんだけどね。この決闘がどれだけ愚かなことか、しっかり絶望してもらおうと思ったのさ」


 ブライトがロックへ手をかざすと、バチバチと電気が手に集まっていく。徐々に音は激しさを増していき、今にも電撃が放たれそうな状態にロックの緊張感は高まる。

 足に絡みついた草をとるため、手に炎を発生させる。想像よりも大きな炎が出てしまい爆発音がなる。足が自由になりすぐにでも動こうとしたがすでに遅かった。


「簡単な魔法だけど、僕のなら充分な威力があるよ。エレキシュート!」


 電撃が高速でロックを狙う。

 炎の勢いを使って避けようとも考えたが、火力を調整しながら回避するのは今の自分にはできないとわかってしまう。せめて、大きな隙を見せないために力強くふんばり、電撃を受けることにした。


 直撃した電撃は体全身を駆け巡る。

 

「そうか。噂で聞いたよ。君は炎以外の魔法は使えないんだったね。でも、炎のバリアくらい使えばいいのに」

「そこまで器用じゃないんでね……」

「そうかい。まぁ、関係ないけどね。今からここを僕の魔法披露会にするんだからさ」


 空に手をかざし再び魔法を放つ。


「エレキシャワー!」


 小さな電撃がロックのいる場所へと無数に降りそそぐ。

 ロックは膝をつき必死に意識を保とうとした。気を抜けばやられてしまう。それだけは絶対に避けたい。ロックにはこの学園に残る理由があったからだ。


「さぁ、どんどんいくよ!」


 



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