8話 代表戦が始まる


 U22日本代表対U22ベルギー代表の国際親善試合当日。

 試合は代表合宿を行なっている施設に併設されている中規模のスタジアムで行う。


 朝に軽くトレーニングをしてから俺たちU22日本代表はスタジアムへと移動し、スタジアムのロッカールームに入った。


 自分のロッカーに掛かった蒼いユニフォーム。

 胸元には日の丸があり、背番号は16。

 高東大学と同じだ。


 やばい……テンションめっちゃ上がってきた。


 他の選手たちと一緒にユニフォームに着替え、アップシューズからスパイクに履き替えている途中で、ロッカールームにべルコジーノも入ってきた。


「さあ、みんな聞いて欲しい」


 ホワイトボードの前に立ったベルコジーノは隣にいる通訳を介して今日の試合の戦術について話し始める。


「今日は基本的に352のフォーメーション。しかし守備時は両ウイングが降りて532になるようなシステムでいく。ラインも絶対に引かない。高い位置でコントロールするぞ」


 ベルコジーノのサッカーは即時奪回とハイプレスを併用したかなり前のめりなサッカー。


 かなりの距離を飛ばすパントキックが定評なチャン先輩や、ゴリゴリなフィジカルFWの金川流心を呼ぶのも前への推進力を優先したサッカーをするため。


 ベルコジーノは戦術について一通り話し終わると、今日のスタメンを発表した。

 期待はしてなかったけどやっぱり俺の名前は無かった。

 ベルコジーノは期待してくれてるとは言ってくれたが、そもそも俺は代表経験0で国際大会初出場の選手。


 出るなら高東大学と同じく途中出場だろう。


「さあ、楽しんでこい」


「「「はいっ」」」


 スタメンの選手たちが次々とロッカールームから出ていく中、俺は交代選手用のビブスを着ながらロッカールームを出た。


 スタジアムはそこそこの客入り。

 そりゃu22の試合で満席になることはほぼ無いが……日本代表なんだからもう少し来てもいいだろ。


「おにぃー!」


 観客席の最前席から身を乗り出して手を振る茶髪の女子……って、水羽じゃねーか。


 妹の水羽、その隣には甲府にいるはずの父さんと母さんもいて、さらにその隣には代表のレプリカユニを着た藍原と、サングラスを掛けた二人組……って、絢音と水城さんだよな。


「槇島くーん! 頑張ってー」

「あ、藍原。来てくれたのは嬉しいが、バックスタンドの最前列になんつーメンバー集めてんだよ。恥ずかしいだろ」


 バックスタンドまで歩み寄り、俺は頭上の最前列に向かって文句を言う。


「だって皆さんのチケット手配は私がしたから」

「はぁ……じゃあ俺の関係者オールスター勢揃いってことか」


 俺はサングラスの二人の方を見る。

 どうかこの二人がカメラに抜かれないことだけを祈ろう。

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