現実逃避したいからゲームやってもらう! ~ずるいと言われても困ります~
ルリは自分の母国の色々とダメな面を聞かさられ、少し気分が落ち込んだ。
これは不死人であること以外を除けば、この国から見たら遥かに劣っている国から自分達が尊敬する統治者、支配者である真祖の妻をめとるというのはかなり不評を買いそうなことであるのが分かった。
真祖の妻になりたがっていた者が多いということは、確実に自分はその方々から恨まれる立場にいる。
――うわー、私めっちゃやばい立場にいる!!――
ルリは頭を抱えた。
ルリは自分が思っていた以上に、とんでもなく複雑な立場にいることをようやく気付いたのだ。
考えれば考える程、今の立場から逃げたくなった。
だが、逃げた後どうなるかが分からない、元の生活に戻れる保証なんて全くないのだ。
「ルリ様、ご安心を」
「……何を?」
「ルリ様を奥方にすることを公表した際、真祖様に異議を申し立てた者は皆罰を受けております、真祖様直々の重い罰を。ですのでルリ様を害なす者はほとんどいないでしょう、もしいたら」
「私が罰します、場合によっては殺しますのでご安心ください」
アルジェントは無表情のままそう言った。
――こいつある意味ヤバい奴だったー!!――
――そうだよな、魔術師言ってたもんな、普通の人間じゃねぇもん!!――
ルリはとんでもない人物が世話役になっている事に今更気づいた。
そして納得した、自分がほぼ監禁されているというか外出禁止をされているのは、高確率でこの国の民が自分に何かしでかすのを真祖は分かっているのだ。
それを防ぐ為に、アルジェントが殺すかもしれない、それによって自分の評判と真祖の評判が悪くなりかねない。
おそらく、それらを防ぐ為に、自分に真祖は外出を禁止を言い渡したのだとルリは考えた。
そしてルリは――
――止めよう、色々詮索するのは、何か知らない方が幸せな事もあるってお母さんも言ってたしな!!――
ルリは深く詮索するのを止めることにした。
「ルリ様、この国についてもっと知りたいとお思いになられましたか?」
「い、いえ、もういいです。その……知れば知る程自分の立場が危うく感じてしまうので……これ以上聞かせないで頂けると……」
ルリはアルジェントに背中を向けて首を振った。
だから彼女は気づかなかった、アルジェントが満足そうな笑みを浮かべたことに。
ルリは考えをないようにしようと何かすることを探す、あったのは大型テレビとそれに接続された自分がバイト代と小遣いなどで買ったゲーム機とソフト。
ルリはテレビをつけたが、何も映らない。
「ルリ様には余計な情報を与えないようにとのことでしたので、こちらのテレビはテレビ局などと契約はしておりません、ゲーム好きのルリ様がネットで購入できるようにはなっていますが」
「あ、有難うございます」
正直自分の事がニュースになってたら嫌だったので少しだけほっとした。
「……あ、ゲーム機とは繋いでくれてる。ソフトは……どうしよう」
「確かルリ様はゲーム好きとお聞きしております、なら気晴らしにどうでしょう」
「……確かに私はゲームは好きなんです。好きなんですが――少し訳があるんです」
ルリがそう言うと、アルジェントの無表情がわずかに崩れた、自分が知らない情報などあるわけがないと言わんばかりの表情だ。
「……言ってないんです」
「何をです」
「私、ゲーム好きだけど下手くそでロクにできないから、見る専門なんです! どうしよう、やりたいけど、すぐゲームオーバーになってエンディングまで行ける気がしない!!」
ルリは頭を抱えた。
生まれてこの方、ロクにゲームを遊べた記憶がないのだ、できたのは自分の腕が下手でもできたのは時間制限のない選択式のRPGで、最近ほとんど見かけないものだ。
見かけても難易度が高かったり、アクションとか、コマンドの組み合わせとか、単純だった昔とは違い色んなものが複雑になりすぎてそれらを考えるのが苦手なルリにはできない。
最近のゲームは見る分では面白そうなのが分かるがほとんどがアクション要素のあるゲーム、そうじゃないのは一面でゲームオーバーという経歴を持つシミュレーションゲームなのだ。
シューティングゲームや、戦争ゲームなんかは論外レベルの腕前だ。
アプリゲームは何とか遊べる程度だが、ゲーム機のゲームは買いはするもののプレイは全て兄に任せて自分は見るだけだったのだ。
だが、兄はここにいない。
自分でゲームをやると息抜きにすらならない、ストレスがたまる。
幸いスマートフォンがあり、ネット環境は整っているので、無制限に動画は見れるのでゲーム動画を見ようかとルリは思った。
「――なら、私が変わりに操作いたしましょうか?」
「……へ?」
予想外の言葉に、ルリはアルジェントを見て間抜けな声を出して目を丸くする。
「え、いいんですか? テレビゲームですよ? 遊んだこととか、あるのですか?」
「……多少は」
アルジェントは言いづらそうに答えた。
アルジェントの言葉に、ルリは持ってきていたソフトを見て、その内の一つを選び、ゲーム機の内部に中身を入れる。
ルリはリモコンのチャンネルを操作して、ゲームが映ったのに合わせた。
そしてコントローラーをアルジェントに渡した。
「……説明書はゲーム内にあります、一応簡単に説明はできますが……」
「畏まりました」
アルジェントが立ったままゲームをしようといていたので、ルリは目についたクッションを二つ手に取って床に置く。
「……よければ」
ルリはクッションの上に座る。
そして隣に置いたクッションに座れと言わんばかりにクッションをぽふぽふ叩く。
「いえ、そんなルリ様の隣に座るなど恐れ多い……」
「座ってください」
「……」
「――座ってください!!」
ルリが語尾を強めて命令するように言うとアルジェントはしばし悩んでいるような仕草をした。
「――命令であれば、従います」
そう言ってクッションの上に行儀よく座った。
「じゃあ、お願いします」
ルリはそう言ってアルジェントに頭を下げてから、画面に視線を向けた。
「ふぅ……ようやく止まりましたか」
ヴィオレは自室にこもって鼻血が止まったのを確認する。
普通に怪我で出血したならともかく、興奮で出血したので血が止められなかったのだ。
出血を一旦止めても、興奮しつづけているのだから、また出血してしまう。
興奮が冷めるまでずいぶんと時間をかけてしまったとヴィオレは反省した。
これでは世話役を仰せつかったのに、世話役の仕事ができていない役立たずではないかと反省する。
今考えればアルジェント一人に任せるというのも心配だ、主の命令以外に興味を持たなかったアルジェントが自分からルリの世話役を名乗り出たというのも気になる。
他の者は自分の地位や責任の方を優先していたのに、アルジェントはそれよりも世話役の方が重要であるかのように、主が誰かを任命する前にルリの世話役を自分からやりたいと申し出て、彼に何かと噛みついていたカルコスが酷く荒れたと聞く。
未だに、魔術塔の他の責任者達から話を聞いたところ、カルコスは未だ荒れ続けているようだ。
荒れている彼を門下の者達はなだめているが、それが余計カルコスの機嫌を悪くする一方らしい。
カルコスはルリと行動する自分達となるべく接触するなと主からの命令もあり、それに逆らえないでいるようだ。
会わないほうがいい、何せ奥方である自分敬愛するルリは主の事を「愛」していないのだ。
誰かを「愛」したことのない、焦がれを知らぬ女性。
これから誰かを「愛する」かもしれないし、「愛さない」かもしれない知らざる不死人の乙女。
できることなら主を「愛して」欲しいと願っているが、どうなるかはわからない。
もしこのことが知られたらそんなルリを、カルコスは奥方だとは認めはしないだろう。
だが、今まで真祖の妻になりたいと、寵愛を得たいを近寄ってきた女達も認めなかった男だ、仮に愛したところで認めるとは思えない。
カルコスがルリに近寄らぬよう細心の注意を払わなければ、アレの忠義は歪んでいる、ルリに危害を加えかねない。
不死人だから死なないだろう、だが痛みは伴う、場合によってはまだ誰も触れていない「花」を踏みにじって散らすこともしかねない。
そんなことをしたらカルコスの命が無いかもしれないが、アレはそうでもしてまでルリを今の座から引きずり降ろそうとしかねない、不死人というあの存在を思い出させる忌々しい存在とカルコスは認識しているからだ。
ヴィオレはふぅと息を吐く。
考えることが多いのだ。
ルリの事に対して異論を唱えた者は主じきじきに罰を与えている、中にはその罰で受けた傷が癒えず死んだ者もいるそうだ。
だから、異論を言わず、心の中にひそめて置いて、ルリと対面し、彼女が無防備な状態であると認識したら危害を加える可能性の者が多いことがヴィオレには分かった。
主もそれを知らないわけではない、だからルリに世話役以外近づけようとしていない、ルリの部屋は世話役と主と世話役が使役している使い魔以外基本入れないようにされてある。
だが、主はあまりルリを部屋に閉じ込め続けておくことに関しては実際は否定的な意見をお持ちだ、自分もそれに同意している。
彼女は日向がよく似合う、花がよく似合う、月夜がよく似合う、外の世界がよく似合う。
城の中にも「外」はある、他の者がいない日中を見計らえば、城の「庭」で気分転換をさせることができるかもしれない。
今日は無理だが、明日以降なら大丈夫かもしれないとヴィオレは考えながらルリの部屋の扉を開ける。
「ルリ様、お待たせし申し訳ございま……」
「ぎゃー!! 後ろ後ろ!!」
「お聞きしたいのですが、何故ホラーが苦手なのにホラーアクションゲームを買ったのですか? 分かっておりますからその、ですから、あの」
ヴィオレは固まった、視界には人間達の得意分野の一つのゲーム、テレビゲームをやっているアルジェントとアルジェントに引っ付いて悲鳴を上げながら騒いでいるルリが入った。
アルジェントは何かを察知したのか、一時ゲームを止めて、ヴィオレの方を向いた。
「……ヴィ、ヴィオレ様、これはその……」
アルジェントは内心滝汗ものだった。
ゲームをしていたとは言え、主の奥方であるルリが自分に抱き着いていたのだ、下手をすると世話役を解任されるのではないかと内心冷や汗が止まらなかった。
「あ……ヴィオレさん……? その、私はゲームが好きなのだけども下手だからアルジェントに操作お願いしてただけで……」
「……い」
「ん?」
ルリが首をかしげている、可愛い。
「羨ましい!! 何です、何なんです!! 私が居ない間にアルジェントだけ呼び捨てになってて、その上頼み事をされて、ゲームをしているなんて!! 何ですアルジェント!! 私を仲間外れにするのですか!?」
ヴィオレが大股で近づいてきて、アルジェントの服の襟をつかみ揺さぶってから、妄想に浸るかのような仕草をした。
「私だってルリ様に呼び捨てされて、お願いだってされたい!! アルジェントばかりずるいずるい、ずるいですわ!!」
一人何か妄想に完全に入ったヴィオレを見てアルジェントは困惑の眼差しを向けた。
「……ヴィオレさんってこういう吸血鬼だったんですか?」
ルリの言葉に、アルジェントはどう返せばいいのかわからなかった。
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