炎魔法しかできません 2

 ヘルナードからは決闘をすることでは評価点の早期向上を提案された。

 この魔法学園では教師に申請した上で許可がとれれば決闘を行うことができる。単なる腕試しではなく、負かした相手の実力と自身の実力の差が広ければ広いほど、勝利した際に入る評価点は高い。

 しかし、負けてしまえば評価点は下がる。そのため好んで決闘をやる生徒はそう多くない。


 来週に予定された決闘の相手を知り、ロックは不安な面持ちで庭園の木に腰掛け空を眺めていた。

 そこにメイドのエレイナがやってきて心配そうに顔を覗き込む。


「どうされたんですか?」

「エレイナか……。いや、評価点が低すぎて決闘しなくちゃいけなくなってさ」

「それは大変ですね。お相手はどの方が?」


 エレイナはロックの隣へと座った。所作さえもメイドらしい丁寧な動きであったが、いまのロックにはそんなのを見ている余裕はなかった。


「ブライト……」

「ブライトって……もしかしてハーメルン家のブライト様ですか!?」

 

 ブライトは一年の中でも高い魔法の才能を持ち、家柄も良く将来を期待された存在。得意な雷魔法以外にも満遍なく魔法を扱え、満身さえなければ付け入る隙がない。


「それっていつなんですか」

「来週だって」

「そんなにすぐに。やっぱり、あの一件が響いたのしょうか……」

「まあ、そうだろうなぁ。でも、過去のことはしょうがない。上手くやれるように練習しないと」


 残された期限は一週間。

 決して長いわけではないこの期限のうちに、ロックは炎魔法の火力調整をなんとか済ませたかった。



 雲一つない星空の輝く夜。

 学園の敷地内の人気が少ない場所でロックは一人練習していた。学園を囲む外壁にお手製の的を設置して、人差し指から小さな炎を発生させ飛ばす。

 しかし、炎は途中で力をなくし消えていった。


「相変わらず調整が下手くそね」

「ステラ、なんでこんなとこに」

「それはこっちの台詞よ。いや、事情は知ってるわ。ブライトと決闘するんでしょ」

「エレイナから聞いたのか」

「心配してたよ。ロックがいなくなっちゃうって」

「心配してくれる人がいるってのは案外嬉しいもんだな」

「何いってんのさ。本当にいなくなったら意味ないでしょ」

「負けるつもりはない。だけど、綺麗に勝てるかと言われれば正直自信はない」


 ロックの表情には陰があった。そんな姿を見てステラは小さくため息をつき、手から氷柱を発生させると的の中心へと飛ばした。だが、途中で空中分解し粉々になる。


「ロックがやってるのはこういうことよ」

「ど、どういうことだ?」

「授業で習ったことあるでしょ。単独型魔法と接続型魔法。あなたは単独型を放ってるのに魔力の固定や魔力量自体が足りてないの」


 単独型魔法は、放つ魔法自体に安定した十分な魔力を込めて放つもの。飛距離や範囲や威力に比例し難易度が上がる。

 接続型魔法は放った魔法に対し発動後も魔力を込め続けるものだ。単独型よりも安定しやすいが発動が少し遅くなる。


「例えるなら単独型は池のようなもので接続型は川のようなもの。川と言えど流れる水の量が減れば勢いは落ちるし、池だって大きな穴ぼこに水をいれるならそれ相応の地盤と量がいるでしょ」

「なんとなく言いたいことはわかったけど、でも俺とどう関係してるんだ」

「鈍いなあ……。仮に火球を放つとして、その形は池の地盤、内包する魔力は水。この両方のバランスが崩れたら、水が溢れだすかどこが崩れて溜まらない。あなたのはバランスが悪いってこと」


 ステラがもう一度氷柱を放つと、飛ばした氷柱と手が淡い魔力の光で道のように繋がり、安定した状態で氷柱が的へと刺さった。


「こうすればある程度安定するわ」

「えっと、単独型の魔法を接続型にして分解しないように調整するってことだな」

「そういうこと。と言っても発動までにほんの少しタイムラグがあるのと、軌道が読まれやすい欠点がある。たぶん、いまのロックなら余計にね」


 もう一度氷柱を放とうとすると、氷柱が放たれるよりも先に魔力の光が的へと伸びる。その後、氷柱は光にそって的へとあたった。


「いまのロックにとって火力を調整するための最適解がこれ」

「先に道を作って持続させながら放つのか」

「言った通り読まれやすい。でも、同時にいくつも飛ばせれば……」


 再び手のひらを的へと向けるといくつもの光の道ができあがり、複数の氷柱がそれらにそって飛び出す。


「弾幕を作ればあとは素早さがものを言う。ブライトに対して相性がいいとは言えないけど、これなら今よりも調整が効くわ」

「……」

「何よ」

「いや、なんでこんなに親切に教えてくれるんだろうなって」

「あなたには借りがあるから。それに、直接的な原因ではないとは言え、私が関わったことで誰かが退学になるだなんて気分が良くないわ」

「そうか。それもそうだな。わかったよ。こんだけ教わったんだ。ブライトに勝ってやる!」


 あまりにも純粋なロックの笑顔をにステラは思わず顔を背ける。


「頑張りなさいよ。エレイナだって心配させてんだからさ」



 

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