7話 絢音と月乃


 祐太郎が浮気をしてなかったことは安心したけど……。


 通話から祐太郎が抜けても、わたしと水城さんの通話は繋がっていた。


 聞かないといけないことが一つある。


「水城さん」

「なに?」

「祐太郎のことなんでずっと黙ってたんですか?」

「……」

「それに、わたしと祐太郎のことを書いた曲って……まさか、新曲の『lovers』ですか?」


『lovers』はMIZUKIの最新曲で、ネットに上げて数週間で一千万再生を突破した人気楽曲。


「そうよ」


 あの曲にはやけに生々しい男女の描写が歌詞に多く入っていたことで話題だったけど、まさか水城さんにはわたしたちのデートがそんな風に見えてたってこと?


「絢音はアイドルの頃から芸能に対してストイックだから彼氏なんか未来永劫作らないと思ってた。あなたたちのデートを見せつけられた時、少し裏切られた気分になったわ」

「嫉妬ですか?」


「……失望よ」


 水城さんは吐き捨てるように言う。


「べ、別に彼氏くらいいいじゃないですか。もうわたしはアイドルじゃないし」

「……もし仮にあなたの交際が明るみに出て炎上したら、槇島くんがどうなるか容易に分かると思うけど」


 水城さんは説教っぽい感じで言う。

 さっきまでの楽しげな感じはない。

 なら、こっちもハッキリ言わないといけない。


「……祐太郎はそれでもわたしの隣に居てくれるって言ってくれました。わたしと一緒に、これからの人生を歩んでくれるって」

「あなたは?」

「わ、わたし?」

「私はあなたの覚悟が知りたい。どれだけ覚悟を口にしたとしても、槇島くんはつい最近まで無名のサッカー少年だったわけで、それに深いことを考えるにはまだ若すぎる」


 水城さんの言っていることは……悔しいけど、正論ばかりだ。

 祐太郎はいつもわたしに優しくしてくれて、サッカーもわたしが応援するから頑張れるって言ってくれた。

 同居もわたしとの時間を大切にしてくれてるからだし、これからの人生についても前向きに考えてくれてる。

 これらは全て本心だと思うけど、ハッキリ言って、祐太郎はその本質の大変さを知らない。


 でも……。


「もしものことがあったらその時はわたしが全ての荷物を背負います。わたしがしっかり説明して、祐太郎の将来には迷惑をかけないようにする。それで周りから何を言われたとしてもわたしは意志を曲げないし、それがわたしのエゴだとしても、わたしは祐太郎といたい。祐太郎じゃないとダメですから。それがわたしの本心です」


「……愛って、人を変えるのね」


 水城さんは少し笑いながらそう答えた。


「あなたの本心はよく分かったわ。他所者の私が余計なことを言ったわね。ごめんなさい」

「水城さんはなんでそんなにわたしたちのこと心配してくれるんですか? 本当はわたしのこと嫌いなくせに」

「それは……」

「?」


「前も言ったけど、私のせいで綺羅星絢音を芸能界の舞台から下ろしてしまったし、その責任も痛いほど感じてる」

「水城、さん」

「だから私は、あなたが辛い目に遭うことだけは許せない。ただ、それだけ」


 水城さん……そんな風に思ってたなんて。


「わ、わたしも! 水城さんが幸せになって欲しいと思ってますから!」

「なら槇島くんをくれるかしら?」

「いーやーでーすー」


 今日だけで少し、水城さんと仲直りできた……気がする。


「それで、曲の進捗なんですけど」


 新曲の進捗を聞こうとしたその瞬間、プチンと通話が切れる。


 ……は?


「あ、あの人……また逃げ……!」


 やっぱこの人とは、分かり合えない。


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