29話 ホイッスルが鳴った


 身体を捻りながら、俺が左足から打った矢のようなミドルシュートがゴール方向へ一直線に飛んでいく。


 俺は倒れ込みながらも、ゴールから目を離さなかった。


 これは簡単なシュートじゃない。

 けど、これまでも簡単じゃないことをやって来た。


 絢音が初めて観に来てくれた試合ではポストに激突しながらゴールを決めたし、世代最強のFW・金川流心との対決では、ライン側でなんとか競り勝った。


 今だって……そうだ!


「……行けっ」


 完全に虚をついたセットプレーからのミドル。

 フリーキックに気を取られていたキーパーが反応できるわけもなく。


「……っ」


 これだけ距離があっても、俺には確かに聞こえた。


 ネットが擦れる——その音が。


「これが今の俺、槇島祐太郎の実力なんだ」


「「「「ワァァァァァァアアアッ!」」」」


 スタンドから聞こえる歓喜と悲鳴。

 東京フロンティアからしたら悲劇。


 でも高東からしたら……奇跡だ。


 立ち上がった後のことは覚えていない。

 

「しゃっぁぁぁぁあああ!」


 俺は歓声に酔いしれながら、ただ、ただ叫んでいた。


【東京フロンティア1-2高東大学】


 その後の試合は、1点を守り切る戦術に変わり、高東は1点を守り抜くために、身体を張った。


 そして——。


「終わった……」


 熱狂の東京フロンティアスタジアムに試合終了のホイッスルが鳴り、疲れ切った選手たちはバタバタと倒れ出した。


 もちろん……俺も。


 スタジアムの照明が眩しくて俺は目を細める。


「ディスイズフットボールだ、マキ」


 岸原さんが倒れている俺に手を差し伸べる。


「岸原さん……俺、巧くなったっすよね」

「まだまだだな。御白鷹斗は同じ時期にそれを超えたプレーしてた」

「負け惜しみが過去の教え子自慢とかダサいっすよ」

「うっせー」


 岸原さんに身体を起こしてもらい、俺は岸原さんと向かい合う。


「今日の試合、U20日本代表監督の八代が来てるらしいから、お前はアピール成功だな」

「え、マジっすか」


 俺が聞き返すと、岸原さんはニヤッと新庄並みに白い歯を見せた。


「岸原監督〜、まだ整列終わってないのにピッチ入るのはまずいよー」

「来田うるせぇ。俺は今、マキと話してるんだ」


 俺と岸原さんが話していると、横から来田真琴が入って来た。


星神学園せいじんがくえんのメンツ揃い踏みだねっ」

「来田さん……」

「おめでとう後輩くん、君の勝ちだ」


 俺はずっと憧れだった来田真琴というストライカーと握手を交わす。


「岸原監督さ、この後輩くん特別指定にしてあげたら?」


 お、俺が東京フロンティアの特別指定選手……⁈

 特別指定選手とは、大学在学中の選手でも、プロの試合に登録できる契約のことだ。


「ダメだ。マキはまだその段階にない」


 岸原さんはそう言い捨てて、ピッチからベンチへと戻っていく。


「岸原さん!」

「ん?」

「前に岸原さんから貰った手紙には、一緒に仕事したいって書いてありました」

「…………」


「すぐ行くんで。待っててください」


「……自分に自信待てたなら良かったよマキ」


 岸原さんはそう言い残して行ってしまった。


「さ、ボクたちも並ぼっか」

「はい」


 試合後の整列が終わり、高東の選手たちはアウェイスタンドへと挨拶に行く。


「「「「「槇島くーん」」」」」」


 女子たちの黄色い声が聞こえたが俺はそれより、絢音を探した。


「……あ、いた」


 絢音は泣きながら、藍原に鼻をかんで貰っていた。

 ったく子どもかよ……藍原より絢音の方が歳上なのに。


 俺はとりあえず、小田原ユナイテッド戦の時のようにハートを絢音の方へ送った。

 すると絢音も泣きながら、手でハートを作って送ってくれる。

 なんつーか、試合に勝った以上に嬉しいかもしれない。


「槇島選手、槇島選手」

「え?」


 俺が一人げにニヤけていると、テレビのADみたいな格好をした男性に呼び出され、俺はマイクを持ったインタビューアーの女性とカメラマンのいるお立ち台まで移動する。


『皆様! 今日のMVP、槇島祐太郎選手のインタビューです!』

「お、俺なんすか?」


 そう答えたらスタジアムの観客席から笑いが起こった。


『と、とにかく! 槇島選手、1点目の0度からのシュート、そして2点目の利き足とは逆の足で放ったミドルシュート、どちらも練習の形だったのでしょうか?』

「全部が練習の形だったわけじゃないですけど、練習からやって来たことの積み重ねが本番で生きたと思います」

『あの東京フロンティアからジャイアントキリングということで、間違いなく槇島選手がスポーツ紙の一面を飾ると思いますが、槇島選手はイケメンですし、女性ファンが増えそうですね?』


 おいおい、どんな質問だよ。

 どうせインタビューするなら、もっとサッカーの事聞いてほしいんだけどな。


「まあ……俺を通して高東のサッカーを見てもらえたら嬉しいです」

『ありがとうございます! では最後に、現在のところ天皇杯得点王です! この大会の得点王そして天皇杯優勝を目指しますか?』


 そうそう、こういうのでいいんだよ。

 俺はマイクを手に取って、東京フロンティアのサポーターの方を向く。


「目指します……得点王も天皇杯も獲って、恩師である岸原監督、そしていつか、自分を中学まで育ててくれた、東京フロンティアさんで恩返しできるように頑張ります」


 東京フロンティアのサポーターは、俺に大きな拍手を送ってくれた。


「槇島くーん! 付き合ってー!」

「槇島ぁぁあ待ってるぞー!」

「来田とツートップ組んでくれー!」


 インタビューが終わっても、東京フロンティア側から歓声が止まなかった。




—————————

試合が終わりもうすぐ最終回ですが…………色々と楽しみにしててください。(ニヤニヤ)

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