第7話 勇者と竜王、対峙する

(竜王は、どこだ……?)


 城内を駆け回りながら、コウスケは竜王を探していた。

 カルゴたちのことを気にしつつ、慎重に進んでいく。


 そしてついに、コウスケは竜王のいるであろう部屋を見つけた。


「……あそこか!」


 扉を開けて中に入ろうとした時、コウスケはあることに気づいた。


(……鍵がかかってない?)


 不思議に思いながらも、コウスケは扉を押し開けた。



◆◆◆



 竜王の部屋に入り、コウスケが目にしたのは─黒竜の姿だった。

 その身体は真っ黒なうろこに覆われていて、長い尾を持っていた。


「ウウ゛ゥウ……」


 黒竜は威嚇いかくしているのか、低くうなり声を上げている。


「お前が、竜王だな!」


 コウスケは剣を抜いて叫ぶ。

 すると……部屋の天井ギリギリまであった竜王の身体は、みるみるうちに縮んでいった。


「ひいぃ……!ごめんなさいっ……!お命だけはご勘弁を……!」


 そして女性の姿になったかと思うと、土下座の体勢で謝り始めた。その様子はまるで小動物のようで、とてもじゃないが強そうには見えなかった。


「……えっと……」


 あまりの状況の変化についていけず、コウスケは唖然あぜんとしてしまった。

 そこへ、傷だらけの紫竜が入ってきた。


「竜王様……!くっ……貴様が勇者だな!」


 紫竜はコウスケを見つけると、憎々しげな目でにらみつけた。そして爪を振り下ろそうとしたが、怪我のせいか途中で倒れてしまう。


「うぐっ……」


「ル、ルーア……!無理しないで……!」


 竜王だった女性は慌てて立ち上がると、紫竜の元へと走っていった。


「くっ……。まだだ……!ここでやられるわけにはいかない……!」


 紫竜はなんとか立ち上がろうとするが、うまく力が入らないようだった。


「ルーア……!お願いだからやめて……!」


 女性は泣きながら懇願こんがんする。そんな彼女たちを見て、コウスケは口を開いた。


「……あの、すみません!俺はあなたたちを討伐に来たんじゃありません!ただ、調査をしにきただけなんです!」


「そ、そうなのか……!?」


「はい……。だから、信じてください!」


「……」


 コウスケの言葉を聞き、ルーアは考え込むように俯いた。


「お願いします!」


 コウスケが頭を下げると、「わかりました……」という返事が聞こえた。


「ありがとうございます!」


 コウスケはホッとした表情を浮かべた。



◆◆◆



 その後、コウスケはカルゴたちと合流し、事の顛末てんまつを説明した。


「……そうか。そんなことがあったのか……。悪かったな。俺たちのせいで、あんたらの仲間を傷つけちまって……」


「いえ……。私たちも、話もろくに聞かずに襲いかかってしまったので……」


 カルゴとルーアは互いに謝罪し合った。ちなみに、ルーアは女性の姿になっている。


「あの、竜王さん……」


「あっ、私のことはラヴァンでいいですよ……!」


 コウスケが話しかけると、彼女は嬉しそうに言った。


「では、ラヴァンさん。一つ聞きたいことがあるんですけど……。……どうして、さっきは竜の姿をしていたんですか?」


 コウスケが尋ねると、ラヴァンは少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「えっと……。少しでも、強そうに見られたら襲われたりしないかなぁって……」


(えぇっ……!?そんな理由!?)


 コウスケは心の中で叫んだ。


「でも、やっぱり怖くなって戻っちゃいましたけど……」


「そうですか……」


 コウスケは苦笑いした。すると、話を聞いていたルーアは困ったような顔をした。


「竜王様は、小説の才能はあるのに、とても怖がりなんですよね……」


「うぅ……。言わないでください……」


 ラヴァンは、さらに赤くなっていく。


「へぇ……。小説を書いているんですか?」


 コウスケの質問に、ルーアはしまったという顔になる。しかし、もう遅かった。


「わあぁ!ルーア!それは秘密って……!」


「申し訳ありません……。つい……」


 そう言いつつも、ルーアはどこか楽しそうだ。


(……仲が良いんだな)


 その様子を見て、コウスケは微笑ましい気持ちになった。


「もしよかったら、俺にも読ませていただけませんか?」


「えっ……!?」


 ラヴァンは驚いたような声を上げた。すると、ルーアが言った。


「竜王様の小説は素晴らしいですからね。きっと気にいると思いますよ?」


「おぉ!それは俺も気になるな!」


 カルゴも興味津々といった感じで言った。


「で、でも……。下手だし……。面白くもないかもしれませんよ……?」


 ラヴァンは自信なさげに言う。


「それでもいいから、読んでみたいんです!ダメでしょうか……?」


 コウスケが頼むと、ラヴァンはしばらく考えた後、コクリとうなずいた。


「わかりました……。じゃあ、見せます……」


 ラヴァンは少し照れ臭そうに言った。

 そして、コウスケたちは彼女の部屋へと向かったのだった。

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