第二話 少年探偵団と謎の暗号

プロローグ 深夜の人影

 ザクッ、ザクッ、ザクッ……

 暗闇の中、全身黒ずくめの人影が一心不乱に何かを掘っていた。時刻は深夜一二時を少し回った頃、場所は溝戸みぞど県のどこにでもありそうな児童公園、その片隅にある砂場である。

 人影の目には砂場しか映っていなかった。砂場に埋まった「何か」を掘り出そうとあまりにも必死だったため、声をかけられるまで数メートル後ろに迫った人の気配にも気付かなかった。

「おい、君! そんなとこで何やってる?」

 人影はハッとなって振り向く。僅か数メートルしかない目と鼻の先、フェンスを隔てた向こう側から、自転車に乗った人物がこちらを見ていた。暗がりでも、それが警官であることは明白であった。警官の懐中電灯が自分を照らす前に、人影は身を翻して反対側、唯一の出入り口へと駆け出した。

「あっ、待て!」

 警官の呼び止める声も聞かず、人影は瞬く間に出入り口に辿り着いた。僅か三段の石段を一息に飛び降りると、そのまま右へと折れる。

「うわっ!」

 角に差し掛かった途端、横から出てきた誰かと諸にぶつかる。衝撃でお互いのポケットやカバンに入っていた物が地面に散らばった。

 人影は舌打ちすると、散乱した物の中から唯一の自分の持ち物を拾い上げた。ぶつかった相手には目もくれないまま走り去って行く。相手はぶつかった拍子にどこか痛めたのか、うずくまった姿勢のままうめいている。声と体格からして若い男のようだが、そんなことに注意を払っている余裕はなかった。


 警官が公園の外周を回って出入り口に辿り着いた時には、人影は既に近くに隠しておいたバイクに乗って走り去った後だった。

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