57話 全員集合!!
試合が始まると、あたしがこれまで観てきたBチームの試合とは段違いの大きな声援がピッチに送られていた。
プロとAチームの試合だし、会場の雰囲気も全く違う。前に槇島と一緒にプロの試合を見に行った時みたいな感じ。
「絢音ちゃん見て見て、金川流心だよ」
「金川、りゅーしん?」
ゆずちゃんが指を差す方向を見ると、筋骨隆々のボディビルダーみたいな選手がいた。
ユニフォームが今にも破れそうなくらいパツパツで……。
「あの人、誰?」
「絢音ちゃんインタビューしてたじゃん! 選手権でさ!」
「インタビュー? あたしが?」
「ええ⁈ 覚えてないの⁈」
「……う、うん」
選手権の時は槇島(星神学園)が選手権に来なかった事がショックで、他の事をあまり覚えていない。
「絢音ちゃんって高校サッカーファンなんじゃ?」
「ご、ごめん……実はそれ、嘘で」
「え?」
「あたし、槇島の星神学園のことしか知らなくて……。もっと言うと、槇島のことしか知らなかったと言うか」
「槇島くんのことだけって……もしかして絢音ちゃん、アイドルの時から槇島くんのこと……?」
あたしは、素直に頷く。
「お、重いよねあたし! 追っかけみたいでキモいよね! ご、ごめん、やっぱ忘れ」
「そんなこと無いよ」
言いながら、ゆずちゃんは優しい手つきであたしの頭を撫でてくれる。
「一途に槇島くんのことだけを想っていたから、その気持ちに槇島くんは応えてくれたんじゃないかな」
「……ゆずちゃん」
「絢音ちゃんは、凄いんだよ」
ゆずちゃん……あ、あたしよりお姉さんしてるじゃんっ! あたしの方が歳上なのに!
「あ、あたしもゆずちゃんみたいなお姉さん属性欲しい!」
「急にどうしたの絢音ちゃん⁈ お、お姉さん属性って何?」
「ご教授ください!」
「そ、そんなこと言われてもーっ」
「楽しそうだな嬢ちゃんたち」
横から聞こえた渋い声に目を向けると、そこにはボロボロな茶色のコートを着た見慣れたおじさんと——。
「あっ! 絢音ちゃんだっ!」
赤いカチューシャを付けた可愛らしい女の子がおじさんの背中からひょこっと現れて、あたしの膝の上に座る。
「えへへ、また絢音ちゃんに会えちゃった」
「しずくちゃん? それに、岸原監督……」
「嬢ちゃんとはよく会うなぁ。おっと、隣のお嬢さんは初めましてか?」
岸原監督はサングラスを外すと、ゆずちゃんの方を見る。
「あ、絢音ちゃん、この方は!」
「うん。星神学園の元監督で」
「き、岸原、監督っ」
ゆずちゃんは「感動です!」と言っておじさんと握手していた。
「なんだそっちのお嬢さんは俺のこと知ってんのか?」
「もちろんです!」
「いやー、こんな若い女の子にまで認知されてるとか嬉しいねぇ。ま、茶髪のお嬢ちゃんは槇島と俺が話すまで気づかなかったみたいなんだけどな」
あ、あたしだって、最初から気づいてたっての。
岸原監督はあたしの右隣座って、いつものスキットルをぐびっと呷る。
「今日も槇島の試合観にきたんですか?」
「いや、今日はスカウトの仕事じゃなくて完全にプライベートだよ。うちの鬼嫁がたまには家族サービスしろってうるせーから仕方なく娘を連れてきた」
「絢音ちゃんっ遊ぼー」
「う、うん」
家族サービスするなら遊園地とか連れて行けばいいのに。
「絢音ちゃんっ。この前一緒にいたボディガードのお兄ちゃんはー?」
「えっと……お兄ちゃんはね」
あたしはピッチを指差す。
「あそこで、戦ってるんだよ」
✳︎✳︎
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます