第18話

「その夜回り、ほぼ…って言うか、完全に『飲み目的』じゃないですか。懲りないですねぇ…」


「何ンだよ、まだうちの嫁にも来ねェくせに、いっぱしにうちの者ンみてェな小言ォ抜かしゃァやがって…。

大体、今は俺以外もまだ全員、飲んでねェしな。

それに、拍子木打ち鳴らしながら町内一周するだけで、その場で即解散、なんぞてぇ野暮をしねェお陰で、早々に大人数の捜索隊を繰り出せるんじゃねェかよ。

ちったァこの良く出来た師匠に感謝しろィ」


後ろで

「祖父ちゃん!誰の嫁だよ!?」

という抗議の声が上がるのに、

「煩ッせェなぁ、…大体祥太郎、手前ェが愚図愚図してッから悪ィんだろうが。

あんまりもたもたしてッと、千歳は俺の後添いに貰っちまうぞ?」

と、透かさず師匠が返す。



私は脳内に、

毎度の如くに「ぐぐぐ…」と言葉に詰まったまま、

真っ赤な顔で両の拳を握り締める祥太郎センパイ、

…「師匠」こと、竹野内清太郎氏の孫息子で、

私には兄弟子にして小中高の先輩でもある、竹野内祥太朗氏の姿を容易に想起して、


(口前でも腕前でも、まだまだ祥太郎センパイが師匠に敵う訳ないのに…)

と、内心で溜め息を吐きつつ、


「師匠、仮にも弟子と名の付く者が、師匠のお身体の心配をするのは当然のことです。

それから、…師匠の後添い様の件は、どうかご勘弁ください。

新婚生活もろくすっぽ無しに、そのまま介護生活に突入…なんて、少なくとも私はまっぴらです」


と、謹んで辞退申し上げると、

電話回線の向こう側からは、師匠の、…高笑いと言うか、ほとんど馬鹿笑いの声が響いてきた。

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