「概念装置」という概念の紹介

登人家

「概念装置」という概念の紹介

 本稿では、「概念装置」という、社会科学に取り組むにあたって便利な概念を簡単に紹介する。


 概念装置とは、内田義彦の著書『読書と社会科学』で提唱された概念であり、文中では自然科学者の使う物的装置と類比的かつ対比的に語られる概念である。せっかくなので、私なりの例えで解説してみよう。

 天文学者は、高性能な望遠鏡という物的な補助措置を用いることではじめて、天体スペクトルを観測し、スペクトル線から星々の組成を明らかできる。肉眼で星を見ても、ただの光る点にすぎないが、適切な物的装置を用いて処理を行えば、その星が何でできているかまでわかってしまうのが、自然科学の面白いところである。

 社会科学者も科学者であるからには、自然科学者同様に、何かの道具を使って、肉眼で見ても分からないものを見ることができる。分野的には自然科学、あるいは人文科学の話になるが、イメージを掴むために、先ほどと同じく夜空を見上げて例えてみよう。

 先ほど、星は肉眼で見ても光る点に過ぎないといったが、本当にそうだろうか。その星とあの星を「頭の中で描いたなんらかの法則に従って」線で繋いでいけば、動物のように「見えて」こないだろうか。私には何も見えてこないのだが、例えば星座というのは、物的装置ではなく、観念的な(頭の中の)装置によって見えてくるものであろう。

 社会科学の営みも、これに近いところがある。何らかの概念装置(均衡分析、自然法、理念型など)を用いることで、無秩序に見える現実を分析し、何らかの学問的な事実を見出すことができる。国家間の物品の取引を、比較優位という概念装置をもって分析すれば、取引をしない場合よりも、生産の総量が増える(であろう)ことが分かるのだ(誤解を恐れず簡単に説明すると、互いに⦅相対的に⦆得意なものを作れば、全体的に見てたくさんのものが作られるという話である)。

 概念装置を秩序立てて組み上げることで、パラダイムとでも言えるような、より巨大な概念装置を創り上げる事ができる。そうして組み上がった概念装置の一部が、多くの人に学ばれる体系的な学問となっていくのであろう。

 即ち概念装置とは、現実に新しい発見をもたらす。観念的な道具のこと、と言って差し支えないだろう。


【参考文献】

内田義彦(1985)『読書と社会科学』岩波書店

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