眠い……お腹すいた…… ~何とか解決!~
ルリは日に日に悪化する体調に苦しめられていた。
初めてこの症状がでて一週間経過した。
症状はどう見ても時間が経過するごとに悪化しているのが分かった。
呼ばなくても定期的にルリの面倒を見に来る様になったグリースが部屋に姿を現すたびに顔をしかめるのだ。
ルリには分からない何かがあるようだが、グリースは語ってはくれない。
いつもなら尋ねているだろうが、今のルリには深く尋ねる余裕もなかった、酷く熱い、苦しい、切ない、あと何かよく分からない感覚がぐるぐる渦巻いて仕方ない。
「……うー……」
ルリは目を覚まして苦しそうな声を上げ、再び目を閉じた。
この一週間グリースの出す睡眠薬がないとロクに眠ることすらできない。
苦しくて、それに疲労困憊に近い状態になってぶつっと意識が途切れる、なのに苦しいのを感じて目を覚ますという悪循環が酷く辛かった。
ベッドに横になっているのに全く体が休まらない。
起きてグリースに水分を補給させてもらったり、汗でぐっしょりとなったネグリジェなどを交換してもらったり、風呂に入りたいが入れない状況なので濡れたタオルで体を拭いてもらったりした。
ただ、グリースには言っていないが、触られるとなんかよく分からない感覚が余計ぐるぐると体の中で暴れるし、体の奥がきゅうと切なくなる感じも強くなるのが結構辛かったりもした。
――もう、何なの、これ――
ルリはこんな風になっている自分の体が恨めしく思えた。
「ルリちゃん」
グリースの声に、ルリは開けるのも辛い目を何とか開ける。
「ぐ、りー、す……」
何とか名前を呼ぶ、グリースはルリの頬を撫でてきた。
「うー……」
気持ち悪いのとは違う感じのぞわぞわとする感覚と、よく分からないぐるぐると渦巻く感覚、体の奥がきゅうと切なくなる感じがして結構辛い。
「辛い?」
グリースの言葉に頷く。
――めっちゃ辛い、しんどい――
「もしかしたら体調よくなるかもしれないお薬できたから、使っていい?」
ルリは頷く。
もう藁にも縋る思いだった。
早くこの苦しみから逃れたかった。
グリースは日に日に症状が悪化しているらしいルリを見る度辛くなった。
その為寝る間も惜しんで薬の開発をした、結構苦労したがそれは今どうでも良かった。
ルリがこれ以上あの忌々しい「アレ」の引き起こした症状で苦しむのはまっぴらごめんだった、下手すればルリは望まない妊娠をしていた可能性もある。
ヴァイスが自分を呼ばなければ確実にそうなっていたし、ヴァイスが異変に気付かなかったら、確実にアルジェントがルリを妊娠させるようなことをしでかしてただろう、全く記憶に残らないのがたちが悪い。
覚えてるのもたちが悪いが、どっちが悪いかはこの際置いておく。
過去情報を読み取れば、そういうのやったのが分かるので、多分アルジェントは自害する。
最愛の人にして主の妻を、本人が意識なくなっている状態で、自分は理性を失ってて、それで彼女にとって初めての性行為に及んで、挙句妊娠させたなんて分かったら、アルジェントは確実に自分で命を絶つ、ルリには伝えないように言って命を絶つ、どこでかはわからないが。
そしてそれは確実にバレる、ルリは結構でかいダメージを受ける、そうしたら色々と悪い方向にますます転がりかねなかった。
なので、今回、ヴァイスの行動にはグリースは感謝していた。
この状態のルリの世話を自分に任せてくれたことはグリースにはありがたかった。
おかげで薬の製造のためのデータも収集できたし、ルリの状態を把握しておくこともできた。
だが、ただ一つだけ残念な事があった、ヴァイス達には既に報告済みなのだがルリが「発情」状態になる原因を特定できなかったというかコレに関してはどうあがいても無理だった。
何せ確実にグリースが他言できない存在が関わっているからだ。
グリースが薬を作っている時、かなり頭の中に喋りかけてきて五月蠅い上に腹立たしいことこの上なかった。
『私はお前の為を思ってやっているのだぞ?!』
『せっかくの番、まぁお前がいやなら他でも構わぬ、女王を用意してやったのに何故だ!!』
『私は絶対諦めぬぞ!! 人間も吸血鬼も私はもう認めぬ!! 不死人のみだ!! 私の子らは!!』
などと、五月蠅い上しつこく頭の中に喋りかけてきて何度キレたことか。
姿らしい姿を見せるとしても幻だし、グリースでは勝てないし、もう非常に関わりたくない存在だった。
この存在の事をばらしたらヴァイスの負担は増えるだろうし、人間たちにも事実と認識されたら、大混乱ってどころじゃない、下手すれば暴動、自殺者が大量に出かねないし、不死人になろうとする厄介な研究に余計金がつぎ込まれそうな気がして、グリースはその存在の事と不死人の関係は誰にも喋っていない。
グリースだけの秘密だ。
そんな厄介な存在の妨害じみた声にもめげず完成させた薬をグリースは取り出した。
睡眠作用も追加してある、「発情鎮静剤」。
血液に注射するタイプにするか、粉にするか、カプセルにするか色々悩んだ結果、カプセルにした。
グリースはルリを抱き起し、口に薬を運ぶ。
「ルリちゃん、口開けて」
ルリは何とか口を開いてくれた。
グリースは口の中に薬を入れ、水入りのボトルを取り出し蓋を開けてルリに飲ませる。
ルリはボトルの中の水を飲み干し、空になったボトルをグリースは術で仕舞ってから、ルリを寝かせる。
「しばらくすれば良くなると思う、それまで頑張って」
「……うん」
ルリはまだかなり辛そうな表情のまま頷き、目を閉じた。
しばらくすると、ルリの口から静かな寝息が聞こえてきた。
グリースは今回は戻らずルリをじっと観察しつづけた。
灰色の目を、高温の炎のような白い色に変えて。
「……良し」
夕方ごろ、グリースは目の色を元の色に戻した。
ルリから発情を示すフェロモンが出なくなったのを確認したのだ。
グリースは浄化の術でルリの部屋に残っているフェロモンを残らず消去した。
「ん……」
ルリがもぞもぞと動き出した。
「ルリちゃん?」
ベッドに近寄り、頬を触る、熱っぽさは完全に消えてる、が問題はルリの反応だ、副作用はないはずだが、実際に使って思いもしない副作用が出るかもしれないとグリースは不安だった。
ルリはゆっくり目を開けた。
「……んー……」
ルリは起き上がり、欠伸をしてから伸びをする。
「ふぁ……グリースおはよう……」
「おはよう、ルリちゃん。って言っても夕方だけどね」
「んー……そんなに寝てたの?」
「飲ませたお薬には睡眠薬も混ぜてたからね、仕方ない。具合は?」
「……お腹すいた、あと寝たのに眠い……」
「……お腹が、すいた? ……寝たのに、眠い?」
グリースは眉をひそめた。
不死人にとって食事は精神的な状態を健康に保つためのもの、必要のない物のはず、なのに、ルリは今空腹を訴えているのだ。
あと、気になる睡眠、グリースはルリの負担にならないよう割と眠らせていた、なのに眠いと言っているのだ。
グリースは少し考えた、自分が空腹状態になった時はどんな時か、眠ったのに眠り足りないとはどんな時だったかと。
心当たりが一つあった、二千年前、ヴァイスと戦った時に体をかなりの回数吸血鬼なら滅びる、人間なら何十回と死んでる位の損壊を起こしたの時のことを。
戦いが終わり、盟約結べと言って姿を一回消した後、やたらと腹が減った、かなりの量の食事を取って空腹感は消えたが、後にも先にも不死人になって空腹を覚えたのはその時だけだ。
そして空腹が満たされた途端酷く眠くなって眠りに落ちた。
気づけば丸二日眠っていた。
可能性としてはルリが「発情」して「フェロモン」を出すという行為、これがかなり体に負担をかけていたのではないかとグリースは考えた。
実際、ルリは相当苦しんでまともに動けない状態になっていた、不死人がそんな状態になるなんてまずないのだ。
グリースは色々と調べたいが、一旦それを中断して、ヴァイス達に情報を送る。
内容は「ルリちゃんの発情の件が解決した」という内容で。
「「ルリ様!!」」
送って三十秒もたたない内に、ヴィオレとアルジェントが部屋に姿を現した。
「ルリ様お体の具合は?!」
ヴィオレがベッドの上で眠そうにしているルリを見て駆け寄る。
「むー……体の具合はよくなったよー……ただ、すごくお腹減った……何か食べたい……でも眠い……食べたい……」
ルリは眠気と空腹感の間でぐらぐらしていた、多分、今のルリは寝かせて口の中に食べ物を入れれば何でも食べそうな雰囲気があった、グリースはやらなかったが。
「畏まりました、今すぐ持ってまいります!! アルジェント!! それまでルリ様が眠らない様にお世話をお願いします!!」
ヴィオレはそう言って姿を消した。
「……ねむねむ……」
ルリはうとうととしている、何か言い方が少し可愛い。
眠気の所為で若干精神状態が幼くなっているようだ。
アルジェントが何か震えて顔を背けて口を押さている、グリースは何してるんだと見てみれば、表情が完全に悶えている表情だ、若干普段より幼くそしてそれが多分可愛く見えているのだろう、一週間ぶりに漸く会えたと思ったらそんな可愛い姿を見れて非常に悦ってる表情だ。
――うわ、このむっつり重傷だ――
「おい、ヴァイス。ルリちゃんのお世話――」
「ルリ」
「どぅわ?!」
いつ出てくるかと気にしていたが、急にでてきたヴァイスにグリースは変な声を出して驚いてしまった。
ヴァイスはルリに近づいていき、ルリの頬を撫でる。
「体はどうだ?」
「んむー……なおった……お腹すいた……ねむ……」
ヴァイスは眠そうなルリの頬をむにむにと触っている、何をしたいのかグリースには分らなかった。
その後、ヴィオレが料理を持ってきて、アルジェントがそれらをテーブルに並べ、椅子にルリを座らせたが、おねむ状態に入っている状態のルリが自分でフォークや箸等を持てるわけもなく、ヴィオレとアルジェントが甲斐甲斐しく口に運んで食べさせていた。
それをヴァイスが羨ましそうな目で見ているのに気づいたが、グリースは「こいつもめんどくせぇなぁ」と思いつつも、色々自分が言うと面倒なことになりそうなので黙っていた。
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