6話 妹ちゃんと二人でお風呂タイム
水羽ちゃんに手を引かれ、スーツケースから着替えを出してから、再び一緒に古いお家のお風呂場まで来ると、水羽ちゃんは何の恥じらいもなく服を脱いで着けていた下着も脱ぎ始める。
水羽ちゃんはサイドテールの髪を解いて流す。
日に焼けた水羽ちゃんの肌———それと、
「ん? どしたん絢音ちゃん?」
自分の胸元を見下ろして、もう一度水羽ちゃんの方を見る。
「み、水羽ちゃんって、高校1年生……なんだよね」
「そだよー」
「…………」
あたしは自分の胸に手を当てて考える。
なんだろう……この敗北感。
さっきまでの部屋着じゃ分からなかったけど、脱ぐと……大きい。
ゆずちゃんよりは小さいけど、程よく実ったその果実。
今の高校生って発育良すぎでしょ。
「絢音ちゃん早く入ろうよー」
「え、ちょっ」
裸の水羽ちゃんは一瞬であたしの背中を取ると、服を脱がそうとしてくる。
「わ、わぁ……あーし、国宝の肌みちゃった。マジ綺麗ぇ……」
「こ、国宝じゃないから!」
あたしは自分で服を脱ぎ、水羽ちゃんと一緒に湯気の漂うお風呂の中へ足を踏み入れた。
木の落ち着く香りに支配された広めのお風呂で、ヒノキの浴槽がこだわりを感じさせる。
お風呂に入るとすぐに水羽ちゃんから「先に洗ったげる」と言われたので、お言葉に甘えて先に鏡の前のバスチェアに座らせてもらった。
水羽ちゃん、最初は怖い感じのギャルかと思ってたけど、意外と優しい子で良かった。
せっかく水羽ちゃんと2人きりなんだし、幼少期の祐太郎のこととか聞いてみよっかな。
「ねぇ、水羽ちゃん」
「ん? なに?」
「昔の祐太郎のこと聞きたいなぁって」
「あーやっぱそれ気になる?」
「うんっ」
「昔のおにぃかぁ……」
ボディスポンジを動かす水羽ちゃんの手が止まる。
「……今に比べると結構大人しかったかな。サッカー始めるまではよく本とか読んでたし」
「ほ、本⁈ 祐太郎が⁈」
「意外っしょ? おにぃって、昔は運動も勉強もできた方だったから女子にモテモテでさー。あ、でも、同級生の子たちには興味なかったんだよ? なんでかわかる?」
「隣の家の大学生のお姉さんが好きだったんでしょ?」
「絢音ちゃんそれ知ってんの⁈ なーんだ、話のオチ無くなっちゃったー」
初恋の相手が大学生のお姉さんだって話、本当だったんだ……。
冗談であって欲しいという気持ちがどこかにあったからか、少し悔しい気もする。
「ま、そんなカッコよくてサッカーも上手いおにぃだけど、昔からどっか心が弱いとこあってさ。高二の時にね、サッカーから逃げて帰ってきちゃった事があんの」
「……祐太郎がサッカーから逃げる?」
「考えられないっしょ? それも理由が「練習がキツイ〜」とか「友達と喧嘩した〜」とかじゃなくて、『監督の期待に応えられない自分が嫌になった』なんだって。まじめすぎっしょ?」
そういえば前に岸原監督と祐太郎が会った時、昔に何かあったみたいな雰囲気だったけど……。
「でも結局その監督とはちょっとしたすれ違い? みたいな感じで解決したらしいんだけど、大学行ってもおにぃがサッカー続けるって聞いた時、あーしは嬉しかった反面心配な気持ちにもなった。また逃げたくなるくらい辛い事が、おにぃを待ち構えてるんじゃないかって」
「そっか。水羽ちゃんは心配してたんだね、祐太郎のこと」
「うん……。でも、絢音ちゃんみたいなしっかりしたお姉さんの彼女がいるおかげで、おにぃも大学で頑張れてるみたい。だからあんがとね、絢音ちゃん」
「……み、水羽ちゃん」
感動したあたしは、バスチェアから立ち上がると衝動的に水羽ちゃんを抱きしめていた。
「やっ、くすぐったいんですけどっ!」
「できた妹ちゃんだなぁ〜、もー」
身体だけじゃなくて、心まで温かくなった。
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