23話 最後の戦い05


 6月18日。18時キックオフの東京フロンティアvs高東大学の天皇杯3回戦。


 場所は東京フロンティアスタジアム。


 前半3分、日本代表の来田真琴のゴールを皮切りに、試合は攻め合いのオープンな展開に変わる。


 そして前半18分——。

 天才の産声が響いた瞬間だった。


 槇島祐太郎、18歳。

 彼は優れたスピードがあるわけでも、恵まれた体格を持っているわけでもない。

 パスも下手、トラップはもっと下手、ドリブルも上手くない。

 それでも、たった一つの武器である、ゴールへの嗅覚のみを信じて、この大学サッカー界に足を踏み入れた。


 高校時代は名門星神学園で9番を背負ったものの、一度も全国のピッチには現れなかった星神学園・無冠のストライカー。


 そんな彼がこの試合で見せたプレーは全国に彼の名前を轟かせるワンプレーになった。


『……阿崎清一、槇島祐太郎の2名を呼ぶ』


 ✳︎✳︎


 俺はずっと、観ている側だった。


 東京フロンティアに憧れて、来田真琴の活躍を観て、俺はいつかここでサッカーするんだと思ってボールを蹴った。


「……入れ、入って、くれ」


 0度から放ったシュートは、クロスバーの内側を叩き、キーパーの頭上を越えてそのままネットを揺らした。


 一瞬、スタジアムが静まり返る。


 無理もない。

 俺が今やったプレーはとんでもないプレーだ。

 そんな自覚があるくらい、俺は頭の中で描いた理想のプレーを体現できた。


 なんだこれ、気持ち良すぎだろ……。


【東京フロンティア1—1高東大学】


「槇島ぁぁぁぁああ!」


 俺が喜ぶよりも先に、ニッコニコの阿崎が俺に飛びついてきた。

 その時になって、やっと俺は自分が得点したことを理解した。


「阿崎……俺、決めたんだよな」

「あったりめぇだろ! ってかなんだよさっきのターン! いつもはド下手くそなのに、エグすぎんだろ!」

「全部、絢音のおかげだ」

「ラブパワーってやつ?」

「違っ……いや、違わねえか」

「うっわ、リア充マジうぜえ」


 同点なので、俺はゴールパフォーマンスをせずに自陣に戻る。

 戻っている際、東京フロンティアベンチの前を通りかかった時、岸原さんと目があった。


 俺が小さく会釈したら、監督は白い歯を見せた。


 俺はアウェイ側の高東大学スタンドの方に向けて、軽く手を叩いて声援に応える。


 今のゴールは岸原さんへの恩返しであり、絢音へのプレゼントだ。

 ここからじゃあまり見えないけど、きっと喜んでくれるよな。


「後輩くん」


 センターサークル付近で、来田真琴とすれ違う。


「君、御白鷹斗によく似てるよ」

「俺が、御白さんにですか?」

「……君は、彼みたいになれるかもね」


 来田さんは、そのままセンターサークルでボールを受け取り、セットしていた。

 俺が……世界一のストライカーに……。

 不可能はない、もんな。


 じゃあまずはこの試合……勝たせてもらう。


(予定では100話のタイミングで完結させます。試合は多分次回で終わります)

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