気になるので聞くことにした! ~その事だけは暴露するな!!~



「……」

 ちうちうとアルジェントとヴィオレに頼んで買ってきてもらった、「ぷにっこジュース」と書かれた紙パックのジュースの中身をストローでルリは吸っていた。


 横で買ってきたアルジェントが、自分を凝視していることに気づくことなく。


「……んむー」

 中身を全部飲んでしまったのか、凹んだそれを持ちながら、ストローを抜き、口に咥えたまま動かす。


 三日前、真祖は夜何故かルリの元に来ることは無かった。

 かわりにグリースが姿を現し、ルリとルリの好きなことについておしゃべりをしてくれた。


 二日前、この日も真祖は来なかった。

 前日同様グリースがやってきた、何故かアルジェントが乱入してきた、非常に不機嫌な顔をして。

 グリースの言葉にアルジェントが噛みつくように言い、途中でグリースがルリの耳にイヤホンを着けた、「俺が外すまで外さないでね」と言って。

 なので外さず、着けていた。

 普通なら何か喋っているのが聞こえるはずだが、全く聞こえてこなかった、自分の好きな音楽だけが聞こえてきた。

 自分の好きな音楽とかも資料とかに乗っていたのかなぁと思いながら、音楽をぼーっと聴いていた。

 しばらく聴いていると「終わったよ」とグリースがイヤホンを外して頭を撫でてきた。

 アルジェントは何処だろうと、ルリが少し視線を動かすと、アルジェントは何か凹んだ様子で床に手をつけていた。

 ゲーム的に言うと「負けた側」がするような感じだった。

 ルリはグリースに何をしてたかと聞くと、グリースは「少し論争をば」とだけ答えた。

 何を論争していたのかわからないが、とりあえずアルジェントがぱっと見で精神的に凹まされているのが分かる程、グリースは口が達者なんだろうとルリは思った。

 ただ、何となく可哀そうな気がしたので、アルジェントの頭を撫でてみる。

 撫でられたアルジェントはばっと顔を上げた。

 ルリがいやだったかと聞くと慌てた様子で否定した。

 グリースと関わるとアルジェントは普段ルリを世話している時の様子と全く違う感じがする。


 昨日、ようやく真祖がやってきた。

 真祖の部屋に連れていかれるとグリースが真祖の棺の上に座っていた。

 何となくだが、真祖の配下がこれ見たら確実にグリースを殺そうとするんじゃないかなと思った。

 特にアルジェント。

 真祖が「私の棺の上に座るな」と咎めると、「へいへいわかりましたよ」とグリースは棺から立ち上がって、ベッドに座っている私の隣に座った。

 私に対しては何故か優しい笑顔を向けてくれるが、真祖やアルジェントなどにはそういう笑顔はあまり向けなてないように見えた。


 なんというか呆れているように見える。


 最初はルリはグリースが他者を見下しているのかと思った。

 でも違う。

 まるで何かを「やらかしていしまっている」から呆れているかのように見えたのだ。

 一体何を「やらかした風に」グリースが感じ取ってるのかはわからない。

 久々見た真祖に向ける視線は、いつも以上に呆れているような視線だった。


 ねぇ、真祖は来てない二日間何してたの?

 と、ルリが尋ねると、真祖は言葉を濁した。

 その直後グリースが。


『ちょっとルリちゃんに言いづらいお仕事が入ったんでそっち対応してたんだよ、ああ、言いづらいから内緒だよ、ルリちゃんも聞こうとしないでね。聞いたらきっと後悔するから』


 と、何とも気になるのに聞きづらい、言い方で言ってきた。

 ルリにとって非常に聞きづらい言い方をしてきたのだ。

 ルリは聞くことで「後悔」すると言われたら聞けないのだ、怖くて。


『よしよし、いい子いい子』


 頷くと、優しい笑顔で頭を撫でてきた。


『あ、あとね、ルリちゃん。ルリちゃんの血、ちょっと吸血鬼には中毒性が高いんだよ。だからね真祖が飲ませてっていっても俺がいない間はぜっっっったい飲ませちゃだめだよ? 飲ませる量は血液パック一個分だけ、いいね?』


 グリースは何かを思い出したようにそう言いながらルリの頭を撫で続けた。

 ルリにとって「中毒性? どゆこと?」という感じだったが、前聞いたような聞いてないような微妙なラインの話だったし、自分の不死人のフェロモンと似たようなもんだととルリは納得して頷いた。


『よしよし、ルリちゃんは本当いい子だねぇ、誰かと違って』


 と言ってジト目でグリースは真祖を見た。

 ジト目で見られた真祖は顔をそらした。

 何をしたんだろうと疑問が浮かぶが、何となく本能が「聞くのはやめろ」と言ってくるので従うことにした。


 そろそろルリが眠いから自室に戻りたいと言い出した時、真祖がルリの血を欲しがるような発言をしたらグリースが凄い剣幕で真祖を怒鳴りつけた。

 若干目が覚めて何事かとルリは混乱した。

 グリースはすぐ我に返ってしまったという顔をしてから、いつものルリに対する優しい笑顔になってルリに近寄った。


『ルリちゃん、俺ちょっと此奴と話したいから、ね?』


 グリースはルリを抱きかかえるとそう言って、そのままルリの部屋に転移させて、ルリをベッドに寝かせて毛布をかけた。


『お休みルリちゃん』


 額にキスをされた。

 すると眠気が一気にやってきてルリはそのまま目を閉じてしまった。



 ルリはゴミ箱にストローと紙パックを捨てると、ベッドに腰を掛けて思案する。

 昨日の真祖とグリースは何かおかしかった。

 真祖が最後に血を吸いたいと言った時、何であんなに怒鳴りつけたのだろうか。


『お前学習能力あんの?!』


 という言葉、そしてルリに言った「中毒性がある」という言葉と、真祖になるべく血を与えないようにと言わんばかりのセリフ。

 ルリはふとグリースが来るまでの事を思い出す。


 真祖はグリースが来るまで頻繁に、しかも大量に、自分が人間のままだったら失血死している位に。

 それと「中毒性」。


 ルリは確かめることにした。

「アルジェント」

 その為に部屋から自分とグリースだけにしなければならなかった。

「ルリ様、何でしょう」

「グリースと話がしたいの、二人っきりで。だからお願い、部屋から出てくれないかな?」

「な……?!」

 ルリには何となく予想がつく反応だった、だが嘘は言えない。

 ルリにはこの城でこの部屋で会うことができる人物はアルジェントとヴィオレと、真祖と、グリースだ。

 グリース以外の誰かの名前を使ってグリースと会話をしたら、アルジェントの事だ、確実にバレるし、そのことを咎めてくるだろう。

 ならば最初から言った方がいいとルリは判断した。

「なりません、それだけはなりません」

 アルジェントはルリに近づいて肩を掴んできた。

 目が明らかに何かおかしい、正直に言うと怖い。

「ヴィオレや、真祖様とお話ししたい、というのなら私はもちろん退出いたします。ですがグリースだけはなりません、アレは貴方を不幸にする者です」

 アルジェントの声色から、アルジェントは自分が今言っている言葉を正しいと信じて言っているのが分かる。

「いや、でもグリースが居ないとヤバイときあったし……」

「なりません」

 アルジェントは頑なに拒否する。

 ルリはさて、この頑固な世話役をどうやったら言いくるめられるかと考えた。


「おいおい、アルジェント。ルリちゃんの可愛い我儘は聞いてあげるのがお前の仕事の一つじゃなかったのか?」


 窓の方をルリが見ると、グリースが窓に寄りかかっていた。

「ルリちゃん、どったの?」

「話がしたいの」

「ルリ様、なりません!」

 アルジェントが焦った声で言い、ルリの体を掴む。

「――ルリちゃん、どうしても俺と二人っきりじゃないとダメ?」

「うん、ダメ」

 グリースの言葉にルリは頷いて答えると、グリースはふむと、何か考える仕草をしてから、非常に意地の悪い笑みを浮かべた。

「アルジェント! ルリちゃんのご要望だ、部屋から出ろ」

「ふざけるな!! 誰が貴様とルリ様を二人っきりに――」

「出ないとこの間ルリちゃんには聞かせなかった、お前のあの情報、ルリちゃんに暴露するぞ? いいのか?」

 グリースのその言葉を聞いたアルジェントの顔は、真っ青になった。

 冷や汗をだらだらとかき始めている。

「あの情報? もしかして、私がイヤホンつけていた時に何か喋ってた奴? あれ論争じゃなかったの?」

「論争じゃなかったんだよー正解は口論。その時に言った内容、アルジェントを気遣ってルリちゃんには聞こえない様にしたんだけど――」


「どうやら暴露してほしいようだな?」


「……!!」

 アルジェントは明らかに動揺している、見たことがないほどに。

 ちらりとアルジェントがルリの方を見てきた。

「?」

 視線が合う、途端に顔色が酷く変動する、赤くなったり、青くなったり、何かおかしい。

「……わ、わかった」

 しばらく口を閉ざしていたアルジェントが声を絞り出すように言った。

「わかればいい、ほれじゃあ出ていきな。ああ盗聴とかはさせないからな、そういうの禁止!」

「……」

 普段ならそんな事を言われたら噛みつくはずのアルジェントは何一つ文句を言わなかった、つまりグリースの暴露するといった情報を、アルジェントはそこまで自分に聞かれたくない、もしくは聞かれたら不味い内容なのだろうとルリは予想する。

「……ルリ様、失礼、いたし、ます」

 ぎこちないセリフを吐き出して、アルジェントは部屋を出て行った。

 鍵がかかる音がする。

「んじゃ」

 グリースがぱちんと指を鳴らすと、少し高い音が聞こえた、何なんだろうとルリが思っていると、グリースが近づいてきてルリの隣に腰を下ろした。

「これで邪魔者は入らない、誰も透視できない、盗聴できない」

 グリースは意地悪い笑みではなく、優しい笑みで結構とんでもない事を口にした。


「ルリちゃん、君は俺とどんなお話しがしたいんだい?」


 灰色の目がルリを見つめた。




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