30話 佐々木絢音と槇島祐太郎の誓い


 試合後、スタジアムから大学に帰ってきて、軽いミーティングを済ませてからやっと解散になった。

 ミーティングの時に伝えられたが、阿崎は足首の靭帯損傷で全治数ヶ月らしい。


 高東のAチームもすっかり阿崎中心のチームになってたし、今後も天皇杯や大学の大会を控えているからかなりの痛手。

 でもプラスに考えるなら、阿崎が戻るまでは俺一人でどこまでやれるのか試せる。


「よしっ、阿崎の分も頑張るしかない」


 気合いを入れながら俺は大学から出た。

 すっかり日も暮れ外は薄暗くなっている。

 今頃、夜のニュースとかで俺のゴールが流れていたりするのだろうか。


「ゆーたろっ?」


 大学の門の影から急に声をかけられる。

 当然俺を呼んだのは……。


「絢音! 待っててくれたのか⁈」

「うんっ」


 俺が興奮気味に問いかけると、絢音は百点の笑顔で頷いた。

 おいおい喜びすぎだろ俺。

 試合が終わった後からずっと、絢音に会いたい気持ちでいっぱいだったから、つい興奮してしまう。


 いつも変装用のメガネをした絢音は、俺の左手に指を絡めると、手を繋ぎながら俺の隣を歩き出した。


「祐太郎さ、ファンの女の子たちにチヤホヤされてニヤけてたでしょ?」

「ニヤけてない! 俺は絢音が一番大切だし、他の女子のことなんか考えるわけないだろ!」

「わ……分かってるから。ちょっと揶揄っただけなのに、必死すぎ」

「だって絢音はすぐに嫉妬するし、誤解するから」

「してない! ……祐太郎がわたししか見てないことくらい、分かってるから」


 大学から家に帰る道を歩いていると、急に絢音が家とは反対方向に手を引っ張った。


「……ねえ、アソコに寄ってかない?」


 **


 絢音に連れられてやって来たのは、合コンで初めて絢音と出逢った時に合コンから抜け出して来た河川敷だった。

 夜の河川敷には誰も居らず、静寂な空間に近くを走る電車の音がうっすらと聞こえた。


「最初に会った時は、この河川敷に逃げて来たんだっけか」

「まだ2ヶ月前のことなのに……なんか昔のことみたいだね」


 色々と濃厚な時間を過ごしすぎて、もっと長く感じていたが、まだ2ヶ月だもんな。

 あんな普通の合コンに来たのが、元人気アイドルで国宝級の美少女だったんだから、そりゃビビる。


「祐太郎は、わたしで良かった?」

「え?」

「合コンでお持ち帰りしたのがわたしで良かったのかなって」

「当たり前だろ。絢音とあの時出逢えたから俺は……今こうして変われた。だからありがとう絢音」


 俺が感謝を述べると、絢音は照れくさそうにニヤけた。


「そ、そういえば祐太郎は、試合の後に言いたいことがあるって言ってたよね?」

「絢音も言いたいことあるって言ってたよな?」

「……ゆ、祐太郎から言ってよ。男の子なんだからさ」

「ええ……ま、まぁ、いいけど」


「俺、絶対プロになるから……その」


 言え……言うんだ俺。


 絢音に、俺の気持ちを。


「プロになったら……俺たち結婚しよう!」


 い、言えた……。


「そ、それって、プロポーズ」

「ああ、今のうちに伝えておきたくて。俺は結婚考えるくらい、今も絢音と真剣な交際を」

「うん、全部分かってる……わたしも、祐太郎と一生一緒にいたいから」


 絢音のその言葉を聞けただけで、俺は涙腺が崩壊しそうだった。


「ってか、ここまでわたしにデレデレの祐太郎が、他の女で鼻の下伸ばしてたら逆に許さないし。特にゆずちゃんとかで」

「の、伸ばさねえって!」

「どうかなぁ。ゆずちゃんのおっぱいの方が祐太郎は好きなんじゃないの?」

「絢音のが一番好きに決まってる! 形が良いし、大きさも程よくて」

「そんなの力説すんな!」


 絢音は全力で俺の頬をつねった。


「いってて……」

「祐太郎の変態! し、しばらく触らせてあげないっ」

「ええ……」


 今さらそんなことで怒らなくても……。


「で、絢音の話したいことってなんだ? 俺はもう話したから次は絢音の番だぞ」

「う、うん……えっとさ」


 絢音は急に口籠らせながら、話し始めた。


「わたし、アイドル事務所で働くことになったの」


 あ……アイドル事務所⁈


「アイドル事務所って、絢音がアイドルをプロデュースするのか?」

「うん」

「絢音……もしかして、お金のこと心配して」

「お金とかじゃなくて! ……このまま隠居生活してるだけじゃわたしは前に進めないから。祐太郎が毎日前進してるのに、わたしだけ立ち止まったままじゃ、嫌なの!」

「あ、絢音……」

「だから、祐太郎には応援して欲しい」


 絢音にも次の夢が見つかったって事だよな。


「分かった……俺、応援する」

「本当?」

「当たり前だよ。いつも絢音には応援して貰ってるし、何より絢音に次の目標ができたのが嬉しいんだ」

「祐太郎……」


 絢音は目をうるうるさせながら、俺の手をさらに強く握った。


「ねえ祐太郎、好きって10回言って?」

「す、好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」

「今わたしがしたいのは?」

「キス?」

「ぶぶー、キスとハグでしたー」


 絢音はそう言って抱きついてくると、少し背伸びして俺の唇に自分の柔らかい唇を重ねた。

 絢音は愛を確かめるように離れては唇を重ねて、しばらくそれを繰り返すと、いつしか本気のキスに変わっていた。


 **


「いくら人がいないからって本気でキスしすぎだろ」

「だって祐太郎が」

「俺のせいにすんな」

「むぅ……じゃあこの続きはお部屋で、ね?」

「そ……そうだな」


 俺たちは河川敷から離れて再び手を繋ぎ、歩き出す。


 人数合わせで合コンに参加した俺がお持ち帰りしたのは、なぜか余り物になってた元人気アイドルで国宝級の美少女だった。

 その美少女は歌が上手くて、顔だけじゃなくて性格も可愛い。

 あとパンケーキ狂いで、料理は上手いけど、普通の倍以上作る。

 変わってる所もあるけど、そこがまた好きというか。


「祐太郎、わたしのこと幸せにしてね」

「あぁ。約束する」


 生きていれば辛いことや苦しいことがある。

 でも絢音と一緒なら、それも乗り越えられる……そんな自信があった。



(完)


———————————

 えー皆様。


 星野星野ホシノセイヤが大好きなサプライズのお時間がやって参りました。


 せっかくいい感じで完結したのに、作者のコメントとか怠いよ! と思った、そこのあなたに朗報です。


 なんと!!!!!!!



 



「えええええええ⁈⁈マジで⁈」(作者voice)


 コミカライズって漫画になるってことだよな⁈

 槇島や佐々木、藍原や水城(ついでに阿崎)も漫画になるってことだよなぁ!


「最高すぎんだろ!!!」


 書籍化とコミカライズ、この作品はここまで支えてくれた読者様のお力添えのおかけです。

 本当にありがとうございます。


 そしてさらにさらに! ラノベ1巻の発売が


 書籍化された際には、ぜひお手に取っていただけたら幸いです。

 イラストレーター様の絵がとても可愛いので、きっと皆様も見た瞬間に「絢音かわぇぇ!!」ってなります。絶対。


 まずは1巻の発売と続刊! そしてコミカライズの人気爆発を目指し、今後も頑張っていきますので、何卒よろしくお願いいたします。


 とまぁ色々書きましたが、アフターストーリーも不定期で書くのでお楽しみに。

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