めっちゃ吸血される ~中毒症状になる程吸うとかお前バカ?!~
「ぐへー……」
真祖との話等を終えて自室に戻されたルリはベッドの上に倒れこんだ。
「くらくらする……」
ルリの体調が完全に戻った夜から、真祖は頻繁にルリの血を吸うようになったのだ。
血を吸われる事に関してルリは別に文句を言いたいという感情はない。
ただ真祖が吸う量に関しては文句が言いたかった。
真祖は、ルリがバシバシ背中をたたいて吸血を止めるよう伝えないと止めないのだ。
際限なく吸おうとする。
人間だったら失血死レベルで吸われているが、痛くないし死なないのを分かってるっ分色々と危険を感じた。
その際、最初は吸血をやめるよう言って対処した。
一回目は反応してくれたが、二回目は全く聞こえてないのか、ルリが意識を失うまで真祖は血を吸い続けた。
なのでルリは「あ、これやべぇ」となるべく早めに判断して、真祖を渾身の力でばしばしと叩くことにした。
通常時なら気づかないだろうが、ある種「命の危機」に近い状態にルリは陥るためか身体能力はかなり高くなり、その状態で叩くと真祖でも結構痛いので気づいてくれる。
なので、ここ最近、血を直に吸われる時は危険を感じたら即座に真祖の背中をばしばし叩くようにしている。
「……そろそろグリース呼ぶか……」
ルリはベッドの上でぽつりと呟いた。
何か忙しいのか、それまでのゴタゴタでまだ疲れているのかわからないがグリースが現在姿を見せてないのだ。
朝も姿を見せなければ、真祖との会話に混じってくることもない。
何かそろそろ誰かが止めてくれないと自分の体が危険な気がしてならなかった、アルジェントとヴィオレは止めるのは無理そうなので、グリースになる。
真祖に「あんまり血を吸いすぎるな!!」とは言ってるものの、一度吸うとその言葉が頭から消えるらしい。
なので、あんまり意味がない。
ルリはため息をついて毛布をかぶる。
くらくらするし、気分は悪いし、体がしんどい。
頻繁にこれが続いているのは正直嫌になってくる。
真祖に「次やったらもう血吸わせねぇぞ!!」とでも言えれば良かったのだが、頭の中の何かが「それを言ったら不味い!!」と危険信号を出してるので言い出せなかった。
明日グリースを呼ぼう、そして相談しよう。
ルリはそう決めると、体を回復させようと目を瞑った。
よく分からないけど、寝ている間に不死人だから、血とかも回復しているだろう、そんな希望と願望を抱きつつ眠りに落ちた。
暗闇に包まれ、寝息と時計の音しか聞こえぬルリの部屋に、部屋の闇よりも暗い闇が入り込む。
それは巨躯の人型になり、ベッドらしき箇所に何にもぶつかることなく近づいた。
ヴァイスの真紅に染まった目には、闇に包まれた部屋は、昼間の明るさと同じような状態に映った。
ベッドで、ルリが眠っているのが見える。
寝返りをうち、白い首筋が見えた。
ヴァイスはルリを抱きかかえ、ルリの首に口を近づける。
牙を柔肌に食い込ませた。
「んぅ……」
眠っているルリの口から寝息以外の声が発せられるが、ルリは起きる気配はない。
ヴァイスはルリの様子には反応する気配を見せないで、夢中になってルリの首から血を吸った。
ルリの顔色から血色が無くなっていってることに全く気付かず。
血を吸い続け、そのせいでルリの体から体温が徐々に失われていっているのに漸く気づいた時、ヴァイスは我に返り、慌ててルリの首から口を離す。
普段血色の良い温かな体は、青白く冷たくなりつつあった。
ヴァイスは狼狽える。
動かない体がまるで死体のようだ。
「ルリ、ルリ」
体を揺すって、名前を呼ぶ。
「……」
反応が鈍い。
「ルリ!」
再度名前を呼ぶ。
「ん……」
血色の悪くなった唇から声が零れる。
唇が呼吸するかのように動いてから、一度息を吐き出し、目をゆっくりと開けた。
「……なぁに……眠い……あたま、くらくらする……あとなんか苦しい……」
ルリはそう言って何か苦しそうに目を閉じた。
「ルリ」
「も……何……眠い……寝させて……」
ルリは辛そうな声で言う、どうやら今のルリは非常に眠い状態に陥っているようだ。
ヴァイスは狼狽えた、このまま眠らせていいのかわからないのだ。
アルジェントやヴィオレになど相談できない。
――一体どうすれば――
「――グリース」
ヴァイスは静かにここ最近姿を見せぬ侵入者の名前を呼んだ。
「んだよ、こんな夜遅くに……」
少しして、グリースが不機嫌そうな顔で姿を見せた。
どうやら睡眠中だったようだ、若干眠そうである、恰好も普段と違いどう見てもルームウェア系の恰好だった。
眠そうなグリースだったが、ヴァイスの腕の中のルリを見た途端眠気が吹っ飛んだような表情と目をして近づいてきた。
「ちょ、る、ルリちゃん?!」
「……う゛ー……ぐりーす……あしたよぶ……ゆめにでるのはなんで……」
ルリは意識が混濁し始めているようだった。
グリースはヴァイスに抱きかかえられているルリの腕を掴む。
そして渋い表情をしてから、明らかに怒りを宿している表情になる。
「……おい、ヴァイス。一旦ルリちゃん寝かせろ」
「だが」
「いいから寝かせろ」
グリースの意見や反論、自分の言葉とは違う行動を許さぬ圧のある言葉に、ヴァイスは不安を抱えつつも従い、ルリをベッドに寝かせる。
「どけ」
グリースの言葉に従ってその場から離れると、グリースは注射のような物を取り出し、ルリのネグリジェをめくって太ももに刺して中の液体を注入する。
注入し終わったのかそれを抜き、術でソレを消した。
「おい、お前の部屋に行くぞ」
明らかに怒りのこもった声でグリースが言う、ヴァイスは大人しく従った。
部屋に転移すると、グリースは何か深呼吸はじめた。
息を吸って吐き出し、頷いたと思ったら振り返ると同時にヴァイスのみぞおちに重い一撃を叩き込んできた。
「ぐ、ぅ……!!」
吹き飛ばされる程ではないが、内臓を破壊するように調整されたそれにヴァイスは呻き声を上げ、血を口から吐き出し、その場に蹲るように倒れる。
「お前バカか?! バカだろ、おい!!」
グリースの罵倒が聞こえた。
「ルリちゃん触って読んだけど、お前俺がいない間どんだけルリちゃんの血吸ってんのマジで?!」
どうやら、先ほどルリに触った時、グリースがいない間何があったかを読み取ったようだ。
その際ルリの体に起きた事なども。
「はっきり言うぞ、お前中毒になってる!! かなりヤバイレベルで!!」
起き上がり、内臓を修復しながら残る痛みに耐えながらヴァイスはグリースを見た。
グリースは非常に焦った表情をしていた。
グリースは久しぶりに色んな意味でやらかしたと反省した。
ヴァイスの事を過信していたのだ、ルリの血を吸いすぎるような事はしないだろうと、だが、蓋を開けたらヴァイスはルリの血を吸いすぎて、かなり危険なレベルの中毒症状に陥り、眠っているルリの血のほとんどを吸うような行動を無意識に行ってしまっていた。
そして、ルリに対して、彼女自身の血がどれほど中毒性を持っているのかの説明をきちんとしておくべきだったと反省した。
そうすれば、ルリは明らかに血を頻繁に吸うようになったヴァイスの異常性に気づいて自分をもっと早く呼んでいただろう。
ヴァイスの中毒レベルは明らかに不味かった。
もしこれが他の吸血鬼だった、もう手の施しようがない、つまりルリの血を一生吸わせ続けるか――滅するかの二択だ。
そうでもしなければ、その吸血鬼は永遠に満たされぬ渇きと他の血を受け付けられなくなった体に苦しみ続ける必要がある。
少しばかり、ヴァイスが他の吸血鬼と別枠ともいえる存在で良かったと安堵した。
つまり、ヴァイスはまだ、手を施せる、治療が可能なのだ。
「――お前、当分ルリちゃんに近づくな」
「何、だと?」
グリースの言葉に、ヴァイスは耳を疑っているようだ。
「お前の中毒症状治すためだ、言うぞ、中毒なってるお前にはルリちゃんの普段出してるフェロモンもやべぇんだ」
グリースは術で医療器具を出現させながら言う。
「全く、俺言ったよな、飲むなら少量、パックを五日に一回で我慢しろと!! 何で直で吸うし、ルリちゃんじゃなかったら失血死レベルまで飲むし、その上一日に一回だし、全部アウトじゃねぇかテメェ!!」
グリースはヴァイスを怒鳴りつける。
「……」
グリースの言葉に、ヴァイスは言い訳すらしない。
多分、そんな危険性を忘れる程夢中になってしまっていたのだろう。
吸血鬼でもないし、ルリのフェロモンに薬とか飲まなくても強い耐性、ほぼ無効状態にしているグリースには理解しづらかった。
「オラ、寝やがれ!!」
棺を蹴り飛ばしてその中に入るように指示する。
ベッドの方が針などを刺しやすいが、吸血鬼の王、真祖であるヴァイスも棺の中の方が回復力等が格段に速い。
時間がかかれば、下手をすればヴァイスの状態を他の者に知られかねない。
一番知られたくないのは人間の国の連中だ。
これ幸いと色々言ってきて、ルリを調べるので一度引き渡しをとか言い出すに違いない。
そうすれば今まで隠していたルリの情報が全部ばれてしまう、そうなったら連中は絶対ルリを返そうとしない、下手をすれば戦争沙汰になっても。
そうすればルリの家族などの身の安全が保障できない。
ルリの事を救助できたとしても。
非常に不味い。
なので、グリースは何としても現状維持をしたかった。
ヴァイスの体に点滴の針を刺して、薬の投与を開始する。
「俺が基本見張ってるからな? いいからお前は俺が良いって言うまで棺から出んな!!」
「……分かった」
あまり反省の色が感じられないヴァイスの声に、グリースは怒りを覚えてバリバリと頭を掻く。
「あ~~お前ってそういう奴だよなぁああああ!!」
ルリにした事は反省しているが、血を吸って中毒になったことに関しては全く反省の色がないヴァイスに対して、もう一発殴ってやればよかったとグリースは後悔した。
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