第3話 竜王の城の危機?

 一方、竜王ラヴァンはというと……


「うう゛~……。スランプです……」


 一人、自室で頭を抱えて悩んでいた。

 机の上には、書きかけの小説が置いてあり、彼女の苦悩を物語っていた。


「こんなんじゃダメなのに……。もっと、こう……。何かこう……。インパクトのあるものが書きたいんですよぉ……」


 ぶつぶつと言いながら頭を悩ませるラヴァン。

 その時、コンコンと扉を叩く音が聞こえてきた。


「どうぞー……」


「失礼します」


 ラヴァンの言葉に扉が開かれて、そこから紫髪の女性が現れた。

 彼女はラヴァンの側近で、名をルーアといった。


「竜王様、小説を書いていらしたのですか?」


「えぇ……。でも、なかなか上手くいかなくて……」


 ラヴァンは机の上に置いてあった書きかけの原稿を手に取ると、溜息ためいき混じりに呟いた。

 その様子を見て、ルーアは首をかしげた。


「そうでしょうか……?私には、とても素晴らしい作品のように思えますが……。どこが悪いのか、わからないくらいに」


「そ、そう……?ありがとう……」


「いえ、本当のことです」


 照れ臭そうに笑うラヴァンに、ルーアは真剣な表情で言った。

 何を隠そう、ルーアはラヴァンの小説の大ファンなのだ。

 ラヴァンは、この城の竜人たちにだけ、自分の書いた小説を読ませていた。

 それは、趣味を共有したいという気持ちがあったからだ。


 ルーアはラヴァンの一番の理解者であり、彼女にとってなくてはならない存在でもあったのだ。

 だからこそ、彼女は誰よりもラヴァンの才能を高く評価していて、同時に尊敬もしていたのだった。


「……ところで、今日はどのような用件ですか?確か、あなたは別の仕事をしているはずでは……?」


 ラヴァンは、ふと思い出したように尋ねた。すると、ルーアはどこか困ったような顔をして言った。


「竜王様、お伝えしなければいけないことがあるのです……」


「ルーア……?どうしたんですか?」


 ラヴァンは、先ほどまでとは違った様子のルーアに首を傾げた。

 すると、ルーアはゆっくりと口を開いた。


「実は、この国へ勇者が来るという情報が入ってきました」


「えっ……!?」


 予想もしていなかった言葉を聞いて、ラヴァンは目を見開いた。


「ゆ、勇者……?どうして……?だって、魔王はもう倒したはずじゃ……」


 そこまで言いかけたところで、ラヴァンはハッとした。


「まさか、私を倒しに来るとか……?で、でも、私は何もしてないですよ!」


 ラヴァンは慌てた様子で言うと、ルーアは苦笑いを浮かべて答えた。


「もちろん、それはわかっております。おそらく、別の目的があるのではないかと……思うのですが……」


「別の目的……?」


「はい。詳しいことはわかりませんが、その勇者は私たちの国へ来るつもりのようです」


「そ、それで……?勇者はいつ来るって言ってたんですか……?」


「はい。それが……明日の朝には着くとの話でした」


「明日ぁっ!?」


 ラヴァンは思わず叫んでしまった。


「ど、どうしましょう……?もし、戦うことになったら……!こ、殺される……!嫌ですよ、死にたくないぃ……!」


 ガタガタと震えるラヴァン。

 そんな彼女に向かって、ルーアは冷静な口調で言う。


「落ち着いてください。大丈夫です。もしもの時は私がお守り致しますので」


「ル、ルーアぁ……!」


 その一言に、ラヴァンは感激して瞳を潤ませた。


「あ、ありがとうございます……!そうですね……!いざとなったら、お願いします……!」


「はい。お任せ下さい」


 そう言うと、ルーアは静かに部屋を出て行った。

 残されたラヴァンは、不安そうな表情を浮かべたままうつむいていた。


(ううっ……!どうしましょう……!本当に、勇者が来たら……!)


 しばらくの間、彼女は頭の中でぐるぐると考え込んでいた。

 ラヴァンの強さは他を寄せ付けないほど圧倒的なのだが、彼女自身は戦いなどしたことがないのだ。


「ううぅ~!怖いよぉ~!」


 やがて耐え切れなくなった彼女は、ベッドに飛び込んで叫んだ。

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