第16話

私は、シティサイクルの前カゴに掛けられている防犯ネットを外して、その校章入りのスポーツバッグを、音を立てないようにそうっと取り出し、


それから周囲を見回して、

投棄された粗大ゴミの中に発見したゴルフバッグの中から、ゴルフクラブを一本、適当に引き抜くと、


一旦その場を離れ、少し先の角を曲がった先の、小さな公園に移動した。



側に灯りのあるベンチにバッグを降ろし、自分も腰を下ろす。


場合によっては中身を漁る必要もあるかと覚悟したけれど、


幸い、バッグに付いていたチャームがネームタグになっていて、

名前と、持ち主の彼女の携帯電話の物と覚しきメールアドレスが記入されていた。



ウエストポーチから自分の携帯電話を取り出して、

警察への通報と一瞬迷って、


結局、随分連絡を取っていない電話番号を

電話帳から探し出してコールする。


「…寝てない、って言うか、お酒入ってないと良いけど…」


幸い、相手はコール三回で出てくれた。


「…千歳か?どうした、珍しい」


ごくごくしっかりした口調だった。

(良かった、お酒入ってない…!)



「師匠、お久し振りです。ご無沙汰してます」


私が電話を掛けた相手は、

大伯母の昔馴染で、私の子供時分からの剣道の師でもある、竹野内清太郎氏だった。

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