炎魔法しか出来ません 3
日夜、ステラに教わったことを練習したおかげで、火力の調整はかなり進歩していた。以前はロウソクに火をともすのにさえ苦労していたのに、今では手のひらをサイズほどの火球ならば複数放てるほど。
決闘前夜、ロックの練習が終わったところにステラがやってきた。その場に座り込み息をきらし、額の汗を拭うロックの頬へとカップをおしつけた。
「冷たっ!!」
「アイスティーよ」
「ありがたいけどもっと普通に渡してくれよ」
「面白くないじゃない」
「面白くなくていいの!」
ロックへとカップを手渡すと隣に座り、自分の紅茶をひとくち飲んだ。二人のカップはティーカップではなく金属製の少し大きめのものでキャンプなんかで使われるものだ。
「んで、調子はどうよ」
「いいんじゃないかな」
「そう」
「なんとかなる気はしてる。あとはブライトが慢心してくれたらいいけど」
「した上で勝てるかわかんないくせに」
「そこは嘘でも勝てるって言ってくれよ」
「私、嘘やお世辞は苦手だから」
雲の切れ間から顔を覗かせた満月が二人を照らす。
「あの時の夜もこんな満月だったな」
「よく覚えてるわね」
「こっぴどく先生に怒られたからな」
ステラは少し口ごもりながら言う。
「……後悔してる?」
「いや、全然。やってよかったよ。あの時、もし何もせず見過ごしてたら、こんなことにはなってなかったかもしれないけど、あの時に実感できたんだ。俺はバーナードでいいんだって」
ロックは孤児院で育ったが、それ以前は騎士団に拾われそこで世話をしてもらっていた。今でも育ての親である団長のことを尊敬し、同じ苗字をもらったことを誇りに思っていた。
「私が教えてあげたんだからやれるわ」
「ステラがそう言うならやれるんだろうな。……よし、明日絶対に勝ってやる!」
勢いよく立ち上がり意気込むロックを見つめるステラ。優しい光に照らされたロックの姿をみて、ステラは小さく笑う。
翌日、決闘場には多くの生徒や教師が集まっていた。観覧は任意だったがロックの悪い噂と名家のブライトの戦いは、勝敗よりもブライトがどんな魔法を使うかに注目が集まっていた。
円形の決闘場のフィールドには芝生が広がっている。ロックは入場口からそれを眺め小さな不安を抱えた。多くの生徒や教師が見ている中で自分の今後が決定する。それも自分の力でつかみ取らなければならない。練習をしたとはいえ、本番の緊張感は想像を超えるものだった。
「ロック様!」
「ロック」
振り向くとエレイナとステラの姿があった。
「二人ともどうしてこんなとこに」
「エレイナがどうしても見たいっていうからね。客席は生徒ばっかでいづらいだろうからこっちに連れてきた」
「応援しに来てくれたのか?」
「もちろんです! ロック様なら絶対勝てますよっ!」
混じりけのない無垢な応援がロックにはとても心強かった。
「教えたことを忘れないで。でも、本当に困った時は何も考えずやれることやりなさい。外と違って後の始末はどうとでもなるから」
真っ直ぐと揺らぎない言葉がロックの心をさらに強くする。もう不安はない。あるのは、目の前の相手にただ勝利するだけ。
決闘上全体に実況役の女子の声が流れる。
「バーナード騎士団団長の推薦で入学したのち、町に現れた悪党に大ケガを負わせたこの男は、不良少年かもしくは純粋な正義感の持ち主か、一年A組五級魔法使い、ロック・バーナード!!!」
メインの目的はブライトであると言うのに、放送部のアイナ・チェンバーの盛り上げのおかげでロックの入場にも大勢が期待していた。
「行ってくる」
「終わったら何か奢りなさいよ。練習に付き合って上げたんだから」
「もちろん。そのためにも勝つさ」
ロックがフィールドへと歩むと、会場のボルテージはさらに上がった。
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