46話 藍原さんと佐々木ちゃん


 鈍い槇島に呆れながらあたしは藍原さんを守るために阿崎を追い払った。


「あ、ありがとう。佐々木ちゃん」

「嫌なら嫌って、言った方がいいよ」

「うーん……そう、なんだけどさ」


 藍原さんは困り眉になりながら、作り笑いを浮べる。

 ファミレスの時も思ったけど、はっきり嫌って言えばいいのに、遠回しに断っているから埒が開かないと思う。


「藍原さんは阿崎のこと嫌いなんでしょ? ならはっきりそう言えばいいじゃん」

「ちょっと苦手ってだけ。あんまりストレートに言うと阿崎くんに悪いし」

「あんなタラシ男に情けとか要らないでしょ」

「そうかなぁ、ははは」


 藍原さんは苦笑いしながら話を流した。


「佐々木ちゃんはいいよね……」

「なにが?」

「あっ、えっとね……佐々木ちゃんはハキハキ物が言えていいなぁって思っただけ。わたしは断るのとか苦手だから」


 確かに、藍原さんは優しすぎるから常に周りを勘違いさせているのかもしれない。

 ……どっかの槇島みたいでちょっとムカつく。


「さっきもね、阿崎くんからこんなモノを渡されて……」

「こんなモノ?」


 藍原さんはポケットから一枚のチケットを取り出した。


 ……え、これって。


「水族館のチケットらしいんだけど……明日一緒に行かないかって」

「へ、へへ、へぇー」

「佐々木ちゃん? どうしたの?」

「な、なんでもないよ」


 どう言うこと?

 モジャモジャはチケットが余ったからあげるって言ってたのに……。


 あたしは後ろで槇島と話し込む阿崎を睨みつける。


 一体、何を考えているの……?


 ✳︎✳︎


 阿崎と俺は午後の試合も全試合に出場し、難なく快勝。

 2日目、Aチーム以外は負け無しで、怪我なく無事に終了した。

 これであと1日。

 Aに上がれるか微妙なところだが、今やれることはやった。


 夕方、ホテルの部屋に戻ると阿崎はまたどこかへ消えていた。

 チャン先輩もまだ帰ってきてないので、俺は1人ベッドの上に身体を投げた。


 ちょうどいい、少し考えをまとめよう。


 佐々木の初恋相手は、比較的高身長で歳は近い。

 3年前の仕事で見かけたらしく、面識はなくて、海外留学と関係ある?


 ざっとこんなところか。


 性格以外の特徴は、なんとなく金川っぽいが、金川だとすると、どうしても海外留学の理由が噛み合わない。


「そもそも男のために海外留学したっていうのが間違いの可能性もあるよな。それを裏付けるのが水城さんが聞いた噂話だし」


 となると……金川以外の可能性も出てくる。


 3年前、綺羅星絢音は星神学園に来てたんだよな。

 もしそこで見たのが俺で、佐々木は俺を追いかけるために1年遅らせて高東大学に来た、とかなら……いいのにな。


 キモい妄想しすぎだよな。

 佐々木が隣にいること自体、奇跡みたいなものなのに、高校サッカー界で落ちこぼれた俺が佐々木の初恋相手なんてあり得ないだろ。


 合コンで元アイドルと出会うっていう奇跡が必然なわけがない……んだが、よく考えると2回も元アイドルと出逢ってるんだよな。


 それも、元Genesistarsの2トップ。


 これって、本当に偶然なのか……?


 難しいことを考え始めたその時、スマホに着信が入った。


「佐々木から?」


 電話に出ると、佐々木が「今大丈夫?」と聞いてきたので、「大丈夫だ」と返事する。


『あの……ね、明日の午後って、暇?』

「合宿は午前で終わるし暇だが」

『だったら、その……一緒に、水族館とか、行かない?』

「す、水族館⁈ パンケーキにしか目が無いお前が、急にどうしたんだよ」

『あっ、あたしのこと甘党の食いしん坊みたいに言わないでよ!』


 その通りだろ。


「水族館に行きたいならいいけどさ。何か目当ての魚でもいるのか?」

『目当てとかはないけど……せっかくのゴールデンウィークだし、どっかに行きたかったって言うか。それに水族館は暗がりで顔バレとかもないと思うし、ちょっと人が多くても大丈夫かなって』

「確かに、水族館に来たのに魚より他人の顔をジロジロ見る奴はいないか。よし、それなら明日の昼過ぎくらいに行くか?」

『うん!』


 その後も今日の試合のこととかを話して電話が終わると、俺は天井を見上げた。


「水族館デート、か」


 ✳︎✳︎

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