「お客さん、起きてくださいよー、着きましたよ」


 気が付くと俺は自分の住むアパートの前でタクシーの運転手に声をかけられていた。どうしてここがわかったんだろう?


「ああ、それは田中があんたの住所の書かれた地図を渡してくれたんだよ」


 この運転手も田中の知り合いか?俺は仕事の名刺を田中と交換したが、そこには自宅の住所は載っていない。催眠術で言わされたのか?怖いぞ田中。


「料金は、幾らですか?」


 俺は財布を出して運転手に聴いた。


「お金は田中が前払いしてくれたよ、はいよ、これお釣りね」


 至れり尽くせりだ、恩に着るよ田中。


 俺はお釣りを受け取りタクシーを降りようとした。


「あ、そうだ、ここに……」


 そう言うと運転手は助手席にあるポーチを取った。降車時にサービスで飴をくれる運転手もいる……いや待てよ、この運転手はあの田中の知り合いだぞ。


 今度は何が出てくるのか?俺はワクワクした。いいだろう、田中の世界に乗っかってやる。


 俺は久し振りに湧き上がってきた高揚感を楽しんでいた。




 ーーおしまいーー


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田中の世界 柏堂一(かやんどうはじめ) @teto1967

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