同居生活編⁈

1話 甘々な同居生活始めた……って、まじかよ!


 ずっと……夢見ていた。


 日本代表になって、日本の9番を背負って、そして、世界のピッチに立つ瞬間を。


 でも高校時代の挫折により、夢のままで終わりそう——だった。


 あの時、俺の前に綺羅星絢音が——いや、佐々木絢音が現れたことで俺の世界は変わった。


「絶対……ゴール決めて」


 俺は彼女の運命と共に導かれるようにして階段を駆け上がった。


 ✳︎✳︎


 激闘を繰り広げた天皇杯から数週間後の6月下旬。


「ただいまー」


 今日はサッカー部がオフなので4限の講義をサボってダラダラサッカー雑誌を読んでいると、買い物袋を手に提げた絢音が帰ってきた。

 相変わらずの茶髪のミディアムショートで、今日はアイドル事務所の仕事があったからスーツ姿だった。

 部屋着の俺とスーツ姿の絢音。

 こんなの側から見たらニートのヒモ男と、そのヒモを養うOLみたいな構図に映るだろう。


 でもご安心を。

 俺は立派なサッカー大学生で、彼女は顔が国宝級に可愛い元国民的アイドル……。

 いや、こんなに落差があるならヒモ男とOLの方がマジだったな。


「もー祐太郎ぉ! またこんなに散らかして!」

「別にいいだろー? 今日は久々のオフなんだし」

「ダメなの! ほら、お片付けするよ!」

「はいはい」


 俺のクソ狭い部屋で同居してた頃は絢音が物を散らかすことが多かったが、新居の1LDKに引っ越してからというもの、10.5帖のリビングのソファーでダラダラしてると、絢音が怒るのだ。


 絢音は坂木真由美のアイドル事務所で働くようになってから少し大人になった。

 休日のパンケーキは1日3軒までになったし、1LDKに引っ越すに当たって節約を意識したのか、前までは毎食5人前くらい俺のために作っていた食事も、2人前になった。

 常にこれであって欲しいと願いながらも、俺はサッカー雑誌を拾い上げて、寝室に片付けた。


「リビングも寝室も二人の部屋なんだから、綺麗にするの! 分かった?」

「母親みたいな説教しないでくれよ」

「お母さんから祐太郎のこと頼まれてるからしっかりしないと!」

「それ言ったら台無しだろ」


 俺は何となくテレビをつけて動画配信サイトを開いた。

 よし、腹いせに現役時代の綺羅星絢音の動画を流してやろう。


 と思った矢先のことだった。


「ん?」


 俺はおすすめ欄にある動画が目に入った。

 いや違う。動画じゃない……これはライブ映像。


【U22親善試合 日本代表 発表会】


「どしたの祐太郎?」


 絢音はスーツからピンクと白の薄いTシャツとホットパンツという部屋着に着替えて俺の右腕に抱きついてくる。


「これが、気になってさ」

「これ? へー、代表発表会やってんじゃん。U22ってことは祐太郎の先輩も呼ばれたりするんじゃないの?」

「んー? ヴィクトル先輩とか、チャン先輩はあるかもしれないが……観てみるか」


 リモコンで動画を選択すると、記者会見場が映り、中央には日本のA代表とオリンピック世代を兼任するブラジル人監督・ベルコジーノ監督がメンバーを読み上げていた。


『えー、次はFWをお願いします』


 司会に促され、ベルコジーノは紙に書かれた名前を読み上げる。


『FW、キリュウ』


 キリュウ? 知らない名前だ。


『カナガワ……』


 金川って小田原ユナイテッドの金川流心のことだよな。

 N3で武者修行中とはいえやっぱすげぇ……。


「ラスト…………"マキ"」



「「「「おおおお〜」」」」」」



「シマ、ユウタロウ」



 は?



『な、なーんと! 日本のA代表と五輪世代を兼任するベルコジーノ監督が最後に選んだFWは、高東大学の16番・槇島祐太郎!!』


「ちょ、ゆ、ゆ、祐太郎! 呼ばれたよ! 日本代表! しゃ、シャンパン開けないと! お母さんとお父さんにも電話電話」



 は?



「彼は現在、大学一年生ながら天皇杯得点王のストライカーだよ。卓越したポジショニングセンスとシュートの質が持ち味だ。私も彼のプレーは好きだし、最も欲しいFWだからね(通訳済)」


 U20どころか……U22に俺が⁈



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新章スタート・秋には書籍化ァァァア!

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