最終回 告白とキスと、永遠の愛を。(付き合う前まで編完結)


 試合後のミーティングが終わり次第、誰よりも早く荷物をまとめて、高東の赤ジャージを羽織るとスタジアムから飛び出した。


 いつの間にか夕日が顔を出していて、茜色の空の下を試合の時くらいの全力ダッシュで駆け抜ける。


 早く、佐々木に会いたい。

 俺はその一心で待ち合わせ場所である、スタジアムの近くにある聖火ランナーのおじさんの像の前にやってきた。


 まだ佐々木は来てない……か。


 息を整えつつ、佐々木に想いを伝える練習を繰り返す。

 大丈夫だ。ちゃんと気持ちを伝えれば、佐々木は答えてくれる。


「——槇島?」


 背後から佐々木の声が聞こえる。

 振り向くと、そこにはメガネもマスクも外した佐々木が立っていた。


「えっ、変装しなくても大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。もう人も少ないから……」


 銅像の周辺を見渡すと、佐々木が言うようにランニングしている人が度々通るくらいだった。

 変装無しの佐々木とこうやって顔を合わせるのは……キスの日以来だ。


「Aチーム初ゴール、おめでと」

「あ……ありがとな」

「凄いゴールだったよ! ボールがポンポーンって回って、キーパーも動けないシュートがドーンって! あたし、感動しちゃった」

「そ、そうか……俺も、ちゃんとゴール決められて良かったよ」


 佐々木と一緒に喜び合える幸せを噛みしめながら、俺は本題に入る。


「俺、佐々木に伝えたいことが……あって」

「うん。点決めたら話すって言ってたもんね」


 い、言うんだ、俺……っ。

 震える身体を手でグッと抑えながら、佐々木の目だけを見つめる。


「お、思い返せばこの1ヶ月、ずっと佐々木が俺の原動力だったって言うか、佐々木がいたから、ここまで来れた。俺の背中を押してくれて、本当にありがとう」

「……こっちこそ、無理ばっか言ってごめんね。プレッシャーだったよね?」

「そんな事ないっ。俺は……」


 一度、目を閉じてこれまでのことを思い出す。

 佐々木と過ごした時間は、全て今の俺に繋がってる。だから——


「これからもずっと、佐々木には俺の隣にいて欲しい……。ずっとお前と一緒にいたい」


「……それって」




「好きだ、佐々木。付き合ってくれ」




 口にした瞬間、甘酸っぱい感情が溢れてきて、顔も火だるまになりそうなくらい熱くて真っ赤になっていると思う。

 恥ずかしくて限界で、顔が下を向くが、やっぱり佐々木の返事を聞きたくて、顔を上げた瞬間。


「目、瞑って……槇島」


 佐々木のひんやりとした両手が、熱くなった俺の頬を包み込み、佐々木は背伸びをしながら俺の顔に自分の顔を……っ⁈


「……んっ」


 き……す……。


 唇と唇が重なり合って離れない。

 いや、離れたくない。

 佐々木の唇を、もっと感じていたい。

 俺は自分の手を佐々木の腰に回して、佐々木の身体を引き寄せて抱きしめる。


 お互い、酸欠になるんじゃないかってくらい長いキスをして……苦しくなって離れてから、お互いに目を見合わせた。


「……あ、あたしも、ずっとずっと前から、槇島のこと、好きだったもん」


 泣きながら佐々木は言う。


「ずっとずっと前……ってことは、合コンよりも、前?」

「当たり前じゃん! いい加減気づいてよ、もー!」

「じゃあ、やっぱり佐々木の初恋の相手って」

「初恋の相手は、槇島祐太郎! 元星神学園高校の9番!」


 佐々木は涙声でいつもみたいに怒っていた。


 佐々木はここ三年間のことを全て話してくれた。

 佐々木の初恋相手が俺だった事は、驚き以上に嬉しいんだくど、なんで俺なのかイマイチ分からないところもあった。


 でもまぁ、結果オーライといったところだろう。ちゃんと告白できて良かった。


 俺は安堵で胸を撫で下ろし、メガネと黒マスクを付け直した佐々木と恋人つなぎしながら公園を歩く。


「ね、槇島。付き合う前に確認したいんだけど」

「確認って?」

「あたしは元アイドル、元芸能人だから引退しても顔とかも隠さなきゃいけない……そんな曰くつきのあたしで、本当にいいの?」

「何を今さら。俺が好きなのは……いつも大人ぶってる割にめちゃくちゃ子供っぽくて、パンケーキが何よりも大好きで、料理は上手いけど作り過ぎちゃって1食で冷蔵庫を空にする。そんな佐々木絢音のことが好きなんだ。元アイドルとか、関係ない」

「……っ」


 佐々木は呆気に取られたような顔をしてから、段々とニヤケだす。


「そんなにあたしのこと、好きなんだ?」

「さっきから言ってるだろ」

「綺羅星絢音じゃなくて、佐々木絢音が、好きなんだね?」

「当然だ。だって俺とずっと一緒にいたのは、佐々木絢音だろ?」

「……ふふっ」

「なんで笑うんだよ」


「槇島のそういうところ、大好き」


 佐々木から好きって言われるたびに、心臓がドキッとした。

 言われ慣れてないからなぁ……。


「今日ね、『点決めたら一緒にお家帰ろう』って電話で言ってたからちゃんと着替えも持ってきたんだよ? 駅のロッカーに入ってる」

「用意周到だな。別に服くらい貸すのに」

「ゆ、祐太郎に、あたしのパジャマ見せたかったから」

「……そっか。じゃあ今夜はじっくり絢音のパジャマ姿を見せてもらうとするかな」

「うんっ」


 絢音は嬉しそうに頷いて、俺の肩に頭を擦り付けてきた。



(付き合うまで編【本編】完結)


 ——

 この作品は12月にサッカーの某世界大会が始まるとのことで、サッカーとラブコメの融合をテーマとした作品でした。

 連載から数週間でカクヨム様のラブコメ日間・週間で1位をいただき、さらに書籍化まで決定するなんて、思っても見なかったです。読者の皆様には、本当に、本当に感謝しております。

 まずは、コメントを毎回くださる皆様、ちゃんとお一人お一人の感想に目を通し、この人は誰々推しなんだー、とか、阿崎がクソ叩かれてて爆笑したりとか凄い楽しんでいます。

 あと、毎月ギフトを送ってくださる方々。

 本来ならお名前をあげて感謝を申し上げたいのですが、プライバシーのこともあり、お名前は控えた上で感謝の気持ちを伝えさせていただきます。

 いつも本当にありがとうございます。執筆のモチベーションになっています!


 とまぁ、こんな完結っぽい後書き書いてるところ悪いのですが、この作品はまだ続くので、付き合い始めてからの2人を今後も何卒よろしくお願いします。

 あと、作者フォローしていただけたら幸いです。では皆様良いお年を。



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