48話 佐々木の熱視線


 わたし……こんなことしてていいのかな。


「いやぁ。見かけによらず藍原さんも"ワル"だねー」

「だ、だって……。あんなこと言われたら誰だって気になるし」


 昨日阿崎くんから貰った水族館のチケット。

 2人で水族館は流石に……と思い、今朝の練習の前に阿崎くんに返そうと思ったけど。


「実は今日、そこの水族館で佐々木さんと槇島がデートするらしいんだけどー」


 ……と言われ、後ろ髪を引かれる。

 悪魔(阿崎くん)の囁きが、わたしの心を揺さぶった。


「デート……?」


 槇島くんと佐々木ちゃんが……? やっぱりあの2人……。


「まあいいや。無理言ってごめんね藍原さん。また今度別の場所に」

「い、行く」

「ん?」

「……水族館、行く」


 多分、わたしは阿崎くんの手のひらで踊らされている。

 そんなこと判ってるけど……あの2人の関係が少しでも判るなら……。


 ニタニタした笑顔で一方を見つめる阿崎くんの目線を追うと、離れた水槽にあの2人の姿があった。

 阿崎くんの角度からはよく見えてるみたいだけど、隣に立つわたしからは少し見えづらい。

 さっきから向かい合って何か喋ってるみたいだけど。


「にしても藍原さんって、槇島が絡むと積極的だよなー。マネージャーの誘いもほぼ二つ返事だったし、今回だって本当に来るとは思ってなかった」

「そ、それは……」

「好きだから?」

「……好きとは、違うと思う。わたしはただ槇島くんを支えたいと思っただけで。マネージャーになったのも、槇島くんが目的とかじゃなくて、槇島くんが選手として——」

「あのさ」


 気持ち悪い顔をしていた阿崎くんが一転、サッカーをやってる時みたいな真剣な面構えに変わる。


「それを、好きって言うんじゃね?」


「え……」

「あーやっべ、佐々木さんに気づかれちゃったみたいだ。……槇島も男見せたみたいだし、これ以上接近するのはやめとくか」


 阿崎くんは頭の上で手を組みながらつまらなそうな顔をする。


「ま、結果オーライってやつ? さぁ〜藍原さん、俺たちも水族館回ろっか」

「もしかして阿崎くん……最初からそれが目的だったんじゃ」

「安心して槇島たちとは出くわさないよ。俺の空間把握能力使えば、あいつらの位置とか一瞬で分かるし」

「サッカーの才能をこんな事に使うなんて……」


 呆れる。でも阿崎くんって、何でこんなに槇島くんのこと……気にかけてるんだろ。

 今回はわたしを釣るため? に槇島くんたちを利用したのかもしれないけど……ちょっと不思議。


 ✳︎✳︎


 佐々木と手を繋ぎ直してからというもの、会話が少なくなった。

 俺が無理矢理繋ぎ直したから引かれた? と思ったが、その割に佐々木は指を絡めてくるし……これって一体何のサインなんだ……。

 スマートウォッチで心拍数を確認すると、一目でわかるくらいに俺は緊張していた。


「ね、シャチ見にいこーよ」

「……お、おう」


 俺たちはシャチのパフォーマンスを見るために屋外のステージに出て半円状の観客席に座る。

 バイオリンの音に合わせてパフォーマンスを繰り返すシャチ。

 水飛沫がかかりたくないので、ちょっと上の席に座ったけど……佐々木のやつ、ちゃんと見えてるかな——って。


 佐々木の方を向くと、佐々木と目が合う。


「どした?」

「な……なんでもない!」


 やっぱ佐々木の様子がおかしい。やけにとろんとしてるというか。

 まぁ、当の俺もニヤけるのを我慢してるのだが。


 繋いだ手に熱が籠る。

 手汗キモいとか思われてないか心配すぎる。

 そういや……今もそうだったが、さっきから佐々木がシャチじゃなくて俺の方ばっか見てないか?


 謎の熱視線で身体中が熱くなる。

 シャチを見ろ、シャチを!


「……シャチ、すっごい飛んでるね」


 お前さっきから見てねーだろ! こっち見ながら浅い感想言うな!


 佐々木のやつ本当にどうしたんだ……?


 ✳︎✳︎


———

次回、かなりストーリーが進展…?

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