疑問、答え、疑問
ルリは自分を見ている、グリースの灰色の目を見る。
綺麗な灰色だ、優しい色をしている。
自分を威圧するような様子はない。
「……聞きたい事、あるけどその……アルジェントがあんなに焦ったのってなんで⁇」
「え、あーそれかー……」
ルリは聞きたい事があったが、アルジェントが今までにない程焦っていた、動揺していたのが先ほどあった為ルリは思わず尋ねてしまった。
グリースは言葉を濁している。
「これ暴露したら流石になぁ……」
グリースの言葉的に、暴露するのが若干ためらわれるような内容らしい。
一体アルジェントは何をしたのだろう。
「……アルジェントが私の事好きなのと関係ある?」
「あー……」
ルリの言葉に、グリースは悩み考えるような仕草をしている。
「……そーだねー……俺が言える事は関係はある、ルリちゃんの事好きだから、としか言えない」
「……むー?」
グリースの言葉にルリは首をかしげる。
――私の事が、好きだから?――
ルリは余計分からなくなった、「自分の事が好きだから」、それを暴露、ではない気がした。
真祖からアルジェントが自分の事を「愛している」という事実は暴露されている、そしてその事実をアルジェントは主である真祖とルリに知られていないと思っている。
まぁ、確かにそれを暴露されたら焦る、だが疑問が残る。
アルジェントの様子だ。
顔が赤くなるならばそれだと思えた。
だがアルジェントの顔は青くなったりもしていた、冷や汗もかいていた。
あの反応は「バレたら自分は嫌われる、もしくは軽蔑される」という内容である可能性が高い。
ルリはそこまで考えて、考えるのを止めた。
深く考えてアルジェントを軽蔑、もしくは嫌うような感情を抱いてしまっては、それを避けようとしているグリースの配慮を無視してしまっているし、何よりアルジェントに悪い。
「うん、有難う。深く考えないことにする。アルジェントの事嫌いになりたい訳じゃないし。プライバシー侵害したい訳じゃないし」
「うん、それがいいよ」
グリースはほっとしたように笑っていた。
「……んと……本題に入るね。グリース、私の血、中毒性があるっていってたじゃない?」
「うん、言った」
「……前、真祖が私を襲った時、血を大量に吸ったことあるじゃない。あの後からちょくちょく少量吸ったり、グリースが血液パックで吸わせたりしてたじゃない。何か……私の血以外受け付けなくなったって」
「あー……」
「もしかして中毒性ってそのころから始まってたの?」
「んー……」
ルリの問いかけにグリースは考え込んでいる、どう答えるべきか悩んでいるようだ。
「……それとね、昨日真祖の事怒ってたじゃない。もしかして真祖……私の血の中毒性で何か体を壊してたりした? 急に二日位来なかったからもしかしてその間倒れてたとか……」
「……」
ルリが更に問いかけると、グリースは黙り込んだ。
柔らかい雰囲気はない、何処か深刻そうな表情をしている。
ルリは聞いたら不味いことを聞いたのかと不安になった。
「……あー仕方ない、言うか」
しばらく考え込んでいるグリースが、まるで諦めたかのようにそう言葉を吐き出した。
ルリは少し身構える。
「そうだね、最初に結論から言おう。別にヴァイスの奴は体を壊しちゃいない」
「あ……そうなんだ、良かった」
ルリは少しほっとした、中毒性は、体を蝕む程の猛毒になっていなかった事に安堵したのだ。
「ルリちゃん、あいつの事責めないって約束してくれる?」
「あいつ……真祖の事?」
「そう」
「うん……まぁ、責めないけど、ここで、は?! とかは言ったりするかも……」
ルリは何なんだろうと思いながら考えつつ答えた。
「あ、それはいいよ」
グリースはルリの答えで十分のような反応をした。
「俺がいない間、ヴァイスの奴頻繁に、しかもルリちゃんが人間だったら失血死するレベルで血吸ってただろう?」
「……うん」
グリースの問いかけにルリは頷いた。
「あいつ俺が居た時と同じ位にしとけばいいのにそんだけ大量に吸ってたもんだから……」
「意識ない状態で寝てるルリちゃんの血大半吸ってヤバイ状態にさせちゃったのよ」
「……はい?」
グリースの言葉にルリは目を丸くした。
「そ、それ……どういう意味?」
「そのまんま、つまりヴァイスの奴、ルリちゃんの血の中毒性にやられて廃人ぎっりぎりの状態にまでなったの」
「は?」
「起きてるとずーっとルリちゃんの血を吸いたい、飲みたいって状態になっちゃって、結果血を飲んだ後も我慢できなくなって意識が吹っ飛んでそのままふらふらと寝ているルリちゃんの所に行ってルリちゃんの血殆ど吸っちゃったのよ。覚えてない? ルリちゃんあの時俺見て、『何で夢なのに出てるの?』みたいなこと言ってたよ」
グリースの言葉に、ルリは必死に記憶を、たどった。
「あ゛」
ルリの記憶の中にそれに合う記憶があった。
頭も働かない、体も動いてくれない、酷く苦しい、息もうまくできない、そんな変な「夢」を見た、その「夢」にグリースがいたのだ。
「じゃ、じゃあアレ夢じゃなくて……」
「血を限界まで吸われてヤバイルリちゃんが見た現実です。はい」
ルリは頭を抱えた。
自分の血、そんなに中毒性が高いとはルリは思ってもいなかったのだ。
「じゃ、じゃあ二日間姿見せてたなかったのは……」
「予想通り、その中毒症状の治療です。あとルリちゃんに会わせないようにしてたのは、そんな中毒状態のヴァイスにはルリちゃんのフェロモンもヤバイから。ルリちゃんと会っただけでまた血を吸いたくなって堂々巡りになるから丸二日我慢させました」
グリースの言葉にルリは再度頭を抱えた。
――自分めっちゃヤバイ存在じゃん!!――
「私みたいなヤバイの奥方にしたままで本当大丈夫なの……?」
ルリは自分の異常性に怖くなった。
ぽんと、グリースがルリの頭を撫でる。
「ヴァイスだからそれで済んだんだよ。もし君の母国の連中がそんなのに気づいてみろ、君の血をこの国に流通させて、この国の吸血鬼達を中毒にさせる可能性もある」
「げ」
グリースの言葉にルリは嫌そうな顔を浮かべた。
グリースの言う通り、そんなことが起きたら別の意味で大変なことになる予感がした。
「ぶっちゃけヴァイスだから、二日我慢して治療してれば治った。他の吸血鬼だったら手の施しようがない、以前聞いてるだろう不死人の血は吸血鬼にとって極上、不死人のフェロモンは吸血鬼を狂わせる、不死人である君が何もせずこの国を出歩けば吸血鬼達は君の血を吸おうと襲ってくる、君の体を犯そうと襲ってくる下手をすれば」
グリースの言葉に、ルリはただただ頷いた。
「……ヴァイスだから血を吸うだけで済んだ。量に関しては褒められたものじゃないけどね。同じ状態の吸血鬼がルリちゃんの前に現れたら確実に血を全部吸われたうえで犯されてた」
グリースは少しばかり重い表情で淡々と言っている。
ルリは怖くて胸元を掴んだ。
不死人という状態と、自分の異常性。
外が自分にとってどれほど危険なのか、ヴィオレとアルジェント、そして真祖、この三人の庇護にあるのがどれだけ自分を安全な状態にしていたのか改めて理解した。
「――まぁ、無意識とは言え血吸って、それで我に返ったの確実にルリちゃんの事大事だからだろうねぇ」
「へ……?」
グリースの言葉にルリは目を丸くする。
「ルリちゃん、ヴァイスと最初約束したんじゃなかった? 『性行為は心構えできるまでしないでほしい』って」
「あ……って何で知ってるの?!」
ルリが驚きの声を上げるとグリースはからからと笑った。
「だから言ったじゃん色々と知ってるし見てきたって」
「……」
「それにヴァイスはルリちゃんの事を『愛している』誰よりも、何よりも」
「……」
グリースがルリの頭を優しく撫でる。
「ヴァイスにとってルリちゃんは『最愛の女性』『この世で最も愛する存在』なんだよ」
諭すように言う。
「……」
ルリは少し罪悪感が湧いた。
グリースの言っていることは真実なのが分かる。
嘘は何一つ言っていない、だから罪悪感が湧くのだ。
ルリは、愛されている、けれど、ルリは誰かをまだ「愛せていない」のだ。
親愛なら分かる。
家族愛も分かる。
だが、心を焦がしたり、終わりが来るまで一緒にいたいとか、そんな感情は未だ誰にも持ち合わせていない。
グリースには安心感や親愛を寄せている、アルジェントやヴィオレ、真祖にも親愛に近い感情を寄せている。
けれど――「愛に変わるような恋」はまだ知らないのだ。
――愛になるような恋、それはどんなものなのだろう?――
――そんな感情を抱いたら私はどうなるんだろう、今までの私でいられるんだろうか?――
気になる以上に、その感情を知るのが怖かった。
その上ルリの立場や、不死人になった事、異常性、色んな事絡まって縛り付けてくるのだ。
「ルリちゃん」
グリースは優しく微笑んだまま、ルリの頬を撫でる。
「ルリちゃんは自分の事を責めたり、怯えることはないんだ。君は愛されている、それだけを覚えておけばいい。永遠に恋をすることがなくてもいい、俺たちはどんな君でも愛しているんだから」
「……うん」
「ま、見返り求められるのいやだー! ってなったら俺が攫うからそこんとこ気にしなくていいよ!!」
ルリはからからと笑って言うグリースを見た。
ふと、心の中に疑問が湧いた。
――三人にとって「愛に変わる恋」はどんなものだったのかな?――
ルリは心に湧いた疑問をそっとしまい込んだ。
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